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第26回 母子健康協会シンポジウム 保育における歯の問題と対応
2.子どもの歯の問題と対応
昭和大学歯学部小児成育歯科学教室助教授 井上 美津子



歯の外傷とその対応


 歯の外傷もそれほど急に増えたというわけではないのですけれども、やはり環境的な問題で、やや増えているという状況がみられます。
 家の中でも、昔のように畳ですと、転んで歯を打ってもそんな大したことはなかったですね。それがいま、フローリングになっていたりとか、周りにいろいろ物をたくさん置いてあります。ちょっとお子さんがコケただけでも、前歯を打つことが多いです。外に出ましても、昔の土とか砂だと、鼻をすりむくぐらいで済んだのですけれども、いま、かたい素材で舗装をされていたりとか、公園でも結構かたいところが多いです。そうすると、ちょっと転んだ拍子に歯を打つというようなことで、状況的にそういうような歯の外傷が多くみられます。
 乳歯の外傷というのは1歳から3歳ぐらいが多い。永久歯ですと7歳から9歳ぐらいが多い。ちょうど1歳から3歳ぐらいというのは、歩き始めるけれども、歩行がそれほど安定しないというので、よちよち歩きでコケやすいという状況です。
 学童期になりますとスポーツとか運動が活発になって、そういう意味でのスポーツ外傷も多くみられたりします。やはり男の子のほうが比較的多いという状況がみられます。
 打つのは前歯が多いです。特に上の前歯が多いです。しかも、指しゃぶりとかおしゃぶりで前歯が突出している方は、特にぶつけやすい傾向があります。
 乳歯の場合は、周りの骨が結構やわらかいため、脱臼といいまして、歯がグラグラになったりとか、めり込んだりとか、歯が動いたりとか、そういうような状況が多くみられ、また、永久歯でも生えたての永久歯は根がそれほど長くできていません。そういうことで、脱臼になる率が高いです。乳歯でも根がしっかりできたあとは、破折が起こりやすいという傾向もあります。乳歯、永久歯と分けると、乳歯のほうで脱臼が多いという傾向もあります。
 乳歯が外傷を受けますと、乳歯のすぐ上に永久歯が育っていますから、めり込んだりとか、かなり力が加わった段階ですと、永久歯への影響も起こり得るという状況です。必ずおこるわけではないのですが、力がどう加わるかによっていろいろな影響が出てきます。根のほうが少しめり込んだりしますと、永久歯の歯胚といって、歯の芽のところに炎症が起こって、歯が白っぽくなったり茶色っぽくなったり、形成が悪くなるというふうな歯の質の問題が出ることもありますし、場合によっては、力がポンと加わると、永久歯の芽がポンと押されると生える方向がずれてしまう。歯が生える時期が遅いと思ったら、歯の方向がずれていたとか、根の出来が少し影響を受けて、生える力が弱いとか、いろいろな永久歯への影響もありますので、乳歯そのものではなくて、次の永久歯が生えかわるまではいろいろ経過をみていく必要も出てきます。
 乳歯も、そのときはそれほど重傷ではないと思っても、しばらくたったら色が変わってきた。そうすると神経のほうが傷んでしまうこともあるのです。そういう意味で、歯の外傷というのも、経過をみながらいろいろ対処をする必要があります。
 脱臼とか破折が起こった場合、園ですと、どこら辺で歯医者さんに連れていったらいいのかしらという問題がすぐ出ると思いますけれども、位置が変わらなくても、グラグラになって出血があったら、一度診てもらう必要があると思いますし、歯のずれが出たら、周りの骨がどうかとか、そういうのを診ておく必要があるので、そういう意味では、脱臼が明らかだったら歯科を受診する必要があると思います。
 それから折れた場合でも、先端がちょっと欠けたぐらいですと緊急性はありませんけれども、大きく欠けると、実は神経の部分に近いことがあります。ですから、見た目ではっきり大きく欠けている場合は、少し早目に受診しておいたほうが、例えば神経の処置などは適当なものができます。
 永久歯ですと、再植といいまして、抜け落ちても、その歯を持っていけば植え直すという対応ができます。乳歯でも条件がよければそういうことも可能なので、もし抜け落ちた場合でも、根のほうが乾かないように、保存液というのはいま小学校には備えてあります。保育園、幼稚園の場合はちょっとわかりませんけれども、できればお口の中の唾液に近い状態の液に浸したまま持っていけば、わりと元に戻せることもあるということです。
 ですから、折れた、動いた、グラグラになった、そういうふうなことの対応は早目にやったほうがあとの予後はよろしいかなと思います。
 簡単でございますが、またいろいろなご質問を受けながら、詳しいお話はさせていただきたいと思います。

前川 どうもありがとうございました。歯のけがのとき、外傷がよくありますね、転ぶとかぶつけるとか。それの処置についてのだいたいのことを話されたことと思います。意外と歯の数が足らなかったり、くっついているのがあるというのは私も初めて聞きました。

井上 いま、よく話題になっている歯の数が少ないということは、どちらかというと永久歯の話が出てくることが多いのですけれども、全身的な病気のある方で、無歯症といって歯がない方もいらっしゃいます。それから、歯の数が非常に少ない場合には、遺伝とかそういう要因という場合がありますけれども、実は、乳歯はお母さんのお腹の中で歯の芽はできます。それから永久歯も、前歯とか、先ほど言った6歳臼歯、最初に生える奥歯は、だいたい歯の芽は、胎生期、お腹の中でできますので、環境的な要因を強烈に受けるというより、遺伝的な要因のかかわりのほうが強いのかなという気はしております。
 ただ、なかなかそこら辺のデータは人間でとるのは難しい。昔は、歯の数ということは話題にならなかったけれども、いま、パノラマX線で全体にあごを見る写真というのが普及してきたのはこの20年ぐらいなんですね。それを見ると、本当に歯の数が足りないというのはすごくよくわかるのですけれども、昔は、生えていないのか本当にないのか、わからなかったりという状況もありますので、そういうふうなものを含めた状況として、歯の数が少ないのが話題になったのかなというふうに考えております。

前川 ありがとうございました。それでは、「母乳とむし歯などの考え方」について話します。



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