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第28回 母子健康協会シンポジウム |
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季節と子どもの病気 |
1.子どもの特性
神奈川県立保健福祉大学大学研究科科長 前川 喜平 先生 |
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乳幼児は脱水になりやすい |
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次の質問です。「乳幼児は脱水になりやすい」、正しいと思う人? 今度はたくさん手が挙がりましたね。ありがとうございます。まさにそのとおりです。
その理由は幾つかありますけれども、一つは、子どもは体の中の水分含有量が多いということです。表1をごらんください。太っている人は脂肪が多いのでもう少し水分が減るのですけれども、普通の大人は体重の60%です。新生児は80%、乳児は70%が水です。
もう一つは、新生児、乳児の細胞外液は細胞内液よりも多いということです。細胞は私たちの体の中に60兆億あって、人間の体にある水分は、細胞の中にある細胞内液と血液とか組織の間など細胞の外にある細胞外液の二つに分けられます。体の中の水は、成人は60%のうちの40%が細胞内液で、細胞外液は20%しかないのです。ところが、生まれたばかりの新生児は、細胞内液が80%のうちの35%で、45%が細胞外液です。これは動く水が多いということです。それが一つの特徴です。
もう一つは、子どもは体重当たりの必要水分量が多いということが挙げられます。これはどういうことかというと、私たちはこれ以上成長しませんが、子どもは身体が大きくなります。目方が増えるにはエネルギーが要るわけです。そのためにたくさんの水分が必要になってきます。ですから、表1のように乳児は体重kg当たり150ccぐらい、1歳で100〜120ccです。3歳で大体kg当たり100ccが必要です。大人は何と30〜40cc で済むわけです。乳幼児は生活するために水が必要だということです。
四番目の理由として、新生児、乳児は大人に比べて下痢や嘔吐などの病的状態下で摂取水分量が低下する と、容易に脱水になりやすいということです。ここでその例を話します。ここに五カ月で体重7,000gの赤ち ゃんがおり、一日500ccのミルクを5回飲んでいるとします。この赤ちゃんが120ccの下痢を五回すると、 120×5=600ccでしょう。600gというのは、もしこの赤ちゃんがほかに水をとらないと失われた水分は体重の 大体8%ぐらいになってしまいます。
表2は「脱水症の程度と臨床症状」です。乳児で軽度・中等度・重症と書いてあります。8%というと何 と中等度の脱水になってしまいます。わずか5回うんちしただけです。
それから、例えばこの赤ちゃんが一日ミルクを飲まないとすると、細胞外液の量が30%として2,100ccで す。それを1,000ccのミルクを飲まないと細胞外液の半分がなくなってしまうということです。これは極端 な例ですけれども、そういう意味で脱水になりやすいということなのです。
それから、不感蒸泄が多いというのも表1の通りです。もう一つは、新生児、乳児は腎機能が未熟で種々 の異常を来しやすいということです。身体の中にはどうしても尿からでないと排泄できない物質があります。 赤ちゃんは、水がないときにはいかに濃いおしっこをつくるか、水を飲み過ぎたらいかに薄い尿をつくるか という腎臓の機能が赤ちゃんは未熟なのです。ですから、極端に水を飲ませたり、極端に濃いものを飲ませ ると、体が水中毒になったり、ナトリウムが足りなくなったりし易いのです。
最後に、よく血液が酸性とかアルカリ性と言いますね。人間の体は、酸度が7.4位に保たれております。 これを維持するために身体の中にバッファー緩衝システムがあり、酸が来たら中和するシステムです。その バッファーの量が年齢の低いほど少ないのです。酸ができたときにそれを中和する能力が少ないので、いろ いろなことで身体に酸が産生されたときに、バッファーが少ないので、容易にアシドーシス(酸血症)になりやすいのです。これが脱水のときの注意です。
皆様に知ってほしいのは、乳幼児が脱水になったらどういう症状があるかということです。三つのことを 知っておいてください。一つは体重です。普段体重を測っていると、どのぐらい体重が減っているのかで脱 水の程度が解ります。次に大切なのは尿量ですけれども、これはおむつが濡れるか濡れないかでわかります。 いつもと較べおむつが濡れる回数が少ない時は脱水が疑われます。三つ目は、皮膚と粘膜の乾燥でわかりま す。あとは大泉門(頭の上にある頭蓋骨の隙間)です。これが凹んでくるのです。乳児の頭を撫でて大泉門 の状態を知っておく必要があります。もちろん高張性脱水とかそうでない脱水もあります。以上のことに気をつけてください。
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