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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子



秦野 皆様こんにちは、最初に、私は「健常に育ってきた子どもたちの正常なことばの発達」ということで、お話をさせていただきます。
 いま前川先生からご紹介いただいたように、私は、発達心理学という領域で、子どもの発達面から言語を研究し、子どもとともに言葉の問題を歩んでいる研究者です。今日は、発達の中で言葉を獲得していく、使っていくということはどういうことなのかということをお話させていただきたいと思います。


話し言葉の獲得


白百合女子大学教授 秦野 悦子 言葉といっても、今から話しますのは、書き言葉の獲得に入る就学前の年代の子どもたちの話し言葉の獲得とのことです。生まれてから学校に入る前までの話し言葉の獲得のおおよそを話させていただきます。
 話し言葉の獲得というのは、三つの要素があるということからお話ししましょう。まず一つ目は、聴覚・構音機能・随意運動の発達など生物学的基礎があるのかということです。
 二つ目は、言葉の発達の社会的基礎についてです。すなわち言葉の発達は乳児期から育ってくるコミュニケーションの力が基盤になっているということです。ですから、皆さんもご存じのとおり、言葉をしゃべり始めてから言葉が発達するのではなくて、言葉をしゃべる前からのコミュニケーション発達を基礎として、他者と発語を通してかかわるという人との相互作用によって、言葉は幼児期に獲得されます。生まれたときから身近な大人とのやりとりで生じたコミュニケーションを「言葉の前の言葉」と言うのはこのためです。
 三つ目に、言葉の発達の認知的基礎についてです。話し言葉の理解は、乳児期の認知能力の発達と密接に結びついています。すなわち、実際に外界の事物操作を通して「手段と目的」の関係が分かったり、物が目の前になくても消えてしまったわけではなくどこかにあるという「物の永続性」が分かったり、目で見て図形の形が区別できたり、などは言葉の理解に関連する認知発達です。
 特に初期言語期と言われる時期、つまり、言葉をしゃべり始めた頃とか、一度に一語しかしゃべれない一語発話期では、特に理解言語とか受容言語とか言われる「言葉を聞いて理解する力」というのが非常に重要になってきます。育てる側の大人が子どもの言葉の問題をとらえようとする時、気づきやすい事として、「何が言えるか」、「いくつしゃべれるか」、ということだけが、どうしても全面に出やすく、とらえやすいので、そのことが取り上げられがちですが、幾つしゃべれるかということよりも、どのくらい人の言っていることを理解できるかというほうが、初期言語の場合、その後の発達の予測性が高いということを心に留めておいていただきたいと思います。
 もう一度これまでの事をまとめて申しますと、話し言葉の発達は、(1)聴覚などの生物学的側面を基礎に、(2)乳児期から育ってくるコミュニケーション能力という基盤の上に、(3)認知発達を基礎に言葉を理解し、人との相互作用を通して幼児期に獲得されます。幼児期に社会の中で子どもたちが育っている家庭とか、保育所とか幼稚園とか、コミュニティーという社会の中で、どのくらい人とコミュニケーションを豊かにできるかということが、話し言葉の支援につながります。幼児期後半には話し言葉の発達だけではなくリテラシー(読み書き能力)へと移行しはじめます。本日は、このような乳幼児期の話し言葉の発達を整理してお伝えします。
 また言葉の初期の獲得のときには、言ってわかる力、理解する力、人の言葉の意味が理解できる力。そんなことが、その後の言葉の発達の予測性を高めるということと、話し言葉の獲得というのは、書き言葉の獲得の前に、豊かな生活、人とのやりとりというのが必要になってきます。また、こどもの言葉の発達と、育てる側の養育者の心配事がどのように関連して表れてくるのかを整理してみます。これは、多分、これから先の前川先生のお話とか栗山先生のお話につなげていく基礎ですので、強調させていただいているのですけれども、言葉の遅れというときに、では、言葉の発達のどの部分が十分でないのか、どの部分は十分育っているのかを見ていただくことが大事かと思います。
 また、言葉の発達は、対人活動や認知活動の中に組み込まれ、他の心的機能と密接な関係を持って発達します。言葉の発達は、発達全般への配慮という日常的な働きかけにその育ちの多くの重要な要素が含まれています。
 私は、自分自身の専門領域として「言葉の発達の社会的な基礎」、つまり、人とのかかわりの中で、人との生活の中で、どのように言葉が使われていくかということを研究しています。「語用」という言葉を聞かれたことがありますか、簡単に言ってしまえば、言葉をどのように使うかという問題です。言葉の発達のご相談を受けていると、いつも、「いつしゃべれるようになるのか」と問われます。幾つしゃべれるか、何を知っているかというのは、言葉に関する知識ですね。でも、言葉に関する知識を持っているだけでなく、限られた表現力とか理解力をどのように使っていくかというのが、言葉を広げていきます。それを語用面の発達といいます。私は、語用を中心に研究しているものですから、その辺を強調していきたいと思っています。



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