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特集  「急変する社会環境から子どもの心を守る」
こども心身医療研究所所長 冨田 和巳



躾の大切さと怖さ


 躾という字は日本で作られた「和字」で「身」を「美しく」と書きますから、日本人の美徳をよく表していますが、最近はほとんどひらがなで「しつけ」と書くので、和字に込められた先人の思いも消え、虐待に近いしつけや、個性尊重・自由という美名で「躾放棄」が多くなっています。
 最初に古い事件を二つ紹介していますから、記憶に新しい事件を次ぎに紹介して、誤った躾による虐待を考えてみます。平成18年に医師の父親を殺そうと計画しながら、結果的に継母と異母兄弟を殺害した中学生の事件が奈良でありました。この事件でマスコミは中学生に広汎性発達障害があったと報道し、最近、出版された少年や家族の供述書に基づいた、かなり真相に近づいたと思われる本でも、その線で事件の詳細が紹介されています。しかし、子どもは人格障害の父親による異常な虐待で二次的障害をきたし、常識では考えられない犯行に及んだので「発達障害ではない」と推測できます。ここでも一般的報道の内容と違った見解を、日頃から子どもの臨床に関わっていると、もたざるをえないのです。
 いずれにしても、異常な価値観(この事件では勉強至上主義や、見当違いな見栄)で父親が子どもの勉強をみて、しかも暴力を振るい続ければ、常識的には考えられないような犯行にまで至る、異常な子どもを創造してしまう恐さに気づいて欲しいのです。しかも、最高学府に学び、それなりの仕事をしている熟年の親が、周囲の忠告を一切受け付けずに行ってしまった恐ろしさです。最初の事件と表面的現象は正反対でも、奥に潜むものはかなり似通っているように感じます。
 現代は躾をしない弊害が子どもの問題を多く噴出させている一方で、一部には体罰や異常な価値観での躾による弊害もじわじわと増加してきているのがわが国の現状です。




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