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「子どもの心身を蝕む社会環境 NO.2」 - 身辺な環境や幼児教育の大切さ -
こども心身医療研究所所長 冨田和巳


おわりに


 私は社会動物である人間は「自尊心(自己肯定感)」と「表現力」と「適切な対人関係をとれる能力」が最低限必要と考えていますので、それらの芽生えや育ち方について述べてみました。そして、それに一番大きな影響を与える母親をはじめとする身近な環境や幼児教育の大切さを強調しました。前号では、子どもを取り巻くやや広い環境の問題を取り上げ、民族性とそこから生じた「わが国の文化・文明」を理解することの大切さを述べています。二回にわたって、子どもの素因と環境の二面から、健全な発達に何が大切か、を提示できたと考えています。もちろん、切り口や考え方は種々ありますから、私の視点に共鳴できかねると思われる方もいらっしゃるでしょう。そのような場合でも、「日頃、自分が信じている・考えていることと異なる意見がなぜ、出てくるのか?」「自分の意見の組み立てとどこが異なるのか?」を考えていただくことで、何かが新しくみえてきます。最も困るのは、自分の信条と合わない意見には耳を貸さない態度です。残念ながら、熱心な先生の中にはこのような方がいて、せっかくの機会を無駄にされています。自分の考えと異なった意見も謙虚に聴いて、自分の信条を検証し、深めていく気がなければ、あるいは時には大胆に考え方を改める勇気がなければ、保育や教育という大切な仕事はできないと思います。
 「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、幼児期は未だに子育ての修正が可能な時期です。あるいは「栴檀(センダン)は双葉より芳(カンバ)しい」のように、思春期に報道されるような事件を起こす/起こさせる子どものもつ「異常性」の芽は幼稚園で発見できます。ここに幼稚園の先生方の、何にも代え難い重要な役割があります。早く問題に気付く/予防することに対して、幼稚園の役割はもっと強調されなければならないと思います。
 何よりも適切な家庭教育はせずに、幼稚園や学校に文句をつけることだけしっかりやる親が増加してきました。大切なことは彼らの表面的現象を非難する前に、「そのような親を育てたものは何か?」「自分たちも同じようなものをもっていないか?」を謙虚に考えた上で、今、自分の立場で何ができるかを考えてください。そのときに、私の二回にわたり述べてきた基本的なことが、少しは役に立つかもしれません。


著者プロフィール
こども心身医療研究所所長   冨田和巳
昭和42年 和歌山県立医科大学卒業
昭和51年 大阪大学医学部付属病院小児科に心身症外来開設
昭和60年(社)大阪総合医学・教育研究会設立
■現在の主な役職
社団法人大阪総合医学・教育研究会理事長、
同付属こども心身医療研究所所長、
大阪大学医学部小児科非常勤講師、
日本小児心身医学会理事長、
大阪府医師会学校医部会精神保健対策委員会委員
■主な著書
「小児心身医学の臨床」(診断と治療社)
「厳しさを忘れた学校・家庭教育—小児科医の教育診断」(ぱすてる書房)



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