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食物アレルギーとその対策 |
岐阜大学大学院医学系研究科 小児病態学教授 近藤 直実 |
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食物アレルギーの診断と治療 |
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食物アレルギーの病態を解析、診断・治療していくなかで、目的は「いかに食べさせないか」ではなく「いかに食べてもらえるか、どうすれば食べられるのか」であると著者は考えています。
それには、食物アレルギーの診断を正確に行うことが重要であって、そのための3つのポイントがあります。
(1)アレルゲンは何か
例えば、生卵はだめでも、加工品や加熱によって食べられるならば、ぜひ食べてもらいたい。原因を明らかにしどの状態なら良いか悪いかを判断することが重要です。
(2) アレルギー反応か、その型は
次に、食べてからどのくらいの時間が経って症状が出たかという反応や型を診断します。
(3)病像は
蕁麻疹か、喘息か、アトピー性皮膚炎かという診断をします。
きちんと診断するために、アレルゲン、つまり何が原因なのかを調べます。確実に診るための手順は図5のようにまず、十分な問診をすることです。それからIgEの検査(血液の検査、RAST、ラスト)やプリックテスト等を行います。しかし、これだけで診断が下されるわけでは全くなく、話を聞き原因追求を行って大凡の予想を立てたら、次に重要なのは除去試験を行います。実際にその食物を止めて、本当に症状が良くなるかどうかを検査するのです。さらに、これがアレルゲンらしいということがわかると、負荷試験を行い、その食物を食べて実際に症状が出るかどうかを明らかにします。判断がつかない場合は、もう一度最初に戻っていろいろと検討します。これだけの診断をするのには、ある日突然患者さんが受診されて1回のテストでわかるわけはなく、1週間、2週間、場合によっては入院して検査することもあります。食物負荷試験では、実際に症状が出ますから、十分な対応をしてかからないと危険なこともあるからです。
治療ですが、実際にアレルゲンがわかれば、基本的にはその食物を中止して除去食療法をします。ただし、卵がだめでも、「生」ではなく「加工」「加熱」すれば食べられるという判断の指導もする必要があります。それも負荷の検査をしてわかります。さらに、食物アレルギーは、年令によって改善される確率がかなり高いので、3〜6ヶ月ごとに見直して、食べられるかどうかという判断をして、食べられるようであれば、少しずつ食べるという指導をします。
トピックス1
経口免疫寛容現象(トレランス、体が慣れる)と食物アレルギーの治療開発
花粉症が増えています。杉林の多い地域の人には、花粉症が少ないとも言われています。小さい頃から杉花粉の刺激を受けて、体が慣らされているためだと思われます。体が慣れるということは、トレランスとか免疫寛容現象といわれていますが、これは吸い込むのではなく、経口摂取する必要があります。この地域の人は、毎日食事する際に、知らず知らずのうちに杉花粉が少しは口に入っているのではないかと想像されます。アメリカの西部のほうに「漆」によって生計を立てている人たちがいて、漆にかぶれるというのは、その民族の人にとって命にかかわるぐらい重要なことです。そこで彼らは、生まれてしばらくすると漆を食べさせられます。そして大きくなると漆かぶれにならないのです。これは見事に経口免疫寛容現象を誘導していると考えられます。少し前に食物アレルギーについて研究したときに、卵アレルギーの方(アナフィラキシーのような急激な症状ではない方)にまず卵を中止してもらうと、リンパ球の反応も非常に良くなり症状も良くなりました。次に卵を少し食べると症状が悪化し、リンパ球の反応も悪くなりました。しかし、かなり慎重に、もう少し量を増やして食べ続けると、反応が良くなるという結果が出ました。経口免疫寛容現象が誘導され、体が慣れる、トレランスが起こったからだと思われます。これらのことを応用して、著者らは現在、「食べて治す食品」開発の研究を進めています。
トピックス2
遺伝と環境からアレルギーを見直します。
人間は生まれると、3ヶ月で首がすわり、1年経つと自分の足で歩き出す。これは、遺伝子が人の体をそのようにプログラムしていて、この1年間は長い人生の中で、素晴らしく画期的な発達を遂げます。この一年に限らず、人間の体は遺伝子によってプログラムされています。サバンナのシマウマの子どもたちは生まれてから5〜10分で歩けます。これも彼らの遺伝子がプログラムしているのです。肉食動物が餌として狙っているために、その環境に適して遺伝子がコントロールされていることだと思われます。雷鳥は夏と冬とで色が変わります。これも環境によって遺伝子や分子がコントロールされていることによると思われます。このように考えると、人間の個々の体を遺伝子がプログラムしていて、その遺伝子は進化の過程で環境の中で変化を遂げてきたのですが、現在の環境によってもコントロールされているのです。つまり、遺伝子があって、環境因子が加わって、恒常性の維持、成長・発達が遂げられるわけです。最近、アレルギーの病気の遺伝子がわかってきました。遺伝子をもつ人の体に環境がどのような影響を与え病気が起こってくるか、直接的に因果関係を探る領域を遺伝子分子生態医学と呼んでみました(著者による)。
地球的規模の環境として、環境汚染、CO2、温暖化、酸性雨、オゾン層、森林の問題がありますが、食材・食生活というのも極めて大きい位置を占めています。地球規模的環境の改善・向上ということが、人間の体の恒常性の維持、成長・発達にきわめて重要であると改めて考えています。
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