母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 1 言葉の発達とその規定要因 > 言葉の発達をとらえていくときの視点
第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子



言葉の発達をとらえていくときの視点


 最後に、言葉の発達をとらえていくときの視点を話します。これは、次の前川先生、栗山先生につなぐためのメッセージです。ここで聞いておられる皆さんから、たくさんの質問があるのかなと予測していることでもありますが、私はあとの質疑応答を、ちょっとドキドキしながら楽しみにしているのです。
 第一の視点として、健常発達に比べて言葉の発達がどのレベルにあるのかということを、子どもの養育に関わる大人がそれぞれの立場なりに把握しておくということが大事です。と申しましても「そんな学問的なこと、知らないわ」とおっしゃらないでください。皆さんが、生活の中で何度も何度も経験していることです。たとえば、五歳児なんだけど、三歳児ぐらいのつもりで接してみると、相手もこちらの伝えることがよくわかる。五歳児だと思って接すると、どうも伝わらないことが多いようだ。じゃあ、この子の発達は大体三歳児ぐらいかなということがわかりますね。そういったことでいいのです。私たちの知っている健常発達に比べてどのレベルにあるのかを知ることです。全体的に発達が遅れている場合もありますが、そうじゃない場合もありますよね。部分的には年齢並みの力はあるけれど、発達に歪みや偏りがあるという場合もあります。特に人とのやりとりが苦手な子、対人関係障害のあるお子さん、ADHDとか、自閉症のお子さんは、どうしても、個人内で、進んでいるところと遅れているところのでこぼこが目立つことがあります。
 二番目の視点は、健常発達には見られない、発達のゆがみ、逸脱が、言葉全体、発達全体にどのような影響を与えているのかをみることです。難しい言葉を言ったり、人にわからないような難しい知識を披露するけれども、会話がつながらない。しゃべりはじめると一方的にしゃべっているけれども、どうもうまくやりとりができない。というのは、健常発達から見て全体的に遅いというよりは、発達のゆがみとしてとらえたほうが、どうもよさそうですね。
 三番目の視点は、言葉の発達の四要素、すなわち音韻、意味、統語、語用のバランスをみるということです。
 「音韻」、これはあとで栗山先生の話につながっていく音、発音の部分です。「意味」、これはたとえば「こっちに座ってごらん」はわかるけど、「じゃあ、男の子、こっちに座ってごらん」となると、何だかわからなくなる。または「それ、ちょうだい」と言うとわかるんだけれども、「じゃあ、大きいの取ってちょうだい」と言うと、何かその辺にある適当なものを取ってくる。どうも大きい小さいという概念がわからないのかな、そういうことばの意味の理解です。「統語」というのは、文法的なところですから、まだ一語発話しか言わないとか、決まりきった二語発話しか言わないとか、長い言葉は言うんだけど、コマーシャルみたいな決まりきったパターンでしか言わないとか、そういう複雑な構文を発話することはどのくらいできるのかなどです。それから、特に、私の専門の領域である「語用」ですね。これは自分が持っているコミュニケーションの力をどのくらい生活の中で使えているのか、というような視点です。言葉の発達のどの部分がうまく育っていないのか、その辺を注目していただくと、「この子の言葉の発達、心配なのよね」というときに、どこの部分がどう心配なのかを人と語り合えるようになります。
 今の三つのことを、別の言葉で言いかえますと、皆さんから既にいただいた質問の中に、子どものことばの発達が遅れなのか個人差なのか、というご心配があると思います。とりあえず、そういうことがわからないときは、風邪をひいた時と同じ、早目の対応です。風邪かなあと思ったら、本当に風邪かどうかじっと見極めて、本当に風邪をこじらせて寝込むまでまっているのではなく、早目の対応をしてください。ということです。ちょっと心配かなと思ったら早目の対応が第一に肝要です。
 二つ目に、早目の対応をするには、アセスメントといいますけれども、この子の言葉の発達の力がどのくらいあるのか、ということをしっかりとらえていくということが大事だと思います。しっかりとらえるときには、もちろん、専門家の助言というのも大事ですけれども、普段から子どもに関わっている大人が、「どうも三歳児さんぐらいなんですよね」とか、自分の言葉、自分の表現の中でアセスメントをしてみましょう。
 それから三つ目に、言葉の相談の中で必ずあるんですけれども、「言っていることは何でもわかります」と言ったときに、何がどのくらいわかるのか、どこまではわかり、どこまでがわからないのかということを、より正確にしていくことです。「いつも言うことをききません」というけど、言うことをきくときというのはどんなときで、きかないときはどんなときなのか、とか、「いつも走り回っています」とかいっても、いつもといったって、朝から晩まで走り回っているわけじゃないでしょう。どういうときに走り回るのか、どういうときは座っていられるのか、みたいなことを、正確につかむことによって、子どもの問題というのは、より見えてくる、というようなことを、最後に、メッセージとして伝えたいと思います。
 これで最初の話題提供を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

前川 どうもありがとうございました。初めてお聞きになる方には理解がなかなか難しい部分もあると思いますが、これは三人の先生方が話されたあと理解ができると思いますので、次に進ませていただきます。



母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 1 言葉の発達とその規定要因 > 言葉の発達をとらえていくときの視点
事業内容のご紹介 協会の概要活動の概要設立の経緯協会のあゆみ健康優良幼児表彰の歴史
最近の活動のご紹介
小児医学研究への助成 機関誌「ふたば」の発行シンポジウムの開催 Link:Glico