母子健康協会 > ふたば > No.73/2009 > 特集 小さな挑戦者たち−木更津社会館保育園− > 「森・里山の保育−すがすがしい子供たち」 > 腹八分がいい
特集 小さな挑戦者たち−木更津社会館保育園−
「森・里山の保育−すがすがしい子供たち」
木更津社会館保育園園長 宮崎栄樹さん



腹八分がいい


 育児、教育の最大の目的は、人の情緒・意志力を育てることです。本人が感じ意志する前にその希望が満たされ、本人が不満を覚える前に、不満が解消され続けるとしたら、人は自ら感じ意欲し意志することを止めます。意志なき木偶(でく)の坊、ロボットとなります。命令指示がなければ動けず、意欲せず、感情さえも曖昧(あいまい)になります。笑わず、怒らず、泣くこともない。微笑(びしょう)という極上の表情から遠ざかって、人は応答性を失い、不気味な無表情となります。
 木更津社会館保育園「森・里山の保育」を始めて数年の頃、私は、緑が一杯のT保育園に寄りました。先代の園長先生が、手塩にかけて作りあげたその保育園の、落ち着いた雰囲気を確かめたくなったのです。うかがったのは夕方の保育時間でした。部屋の床はオモチャ類で埋めつくされていました。木製やプラスチックの美しいオモチャが、使い切れないほどに用意されていました。その情景は、まさに豊かな国日本そのものです。私は、「おかしい。前は、もう少しオモチャの量が少なかった」とつぶやいたものです。
 腹八分を、遙(はる)かに超すオモチャを与えられたその保育園の子どもたちは、争わずせり合わず、静かに遊んでいます。不満のない満腹状態。ストレスがまったくない安心状態。とろんとした目のお姫様たちと王子様たちが、そこにいました。「余は満足じゃ」と五歳児の目が言っていました。
 「この度をこした満足感が、日本の子どもたちの心を腑抜けにしている。」と私は思っています。腹八分という適正レベルを維持することは、とても困難なことです。注文される前に、「消費者がまだ気付いていない欲求を満たすことは、サービスの理想型だ」と専門家たちは書いています。「消費者が気付いていない欲求を掘り起こすことが、商売の極意だ」とも言われます。商売はそのとおりです。しかし、育児、教育は違うのではないでしょうか。




母子健康協会 > ふたば > No.73/2009 > 特集 小さな挑戦者たち−木更津社会館保育園− > 「森・里山の保育−すがすがしい子供たち」 > 腹八分がいい
事業内容のご紹介 協会の概要活動の概要設立の経緯協会のあゆみ健康優良幼児表彰の歴史
最近の活動のご紹介
小児医学研究への助成 機関誌「ふたば」の発行シンポジウムの開催 Link:Glico