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第29回 母子健康協会シンポジウム |
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親と一緒に子育てを |
1.コミュニケーション保育の実践
私塾まきば代表 山田 雅井先生 |
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経験で育つ
今は情報が多いですし、テレビでも、本当に素晴らしい自然の色彩が見られます。でも、子どもは経験して初めて学ぶ年齢です。どんなものでも見ただけではわかりませんので、ともかく経験する。そして、自分で気がつくことが大切です。
「まきば」は、山あり海あり、ここでこのことを話すのをどうしようかなと思ったくらい、周りにたくさんあります。毎日、風の音が違います。毎日、空気の香りも違います。どんなに車が多くなっても、またインターネットが盛んになっても、ゲームがいっぱいあっても、本物を感じることはできません。昔も今も、どこにいても命の営みは変わることがありませんから、周りにある命あるもの、自然のもの、本物をできるだ経験し、五感をフルに働かせていろいろなことに気づいてほしいですね。すごく狭いところでも花壇をつくってお花を育てるとかできると思います。うちの幼稚園の中には、メダカや、ドジョウがいます。田んぼからとったドジョウですけれども、生き物はできるだけあったほうがいいと思います。好きな子は、じーっと毎日飽きずに見ていて、大人が感じないものまで感じています。そういう、生きているもの、人間の手ではつくれない自然のものが周りにあるということ。そして、気づいていくということ。大人も、いればいいのではなくて、そのことについて学ぶ。うちの職員は、何か動物や植物に出会うと、お互いに調べながら勉強し合っていますけれども、大人がその生き物に対しての知識を深め、子どもからの質問に答えていっています。時には一緒に調べたりして,より深く興味を持つようになります。動きをずっと見ている子、食べ方を見ている子、大人には見えないものを子どもは気づいていきます。
ときどき耳をすまさせて、「何の音が聴こえる?」と言うと、車の音も聴こえるけれども、風が窓に当たる音が聴こえてきたり、雨のときもいろんな音が聴こえます。葉っぱに落ちる雨、壁にぶつかる雨、屋根に落ちる雨、全部音が違うことを、みんなで表現したり、聴き合ったりしています。そういうふうに「何が聴こえる?」と言うと、私たちが気がつかないことを言ってくれたり、また、色探しをしたり、音探しをしたり、言葉集めみたいな遊びを子どもたちとよくします。
例えば、そこに四季折々の感じたものが入ってくると、それがうんと広がっていきます。お母さんたちは、うちの子はまだ字を覚えていませんとか言いますが、「字はできるだけ教えないでください」と言います。字は記号ですから、「あか」と教えてしまうと、折り紙、クレヨンの赤と字の「赤」でもう終わってしまうのです。
でも、「赤を集めよう」といったときに、炎の赤があり、夕陽の赤があり、チューリップの赤があり、みんな違う赤がある。そのことを、この時代に感じてほしいと思っています。たくさん色を集めてほしい、たくさん音を集めてほしい。子どもの体の中に、一生の土台の中に、たくさんの音や色や言葉、温かいもの、血の通ったもの、凹凸のあるもの、そういうものをたくさん子どもたちが集めてくれるといいなあと思っています。
嫌でも字は覚えなければならないので、年長さんになって学校に行くときに、興味を持った子に覚えなくていいのよなんて言う必要はないので、子どもたちのほうから拾ってきますので、それを実際のものと遊びの中で自然につなげていってあげる。私たちは、そのように子どもたちに伝えていこうと努力しています。
そうすると学齢になっていくときに、字と学習が、あのときのあの赤、あのときのあの音、それを字となって読んだときに子どもの中にあらわれてきます。ただ字や漢字だけ覚えたのではなくて、その一つの文字の中にある温かさや、面白さや、音というものが本当に感じられてくると思います。そういう育ちをしてほしいなあと思っています。
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