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子育ては皆で楽しく |
NPO日本子育てアドバイザー協会 理事長
国際医療福祉大学 客員教授 熱海病院小児科
木下敏子 |
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変わりつつある子育て現場 |
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朝、新聞をみると、子どもたちへの児童虐待や、青少年犯罪など子どもに関する事件が、載っていない日はほとんどないといってもよいでしょう(表1,2)。いつからこのような状況になってしまったのでしょうか。子どもたちへの虐待は遠い外国でのこと、子どもたちが殺人を犯すなどということは考えられないこと、と信じていたのは私だけではないと思います。では、なぜ急にこのような事態になってしまったのでしょうか?
大きな、理由のひとつに少子化が上げられます。1人っ子が増えるということは、母親が育児に熟練する機会を減らします。子どもは兄弟の中で我慢することや、他の子どもとどう接するか、どこで自分の主張を通し、どこで我慢するかという人との付き合い方を学ぶのですが、兄弟がいないと家庭の中で、子ども同士の付き合い方を学ぶ機会が失われてしまいます。そうして、我がままな子どもたちが増え、幼稚園、小学校へと進んでも、自分の気持をコントロールすることができなかったり、友達と上手に付き合えなかったりする子どもたちが増えています。
その一方で、育てる親の環境も変わってきました。昔のように祖父母や兄弟と一緒に生活する大家族は見られなくなり核家族がほとんどです。父親は仕事におわれ、子どもと付き合う時間は他の諸外国に比べて非常に少なくなっています。そのような時代の流れの中で1人で子育てをしなくてはならない母親が増えています。妊娠中に行われる母親教室で「妊娠するまでに赤ちゃんを抱いたり、オムツを替えたり、ミルクを与えた経験はありましたか?」と質問すると、そのような体験をしたことのある妊婦さんはほとんどいません。このように、子どもの世話をしたこともなく援助してくれる人もいない状況で子育てをしなくてはならない母親は、さぞ大変であろうと身にしみて分かるのです。
また、子育てに関して父親がどう関わるかも大きな問題です。日本の父親の育児参加は他の国に比較してとても少ないのです。子どもが小さい時から育児に関わっている父親はよいのですが、子どもに問題が起きてから急に母親から相談されても、今までの状況がわからずに戸惑う父親も多いのです。ではどうしたらよいのでしょうか?
私は子どもたちの心の問題を家族で解決しようとする家族相談をしていますが、子どものことで相談にみえた父親の多くは、母親が話している内容を聞いて始めて家庭内の様子を知るのです。数回の面談で家の様子が分って始めて意見を述べるようになる父親が多いのです。そして、父親が積極的に面談に参加し母親と力を合わせて問題解決に取り組むようになると、母親だけの面談に比べて解決が早くなることを身をもって体験しています。ですから育児の段階から父親が参加していると、予防できる子どもたちの問題は多いのです。
では、家族はどうでしょうか? 家族は、今まさに新しい変化をしつつあると言われています。日本の伝統であった大家族は終戦後しばらくして核家族へと移行しましたが、最近ではその核家族が新たな変化を起こしています。表面上は、核家族という形をとってはいても、そのあり様が変わってきているのです。それは、あたかも共同生活をしているかのような家族が見受けられるようになったということです。子どものことで相談にきた母親が、自分のことに頭が一杯で、子どもの変化や視線に気がつかないのです。父親も自分のことに手一杯で、母親を支えて家族をまとめていくという行動がとれなくなってきています。その様な両親の間で、子どもは親に向けて様々なメッセージを出し続けても受けとめてもらえず、親との心の交流が失われて自分の世界へと閉じこもっていくのです。形は核家族でも、父、母、子の心のつながりが薄くなり、まるで、他人同士が共同生活をしているような家族がみられるようになってきました。
このような変化は家族内で社会ルールを教える機会を減らし、子どもたちが問題行動を起こす機会を増やしているのではないでしょうか。
そして、家族や社会の変化は、子育ての現状に大きな変化をもたらし、子どもの不登校、犯罪や自殺などを増加させています。そして、親や社会に 「このままではいけない」というメッセージを発し続けているのです。乳幼児期には食べない、食べ物を吐く、おねしょ、チックなどの症状で、学童期では登校拒否、いじめ、いじめられなどの社会現象などで、思春期には摂食障害、非行、殺人などの病気や犯罪などで警告しているのです。
では、このような現状を改善するにはどうしたらよいのでしょうか?
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