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特集 対談 「なぜ今、食育か」 |
神奈川県立保健福祉大学栄養学科長、食育推進会議委員
中村丁次
神奈川県立保健福祉大学人間総合・専門基礎担当科長・東京慈恵会医科大学名誉教授
前川喜平
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日本食とわが国の食料事情 |
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中村 一般的に言えば、日本人の食習慣とか食文化は欧米と比べれば優れているのではないかというのはありますね。
前川 どういう点ですか?
中村 ご飯を主食に持ったというのは優れています。
前川 ご飯は、そんなにいいですか。
中村 ええ。やっぱりでんぷん質でしょうね。ご飯自体には塩も油も砂糖もないのです。
前川 そりゃそうだ(笑)。糖質はあるけどね。
中村 糖質はありますけど。戦後、食事は欧米化したのですが、日本人は完全に欧米人の食事にはしなかった。例えば、アメリカ人の食事の主食といったら肉です。肉があってパンが少し添えられている感じです。
前川 そうですね。パンは日本のお米と違いますね。ほんのわずかですね。
中村 彼たちの主食というとむしろ肉ですね。だから、植物のでんぷん質のものを主食に持ったというのはすばらしいことだったと思っています。
前川 なるほど、そういう意味から言うとね。
中村 これにおかずとしてお肉やお魚をつけていった。だから左手にお茶碗を持って、ご飯を食べるためにおかずを食べている。
前川 まさにそのとおりです。
中村 こういう食習慣というのは珍しい国民ですね。
前川 そうですか。
中村 大体欧米の食事というのはひと皿ずつたいらげていく。スープ飲んで、肉食べて。
前川 日本みたいにご飯とおかずを同時には食べない。
中村 日本食は一つの皿で味が完結していない。ご飯だけでは食べられない。味がないですから。ところが、欧米の食事というのはひと皿ずつ味が完結していますから、一皿ずつさばいていくわけです。
前川 確かにそうですね、欧米では次から次へと出てきます。日本はまとめて出てくる。
中村 日本食は、口の中でまぜておいしくしてのみ込みます。ああいう食習慣を手放さなかったというのがよかったのだと思います。だから、この食習慣はなくしてもらいたくないと私たちは思っています。確かに戦前、戦後期は、ちょっとご飯の食べ過ぎで栄養状態を悪くしましたけどね。
前川 でっかいドカベンに梅干し1個とかね。
中村 あれでタンパク、ビタミンと脂肪が欠乏を起こしたのですが、ご飯におかずを食べるという生活習慣はいいと私は思っています。
前川 先生、あと食育が問題になった背景として、わが国の食料事情なんていうのはどうですか。日本食が身体にいいだけで勧めているのですか。
中村 日本食は低脂肪で多様な食品を選択するという意味においては、今、世界最高の食事形態だと思います。そして自国の食べ物を食べるというのは重要なことだと思います。安全性というのは、食品自体の安全性という意味と、食料の安全確保という問題からの二面があります。最近、「生産された地点と口に入るまでの距離」を示すというアイデアがあります。何という指標だかちょっと忘れましたが、それが今、日本人の食品はとんでもない長さになっています。かつては日本列島で生産されたものを口にしていましたから、その距離は短かかったのですが、日本は世界中から食料を輸入しています。その距離が長くなっているわけです。その距離の指標で、生産と口に入る距離が長くなれば長くなるほど食品は安心、安全でなくなるし、リスクを背負ってしまう。
前川 わが国の食料自給率に関してここに一つのデータ(表2)があります。今、地球の人口は60億で、地球が養える人口の限界にそろそろ来ている。近き将来、世界的食料不足が予想されます。当然、日本も食料不足になることが予測されます。これは我が国の食料自給率の推移を計算した表です。 それによりますと金額ベースで食料自給率は、昭和40年(1965年)には85%を日本でつくっていた。ところが、今はそれが69%。それから、カロリー計算その他でしますと主食は28%ぐらいになってしまって、結局、日本が世界じゅうで食料自給率が一番低い国になっています。
中村 なっていますね。
前川 特に穀物の自給率が28%です。もう一つ問題なのは、消費した食料と自分がとったエネルギーに差があって、捨てている食料が多いのです。
中村 これが700〜800カロリーあります。
前川 そうです。結婚式なんて20何%でしょう。ですからすごい無駄をしています。
中村 そうですね。自給率が世界最低で、無駄を出すのが世界最高だという、とんでもない食生活になってしまっているわけです。さらに心配なのは、自給率が年々下がっているのです。
前川 おっしゃるとおりです。
中村 ほかの先進国は上がっています。
前川 この表3,4を見てください。特に日本の主食が下がっています。それから、カロリーが同じなのに捨てているものが増えている、こんなに無駄にしているのは憂うべきことです。
中村 憂うべき事態ですよ。ある学者に言わせると、自給率がこんなに下がったのは、人類史上ではローマ帝国の末期と現在の日本だという話です(笑)。
前川 そうですか。
中村 ローマ帝国というのは植民地をたくさんつくっていって、ローマの周りに農作物をつくって、ローマ市民は遊んで議論ばかりしていて、食料をつくらなくなった。
前川 何か似ていますね(笑)。
中村 日本に似ています。
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