母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 2 ことばの遅れと対応 > 遅れの対応
第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
2 ことばの遅れと対応
神奈川県立保健福祉大学教授 前川 喜平



遅れの対応


 最後に、扱い方のまず一つは、いま言ったように、大まかでもいいから、言葉の遅れの原因を明らかにすること。耳は聞こえないのか、生理的な遅れなのか、知恵が遅れているのか、情緒障害とか多動とか何かあるのか。

1.難聴:補聴器
 もし難聴があったら、一番難しいのは、難聴で知恵が遅れている子どもです。だけど、中等度というと四十デシベル以上です。でかい声じゃないと聞こえない場合です。でも、知恵が遅れていても、補聴器はつけるべきです。そうすると、音の存在が、初期のコミュニケーションのつながりになって、言葉が出なくても、親や保育士さんたちが非常に扱いやすくなっていく。だから、知恵遅れだから、難聴だから、こんなものつけてもではなくて、とにかく補聴器を使ってください。補聴器は、そういう意味から、非常に初期の段階のコミュニケーションをよくします。

2.生理的範囲の言葉の遅れ:信じて待つ
 生理的言葉の遅れは信じて待つことです。一緒に遊んで何かしても構いません。ただ、この生理的言葉の遅れの範囲に、養育環境の遅れがあるのです。テレビばっかり子どもに見せていて、要するに、触れ合いとか語りかけのない親です。それから、お母さんで、あんまり子どもと遊ぶのが好きじゃない人がいます。そういう子です。それから、子ども自身の要求が少ないので、周りもあんまり構わない子っています。それは、生理的範囲と間違えないように。

3.発達性言語障害(表出型)
 発達性言語障害は、大体、少し待てばちゃんと出てきますけれども、それも、コミュニケーションの手段としての音以外のものです。言葉以外のものをまずたくさん使って、ある程度やるとこれも自然に出てきます。

4.知的障害
 知的障害のときに一番大切なのは、言葉は自分で獲得するもので、人が教えるものではないのです。それが基本です。だから、言葉を教えるのに、言葉だけ教えても無意味だということです。そんなことよりも、子どもと過ごす時間を多くする。ただ多くすることではなくて、いま子どもが興味を持っていること。発達段階によって。それを一緒に遊んで、子どもが表情だとか声だとか、何か出したら、それをフォローしてあげる。「あら、これが欲しいの?」とか、「あら、ゾウさん描きたいの?」とか、「こうしたいの?」とか、そのときの声でわかるでしょう。最初の言葉の発達というのは、子どもの表情に応じた、こっちからの一方的な働きかけなのです。さっき秦野先生がおっしゃっていたでしょう。だから、過大に解釈して、いろんなことを、状況を話してあげることです。
 それから、「ちょうだい」とか、指さししたら「ああ、こうだ」とか、これを落とすとこうなるとか、そういうことを教えてあげるとかということで、とにかく子どもの興味と一緒に遊ぶことです。そのときにゆっくりです。大きな声で短い文で話しかけるのです。それから、赤ちゃん言葉を使う。
 声を出したら、声というのは、呼吸の調節にもなるし、言葉の始まりです。それを、同じような音を出して、一緒に遊んで、だんだん難しいことにしていく。それを、「アー」と言ったら「アー」しか言わないではないのです。「アー」を言われなかったら絶対に言葉はしゃべれない。だから、そのときは「しめたぞ」と思えばいい。
 欲しいものやしたいことができてきたら、気持ちを代弁するように、やさしい言葉で話すということです。楽しい雰囲気というのが必要です。目をつり上げて何が何でも教えようとしてもだめです。楽しい体験の中で言葉が出てくるのです。
 それから、コミュニケーションの手段を増強する。というのは、表情でも、指さしでも、何でもいいんです。非言語的な動作で。コミュニケーションの道具が一つの言葉であると理解すれば出てくることです。
 それから、絶対してはいけないことは、言葉だけを教えない。やたらに質問しない。よくやっている人がいますね。何か覚えると、朝から晩まで、こうやって、「なーに、なーに」と質問したり、「どうするの?」とか何かやっている人がいます。あれは、子どもがうるさがって、興味がなくなるだけです。
 それから、子どもの言葉を直さない。皆さんも、外国行くでしょう。外国へ行って、何かしたいので英語でしゃべったときに、一々向こうで直されたら、しゃべる気がしないでしょう。Wが違ったとか、Lがこうで、Rが、なんて言われたら。あれと同じです。間違っているのが当たり前なのです。だけど、それらしいことができたら、「ユー・スピーク・イングリッシュ・ウェル、ワンダフル」と言ってあげたら、喜びますね。「おれの英語が通じた」と。あれと同じです。言葉を直さない。それから、同じことを言ったときに、まねや繰り返しをさせないことです。これで終わります。(拍手)

 では、次に、栗山先生に、一番難しい言葉のどもりと幼児語についてのお話をいただきます。



母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 2 ことばの遅れと対応 > 遅れの対応
事業内容のご紹介 協会の概要活動の概要設立の経緯協会のあゆみ健康優良幼児表彰の歴史
最近の活動のご紹介
小児医学研究への助成 機関誌「ふたば」の発行シンポジウムの開催 Link:Glico