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幼稚園・保育園に通う年齢のこどもの腎臓病
東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授 五十嵐 隆


3 尿路感染症


(図2) 尿路感染症とは尿路(尿道、膀胱、尿管、腎盂:図2)に細菌などの病原体が進入して炎症を起こす病態です。尿路の機能形態的異常が感染の引き金となって発症する複雑性尿路感染症と、尿路に感染誘発の原因となる異常を伴わない単純性尿路感染症に分けられます。小児では前者の占める割合が成人に比べ高いことが特徴です。病原体の多くは細菌で、特に大腸菌が主体です。夏に多いとされるアデノウイルスは急性出血性膀胱炎の原因となりますが、最近では冬にも見られるようになってきました。

【症状】
 尿路感染症では上部尿路、下部尿路のどちらかの感染症であるかを明らかにすることが大切です。膀胱、尿道の感染症を下部尿路感染症、尿管、腎盂、腎の感染症を上部尿路感染症と呼びます。下部尿路感染症は幼児以後の女児に、上部尿路感染症は乳幼児では男児に、年長児では女児に多い傾向があります。
 尿道炎では下腹部の不快感、膀胱炎では排尿痛、頻尿、残尿感、下腹部痛などの症状が見られます。アデノウイルスによる急性出血性膀胱炎では、四—七日間肉眼的血尿が見られ、自然に軽快します。一方、上部尿路感染症では発熱、悪寒、不快感、背中や脇腹の痛みが見られます。乳幼児では大腸菌の産生する細菌毒素により肝脾腫、黄疸、顔色不良などの症状も出現します。
 上部尿路感染症の小児では尿路異常が合併することが少なくありません。特に腎盂腎炎では膀胱尿管逆流(排尿時に膀胱に入っていた尿が尿管や腎盂に逆流してしまう現象)や水腎症(腎盂尿管移行部が狭くなり腎盂が拡大する状態)がないかを必ず調べることが必要です。

【治療】
 尿路感染症の治療は不快な臨床症状を取り除き、重篤な合併症である菌血症を予防し、腎障害の進展を予防することです。下部尿路感染症には抗生物質を七—十日間内服します。乳幼児を除いて治療は外来で可能です。一方、上部尿路感染症には入院治療を原則とします。特に乳幼児は必ず入院治療とします。水分補給の点滴を確保し、抗生物質を静注します。有効な抗生物質を使用した場合には二日以内に解熱し、全身状態も改善します。治療にて解熱し、尿、血液所見が正常化したら抗生物質は内服とし、合計二週間投与します。その後、さらに二週間初期治療量の1/3量の抗生物質を夜間就寝時に投与(少量予防投与)し、検査にて先程述べた腎尿路の異常がないとわかったら、予防投与を中止します。膀胱尿管逆流は重症度により治療方針が異なります。重症度が高いほど感染の再発が高く、腎機能の予後が悪く、将来高血圧が出現する可能性が高くなるからです。重症度の高い膀胱尿管逆流を持つ場合には、数年間抗生物質の少量予防投与を行うことがあります。また、逆流防止術などを上手に組み合わせて治療することが大切です。感染予防を受けている間は、原則として運動制限や食事制限は不要です。予防接種も受けてかまいません。

【通園時の注意】
 通園を許可された患児に対して特別の制限や注意は必要ありません。プールを含め、基本的には運動の制限も不要です。ただし、消毒の不十分なプールや海の水には大腸菌が繁殖しており、尿路感染症の原因になることが指摘されています。不潔なプールや海にはできるだけ行かないようにするのが無難です。




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