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第29回 母子健康協会シンポジウム |
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親と一緒に子育てを |
3.子どもが育つコミュニケーション
東京慈恵会医科大学名誉教授 前川喜平先生 |
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前川 私はこのシンポジウムをもう十年以上、毎年やっていますけれども、一度やってみたかったのが「コミュニケーション」です。ところが、これは一番難しいのです。自分が企画した立場上、最も話し難い「聴き方、話し方」ということを話さなくてはならない羽目になりました。まあ、年の功に免じて当たり前の話を聴いてください。
1.聴き方、話し方は技術ではない |
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ご存じのごとく、人間は一人では生きられません。人と人との間で生活しているのが人間です。その基本が、非言語的・言語的コミュニケーションです。恐らく今日ここにいらした方々は自分の職場で、人間関係でいろいろと悩んでいる方が多いのではないかと思います。あるいは、子どもに対してこうしたいとか、いろいろなことがあるのではないかと思います。その一つとして例えば、相手が自分を理解してくれない、言うことを聴いてくれない不満があると思います。そういうときの原因は大概、あのお母さんが、園長先生が、同僚が悪いのが原因と思っている人が多いのではないかと思います。しかし、「それは本当でしょうか?」。
ここで、ぜひ皆さんに知ってほしいのは、世の中には「変えられないもの」と「変えられるもの」があります。変えられないものって何ですか。「他人の考え」と「過去」です。変えられるものは何ですかというと「自分の考え」と「未来」です。そういう現実があるにもかかわらず、皆さんは毎日、他人の考えを無理に変えようとしたり、過去を悔やんだり、そういうことをしているのではないでしょうか。ですから、まずそのことに気がついてほしいのです。
それから、人の心は「鏡」です。こっちが好意を持って肯定的に接すれば、相手も肯定的になりますし、こっちが否定的に接すれば、相手も否定的に接してきます。
ぜひ知ってほしいのは、人間関係に悩むのは、その聴き方や話し方、態度です。皆さん自身のそういうことに問題があるのです。相手じゃないんです。非常に厳しい言い方ですけれども、まずこのことに気がついてください。自分が変われば相手も変わります。
ですから、話し方、聴き方は技術ではないのです。聴くことの重要性の認識です。いかに相手を受け入れるかということの、心、気持ちだと思います。
さて、質問です。聴き方と話し方とどちらが大切ですか。聴き方が大切だと思う人、手を挙げてみてくれる?(挙手多数)ああ、これはさっき小林先生が話したからね。話し方が重要だと思う人?、あまりいない。では、どうして人間は耳が二つ、口が一つあるのですか。いまの答えです。聴くことが大切だから耳が二つある。いたって簡単です。では、皆さんは聴き上手になりたいですか、話し上手になりたいですか。話し上手になりたいと思う人?、誰も挙がらないですね。では、聴き上手になりたい方?(挙手多数)これだけ手が挙がると、次の話をする必要がなくなりました。しかし、これでは商売になりませんので、さらに次に進ませていただきます。結局、会話は双方向性なのです。聴くだけ、話すだけでは成り立ちません。少なくとも聴き上手になることを心がけてください。
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