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幼稚園・保育園に通う年齢のこどもの腎臓病 |
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東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授 五十嵐 隆 |
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2 ネフローゼ症候群 |
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食物の蛋白質は消化管でアミノ酸に分解されて腸から吸収され、肝臓で再び蛋白質に合成されます。ネフローゼ症候群とは肝での蛋白質合成能を上回る程の多量の蛋白が尿中に失われる結果、低蛋白血症とむくみが見られる腎臓病です。肝臓での代謝が亢進する結果、血中のコレステロール値も上昇します。
小児のネフローゼ症候群の原因のうち約九割を占めるのが糸球体血管の表面を覆う上皮細胞の変化以外に組織学的変化の少ない微小変化群ネフローゼ症候群です。その他に頻度は少なくなりますが、巣状糸球体硬化症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、炎症性疾患、遺伝性疾患、先天性・乳児ネフローゼ症候群、薬剤、感染症などもネフローゼ症候群の原因になります。
微小変化型ネフローゼ症候群では血尿は軽度かあるいは見られず、大量の蛋白尿が見られ、組織学的に糸球体血管上皮細胞の癒合以外の病理学的異常がなく腎機能の長期予後が良好な腎臓病です。その九割以上がステロイドに反応し蛋白尿が消失します。これを寛解と言います。しかし、寛解してもその後に約七割が再発(再び蛋白尿が出現すること)し、約1〜2割がステロイドホルモンの依存性(ある程度の量のステロイドホルモンを飲んでいないと蛋白尿が陰性の状態を維持できないこと)となります。
ステロイド反応性ネフローゼ症候群とはステロイドによって蛋白尿が消失するネフローゼ症候群のことで、組織学的には九割以上が微小変化型で、残りがメサンギウム増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、膜性腎症などによります。従って、臨床上ステロイド反応性ネフローゼ症候群とはほぼ微小変化型を意味します。
一方、ステロイドにて寛解が得られない(これをステロイド抵抗性と呼びます)かステロイド依存性という臨床的特徴を持ち、巣状分節状に糸球体係蹄が硬化する病変を特徴とする疾患が巣状糸球体硬化症です。本症の多くは原因がわかりませんが、常染色体劣性、常染色体優性の本症の一部は上皮細胞を構成する蛋白の異常が原因であることがわかってきました。
【症状】
多量の蛋白尿が出る結果、低蛋白血症によるむくみが見られます。眼瞼・下肢脛骨前面のむくみ、腹水によるお腹のはれが見られます。全身にむくみがでると、肺に水がたまり(胸水)呼吸が苦しくなります。下痢、食欲低下、腹痛も見られます。
微小変化型ネフローゼ症候群の好発年齢は3〜6歳で、男女比は約2:1です。年長児になるほど、微小変化型が占める割合は減っていきます。血尿は発症初期に軽度みられる事がありますが、普通はあまり明らかではありません。蛋白尿の主体はアルブミンです。
【治療】
初発時は入院して治療を行いますが、再発の場合は外来で治療することが少なくありません。
重症のむくみが見られる時は安静としますが、生活上の日常動作はできるだけ制限しないことが骨粗鬆症を防止する上で大切です。食事のカロリー、蛋白は年齢相当分かその八割程度に減らします。シャワーや入浴で皮膚の清潔を保ち、感染の予防に努めます。浮腫があると皮膚の細菌防禦能が低下し、病気による低ガンマグロブリン血症、使用する免疫抑制薬などの影響もあり、肺炎球菌による感染症の合併が高いことが特徴です。虫歯の治療や抜歯の当日には心内膜炎、脳膿瘍などの予防を目的に抗生剤を投与するのが安全です。
むくみがひどいときには食塩の摂取を制限します。1日三gまで野食塩制限を行ってもむくみが改善しない時には、利尿薬を内服します。大変重要なむくみは命に影響を与えますので、アルブミンを1〜2時間で点滴静注し、利尿薬を静注するとむくみを比較的速やかに取り除くことができます。ステロイドホルモンを長期間内服しないと寛解状態の得られない患者では、ステロイドホルモンによる骨粗鬆症が起きるので、その予防薬を内服します。ステロイドホルモンの内服中は骨折の危険性の高い運動は控えなくてはなりません。しかし、例えば常にベット上で生活をするような日常生活の動作を過度に制限することは骨粗鬆症を悪化させてしまいます。その他、ステロイドホルモンは長期間服用すると肥満、成長障害、緑内障、白内障などいろいろな副作用を起こすので、定期的な評価が必要です。ステロイド抵抗性の患者には免疫抑制薬を投与します。免疫機能が低下するため、厳重な管理が必要です。ステロイドホルモンや免疫抑制薬を内服している場合、ワクチン接種は主治医の先生の指導に従ってください。
【通園時の注意】
浮腫があるときやステロイドを連日服用している間は、通園は禁止です。従って、ステロイドの投与が隔日投与(二日間に1回の内服になった状態)になった状態で、登園してくることになります。ただし、ステロイドにより血液中のガンマグロブリンの値が低下すると感染症に罹患しやすくなるので、園内にインフルエンザなどの感染症が流行しているときは患児は休んでもらうことも必要です。ステロイド内服中は骨折の危険が高いので、あまり激しい運動はさせないように指導することも必要です。ただし、患児にいろいろな制限を加えることは心理的なストレスを与えることにもなり、できるだけ制限をしない方針が基本です。ステロイドの投与が必要でなくなったときには、少しずつ制限を解いてゆき、他の園児と同じ生活をしても良いと思います。
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