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第26回 母子健康協会シンポジウム |
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保育における歯の問題と対応 |
2.子どもの歯の問題と対応
昭和大学歯学部小児成育歯科学教室助教授 井上 美津子 |
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歯並び、噛み合わせの問題 |
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子どもの時期というのは、歯とあごというのは非常に成長が著しいです。生まれたばかりの赤ちゃんは実際には本当に歯がない状態で、生後半年ぐらいでやっと乳歯が生えてくるわけです。2歳半ぐらいで乳歯が生えそろいます。だいたい噛み合わせができてくるわけです。5歳、6歳ぐらいになると、乳歯から永久歯への生えかわりとか、乳歯の後ろに新しく永久歯が生えるという状況になりますので、子どもの口の中というのは早い時期ほどダイナミックに変化します。
そういう中で、歯並び、噛み合わせをみていきますと、最初のうちは結構いろいろな噛み方をしていたのが、奥歯が生えてくるとだいぶ噛み合わせが安定して、乳歯が生えそろった段階、2歳半を過ぎてくると、お子さんの乳歯での噛み合わせがしっかりしてきます。
そこで、よく指しゃぶりとかおしゃぶりとかの問題が出てきますけれども、乳歯の奥歯が生える前というのは、あごは結構自由に動くんですね。ですから、歯が生えてない時期のしゃぶる行為というのはほとんど歯に問題がないのです。前歯だけの時期というのも、しゃぶるのがもともと当然の時期でもありますし、奥歯が生える前は、結構いろいろなものをしゃぶっても歯の影響というのはあまり出てきにくいのです。1歳前半ぐらいで、最初の乳歯の奥歯(第一乳臼歯)が生えます。そこが噛み合ってきて、ずっと指しゃぶりとかおしゃぶりが続いているお子さんは、2歳ぐらいでも影響が出てくることがあります。
ただし基本的には、先ほど申し上げたように、2歳半ぐらいになって奥歯の噛み合わせがしっかりしてきたあと、指しゃぶりとかおしゃぶりとか、そういうものが続くと非常に影響が出やすい。ですから、口の発育、歯の発育と噛み合わせの状態、それをみながら、そういうおしゃぶりとか指しゃぶりの対応も考えていく必要があると思います。
指しゃぶりが続きますといろいろな影響が出てきます。1歳、2歳ではそんな極端な影響は出にくいですが、2歳半を過ぎてくると、例えば指しゃぶりが長く続きますと、歯列弓といいますが、歯のアーチの、特に上のアーチが狭くなってくるとか、前歯が突出してくるとか、それから、しゃぶる指によって、下の前歯が逆に押されたりするわけです。だいたい親指をしゃぶるお子さんが多いですからね。それから開咬といいまして、前歯が開いてしまうような状態、要するに、奥歯が噛んでも前歯がうまく噛み合わないという状況も出やすくなって、いろいろなものを前歯で噛み切れなくなってしまうというような状況が生まれやすくなります。
あと、交叉咬合といって、脇のほうまでズレが出てくることもあります。上のアーチがすごく狭くなってしまうと、普通は上のあごのほうがかぶって噛む。それが上が狭くなるとうまく噛めないので下あごがずれて噛むというように奥歯のズレが出やすくなったりします。
そして、普通は、つばをのみ込むときというのは、口を閉じてのみ込むわけです。そのときに舌というのは中のほうに入っているのですけれども、前歯が開き、口がうまく閉じられない状況になると、結局、そこを舌で埋めてのみ込むなどという癖が出やすいので、嚥下のときの舌を出す癖とか、そういう別の癖が出てしまうことがあります。
その他、いろいろな癖によって口への影響は変わってきます。歯ぎしりなどが強いと、今度は逆に、歯がどんどんすり減って噛み合わせが低くなってくるという影響も起きてくるというようないろいろな影響がみられます。
最近ちょっと注目されているおしゃぶりに関しまして、私どもの教室でいろいろ調査をさせていただきました。これは保健所で結構な人数を見せていただいたわけですけれども、3カ月ぐらいから使っているお子さんがいまは結構多いです。
そういう中で、歯への影響、噛み合わせへの影響ということでみていきますと、2歳半、ちょうど乳歯が生えそろったかなという時期のお子さんで見てみますと、短期間使用のお子さんではせいぜい2割ぐらいに、ちょっと問題が出るかなというくらいですけれども、2歳半で例えば26か月以上というと、かなりずっと使っているという状況の、使っている期間が長い、使っている時間も長いお子さんですと、半数ぐらい、先ほど言った開咬、前歯が開いてしまうという噛み合わせの異常が出やすくなるというデータが出ています。やはりこれは時期的なもの、期間などは少し考えていく必要があります。
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