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特集  「急変する社会環境から子どもの心を守る」
こども心身医療研究所所長 冨田 和巳



 少子化、家庭形態の変化、高度情報化などにより、子どもやその家族を取り巻く環境が急速に変化しつつあり、こうした中で子どもたちの心が蝕まれています。この子どもたちの保育者が異常に気づき、心の診療医による適切な治療・相談が必要となってきています。
 本誌でも「子どもの心身を蝕む社会環境」を既号で紹介していますが、この記事を執筆されたこども心身医療研究所長の冨田和巳先生に再度この問題を取り上げて頂きました。


恣意的報道の弊害


 最近のように次々と子どもが不幸に出会う事件や、逆に子どもが凶悪事件を起こすと、マスコミの衝撃的報道によって、多くの親子や、子どもに関わる職業の人々は不安に陥りますが、ほとんど事実はわからないままです。パターン化された報道は、決まったように「普通の子」「問題のない家庭」と最初に伝えるので、更に不安を増強させます。「うちもいつ何が起こるかもしれない」あるいは「あの子は気になるが、どうしたらよいの?」と。
 マスコミは嘘を報道しませんが、その社の方針に沿って、事件のある側面をとりあげるので、バランスよく概要を伝えていないどころか、誤った印象を読者・視聴者に与えていくことさえあります。その典型はこの種の事件の皮切りになった平成七年(1995)に神戸で起こった児童連続殺傷事件(俗に言う酒鬼薔薇事件)での某新聞です。同紙は「学校で体罰があったから、少年が事件を起こした」と思わせる見当違いな報道を、初期にしつこく続けました。それはこの社が常に表面的現象で「学校を叩く」方針だからです。実はこの事件で、私も某放送局から取材を受けたのですが、「彼は精神的に病んでおり、育て方にも問題があったと思う」と答えると、「それは人権に触れるので報道できません」と言われ、彼が新聞社に送り届けた声明文の「透明な存在」といった語句の解釈ばかりを求められたことを、今も鮮明に覚えています。
 事件報道は「加害者への配慮」というわが国固有の“優しさ”で、先ず歪んだ報道になり、そこに先に指摘した「その社の好む物語」が加わるのです。この事件は後に犯人に発達障害があり、養育に問題があったとわかったので、某新聞も某放送局も見当違いな視点をもっていたことが証明されました。しかし、私でなくても、誰もが「あの奇妙な事件は『異常』でなければできない」と考えたでしょうし、体罰や声明文の語句に原因を求めるマスコミの方も、これまた「異常」だったと思います。
 残念ながら、日本ではこの新聞も放送局も一流と認識され、その偏った報道を多くの人が“正しい”と信じているのです(これは事件報道以外にも当てはまります)。
 長々と10年以上も前の事件と報道の問題を述べたのは、多くの人が“一流”と思っているマスコミや有識者の見解から、不安になって困惑するより、自分たちの常識や、昔からある庶民的「当たり前」の子どもをみる目、子育てや養育を優先すれば、何も心配する必要はないと言いたいのです。これから神戸の事件の翌年に起こった事件を取上げ、マスコミ主導の分析と異なった、私の見解を述べてみます。これによって、幼い子どもを育てている親、あるいは預かっている保母に、子どもをみる目と、何に注意するかをより具体的にわかってもらえると思います。そして、子どもの不幸を予防して欲しいのです。




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