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特集 小さな挑戦者たち−木更津社会館保育園− |
「森・里山の保育−すがすがしい子供たち」
木更津社会館保育園園長 宮崎栄樹さん |
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腹八分がいい |
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育児、教育の最大の目的は、人の情緒・意志力を育てることです。本人が感じ意志する前にその希望が満たされ、本人が不満を覚える前に、不満が解消され続けるとしたら、人は自ら感じ意欲し意志することを止めます。意志なき木偶(でく)の坊、ロボットとなります。命令指示がなければ動けず、意欲せず、感情さえも曖昧(あいまい)になります。笑わず、怒らず、泣くこともない。微笑(びしょう)という極上の表情から遠ざかって、人は応答性を失い、不気味な無表情となります。
木更津社会館保育園「森・里山の保育」を始めて数年の頃、私は、緑が一杯のT保育園に寄りました。先代の園長先生が、手塩にかけて作りあげたその保育園の、落ち着いた雰囲気を確かめたくなったのです。うかがったのは夕方の保育時間でした。部屋の床はオモチャ類で埋めつくされていました。木製やプラスチックの美しいオモチャが、使い切れないほどに用意されていました。その情景は、まさに豊かな国日本そのものです。私は、「おかしい。前は、もう少しオモチャの量が少なかった」とつぶやいたものです。
腹八分を、遙(はる)かに超すオモチャを与えられたその保育園の子どもたちは、争わずせり合わず、静かに遊んでいます。不満のない満腹状態。ストレスがまったくない安心状態。とろんとした目のお姫様たちと王子様たちが、そこにいました。「余は満足じゃ」と五歳児の目が言っていました。
「この度をこした満足感が、日本の子どもたちの心を腑抜けにしている。」と私は思っています。腹八分という適正レベルを維持することは、とても困難なことです。注文される前に、「消費者がまだ気付いていない欲求を満たすことは、サービスの理想型だ」と専門家たちは書いています。「消費者が気付いていない欲求を掘り起こすことが、商売の極意だ」とも言われます。商売はそのとおりです。しかし、育児、教育は違うのではないでしょうか。
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