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第二十四回 母子健康協会シンポジウム |
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保育におけることばの問題と対応 |
2 ことばの遅れと対応
神奈川県立保健福祉大学教授 前川 喜平 |
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遅れの対応 |
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最後に、扱い方のまず一つは、いま言ったように、大まかでもいいから、言葉の遅れの原因を明らかにすること。耳は聞こえないのか、生理的な遅れなのか、知恵が遅れているのか、情緒障害とか多動とか何かあるのか。
1.難聴:補聴器
もし難聴があったら、一番難しいのは、難聴で知恵が遅れている子どもです。だけど、中等度というと四十デシベル以上です。でかい声じゃないと聞こえない場合です。でも、知恵が遅れていても、補聴器はつけるべきです。そうすると、音の存在が、初期のコミュニケーションのつながりになって、言葉が出なくても、親や保育士さんたちが非常に扱いやすくなっていく。だから、知恵遅れだから、難聴だから、こんなものつけてもではなくて、とにかく補聴器を使ってください。補聴器は、そういう意味から、非常に初期の段階のコミュニケーションをよくします。
2.生理的範囲の言葉の遅れ:信じて待つ
生理的言葉の遅れは信じて待つことです。一緒に遊んで何かしても構いません。ただ、この生理的言葉の遅れの範囲に、養育環境の遅れがあるのです。テレビばっかり子どもに見せていて、要するに、触れ合いとか語りかけのない親です。それから、お母さんで、あんまり子どもと遊ぶのが好きじゃない人がいます。そういう子です。それから、子ども自身の要求が少ないので、周りもあんまり構わない子っています。それは、生理的範囲と間違えないように。
3.発達性言語障害(表出型)
発達性言語障害は、大体、少し待てばちゃんと出てきますけれども、それも、コミュニケーションの手段としての音以外のものです。言葉以外のものをまずたくさん使って、ある程度やるとこれも自然に出てきます。
4.知的障害
知的障害のときに一番大切なのは、言葉は自分で獲得するもので、人が教えるものではないのです。それが基本です。だから、言葉を教えるのに、言葉だけ教えても無意味だということです。そんなことよりも、子どもと過ごす時間を多くする。ただ多くすることではなくて、いま子どもが興味を持っていること。発達段階によって。それを一緒に遊んで、子どもが表情だとか声だとか、何か出したら、それをフォローしてあげる。「あら、これが欲しいの?」とか、「あら、ゾウさん描きたいの?」とか、「こうしたいの?」とか、そのときの声でわかるでしょう。最初の言葉の発達というのは、子どもの表情に応じた、こっちからの一方的な働きかけなのです。さっき秦野先生がおっしゃっていたでしょう。だから、過大に解釈して、いろんなことを、状況を話してあげることです。
それから、「ちょうだい」とか、指さししたら「ああ、こうだ」とか、これを落とすとこうなるとか、そういうことを教えてあげるとかということで、とにかく子どもの興味と一緒に遊ぶことです。そのときにゆっくりです。大きな声で短い文で話しかけるのです。それから、赤ちゃん言葉を使う。
声を出したら、声というのは、呼吸の調節にもなるし、言葉の始まりです。それを、同じような音を出して、一緒に遊んで、だんだん難しいことにしていく。それを、「アー」と言ったら「アー」しか言わないではないのです。「アー」を言われなかったら絶対に言葉はしゃべれない。だから、そのときは「しめたぞ」と思えばいい。
欲しいものやしたいことができてきたら、気持ちを代弁するように、やさしい言葉で話すということです。楽しい雰囲気というのが必要です。目をつり上げて何が何でも教えようとしてもだめです。楽しい体験の中で言葉が出てくるのです。
それから、コミュニケーションの手段を増強する。というのは、表情でも、指さしでも、何でもいいんです。非言語的な動作で。コミュニケーションの道具が一つの言葉であると理解すれば出てくることです。
それから、絶対してはいけないことは、言葉だけを教えない。やたらに質問しない。よくやっている人がいますね。何か覚えると、朝から晩まで、こうやって、「なーに、なーに」と質問したり、「どうするの?」とか何かやっている人がいます。あれは、子どもがうるさがって、興味がなくなるだけです。
それから、子どもの言葉を直さない。皆さんも、外国行くでしょう。外国へ行って、何かしたいので英語でしゃべったときに、一々向こうで直されたら、しゃべる気がしないでしょう。Wが違ったとか、Lがこうで、Rが、なんて言われたら。あれと同じです。間違っているのが当たり前なのです。だけど、それらしいことができたら、「ユー・スピーク・イングリッシュ・ウェル、ワンダフル」と言ってあげたら、喜びますね。「おれの英語が通じた」と。あれと同じです。言葉を直さない。それから、同じことを言ったときに、まねや繰り返しをさせないことです。これで終わります。(拍手)
では、次に、栗山先生に、一番難しい言葉のどもりと幼児語についてのお話をいただきます。
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