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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子



言葉の発達を支える生物学的基礎


 言葉は生得的な脳機能の働きと環境との相互作用によって達成されるので、環境要因のみでの言葉発達の決定的な障害はないといえます。言葉の発達の遅れは、脳の機能という生物学的要因を背景にして生じるからといって、生物学的な、ヒトとしての基本的な機能さえ育っていれば、言葉は自然に出てくるというほど単純なものではありませんが、基本として押さえておきたい側面です。

言葉の発達を支える認知的基礎


 認知というのは心理学では「知ること」を意味します。認知過程は感覚、知覚、記憶、思考などの全てを含みますが、乳児期は外界の世界との関わりを通して認知発達を深めていきます。外界の世界を大きく分けると、人とどうやってつき合っていくかという人と関わる対人世界と、物をどのように操作していくのかという物と関わる対物世界があります。物がどうやって動くのか、物をどうやって扱ったらいいのかなどは全ての認知過程を含みます。言葉の発達は認知発達に組み込まれ、決してほかの能力と独立していない部分があります。乳幼児期は、認知発達と言葉の発達は密着していて、言葉の発達だけが独立してあるのではないということです。
 そこがまた言葉の発達の面白いところでもあり、逆に言えば、子育てに関わる大人たちが言葉の発達を心配するときに、「特に専門的なところで、専門的な援助を」と希望されますが、言葉の発達というのは、そもそも、そういう特別な課外授業で学ぶものではなくて、生活の中に組み込まれている、物をどういうふうに知っていくか、物をどう扱っていくのか、人とどうつき合っていくのか、というところに組み込まれているとしたら、そこの部分を豊かにしていくことが、いかに大事かということが、おわかりいただけるかと思います。
 言葉の発達と認知的な発達が深く結びついているということで、ひとつだけお話をさせていただきますと、特に生後九ヵ月ぐらいでしょうか、手段と目的が分かる。これは、言葉の発達にとても重要な力になってくるようです。手段と目的が分かると言うと、とても難しいように聞こえますけれども、そんなことではないのです。たとえば、ここをグルグルッと回すとポンと人形が飛び出してくるとか、ボタンを押すとピカッと電気がつくとか、手段・目的ですね。こうするとこうなる、ああするとああなるという、原因・結果、手段と目的が分かり、そのようなことが理解できるということなどが、言葉の発達にとっても、たいへん重要な基礎になるということです。
 乳児期後半のお子さん向けの玩具に、玩具の各部に手でいろいろな操作を行うと、音が出たり、くるくる回ったり、違う絵が見えてきたり、色が変わったりするものがあります。ダイヤルがついていてグルグル回すとポーンとおもちゃが飛び出したり、カラーボールをポトンと落とすと透明のアクリル板の中をボールがグルグルと回って、ストンと下に落ちるようなものもあります。子どもは、落ちたボールを拾って、またポトンと穴から落とす。それは、ここに入れるとグルグル回って下に落ちるんだということがわかり、ここから入れると、そちらから出てくるとか、そういう原因と結果が分かっていく過程の理解というのが、とても重要なことのようです。
 さらには、初期の語の意味学習における認知的制約として、マークマンという人が次のような説を紹介しています。「初期の語の意味学習は、生得的な認知方法(生得的知識)に依存している。第一は、『事物全体制約』であり、子どもは、言葉を聞いた時に、その語はその事物全体に関する名称であると考えるという法則である。第二は、『カテゴリー制約』であり、子どもは、言葉を聞いた時に、その語はその事物が属するカテゴリーの名称であると考えるという法則である。第三に、『相互排他性の制約』であり、子どもは、ひとつのカテゴリーにはひとつの言葉が付与されるものと考えるという法則である。」、ここからもいえるように、子どもは言葉を理解していく時にたくさんの認知発達に支えられているということです。



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