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少子化と性教育に関する一考察
東京大学名誉教授 鴨下 重彦


少子社会から多死社会へ


 昨年の合計特殊出生率は1.25となり、ついに日本は人口減少社会に突入しました。平成元年の1.57ショックどころではないのです。こうなることは10年以上前から予想されていたことですが、すべてが予想以上に早まっています。東京都がすでに1を割っており、区別にみるとすでに0.7や0.8のところがありますから、そのことはさらに低下する予兆であると考えられます。国はさまざまな少子化対策の手を打ってきましたが、出生率の低下に歯止めがかからず、すべて無効に終わっているといえるのではないでしょうか。「少子化対策」、この言葉の使用に私は一貫して反対してきました。子どもの立場で聞いたら、「大人の身勝手な言葉だ」と言うに違いありません。考え方が基本的に間違っているのです。
 一方で推計によりますと30年後、2038年には年間死亡数170万人、仮に出生数が今のまま下がらないとしても、毎年50万都市が一つずつ消滅していく計算になります。予想では年間出生数は70〜80万人にまで落ち込むとされているので、100万都市が消失する可能性もあるのです。文字通り多死社会になるわけで、厚生労働省がターミナルケア、在宅医療の充実や後期高齢者の医療の整備などにやっきになっているのも十分理解できるように思います。昨年日本の高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)は20%に達しました。超高齢社会です。
 はっきり申してこれまで社会保障・人口問題研究所による、出生率など将来人口の統計は見通しが甘かったのではないでしょうか。天気予報ではあるまいし、誰が責任をとるのでしょうか。楽観的な推計に基づいて社会保障を考えてきた所に最も大きな問題があったと思います。子育て支援政策の強化は保育所の整備、児童手当の充実などもっと早くから行っているべきだったと思います。私は以前から、子どもを大切にしてこなかったつけの結果だ、と思い続けてきました。子どもを最高に価値あるものと位置づけ、家庭では親も、学校では教師も、地域では大人達も、自治体も国も子どもに仕えるような精神が必要ではないでしょうか。




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