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特集 座談会「子どもの食育」 |
東京慈恵医科大学名誉教授 前川 喜平 先生
東京女子医科大学名誉教授 村田 光範 先生
こどもの城 管理栄養士 太田 百合子 先生
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肥満とやせ |
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前川 気づきの点として、母子健康手帳に出ている肥満の判定がありますよね。あれは有効ですか。
村田 あれで幼児身長体重曲線を書くのは非常にいいことではないかと思います。
前川 あれを5歳ぐらいから使って、集団の中でちょっと、ということは役に立ちますか。
村田 私は、役に立つと思っていますし、今度新しく、「授乳・離乳支援ガイド」というのができまして、それにも、成長曲線を描いて、きちんと大きくなっているかどうかを確認しなさいという項目が加わったんですね。ですから、個人個人みんな、やせ型の子もいれば、太っている子もいるし、いろいろいますから、肥満度別で見ていってもわかりますけれども、個別にどんなふうな発育をしているか、成長曲線を描くということを、私は、すべての子どもにきちんとやるべきだと思っています。
前川 今、肥っている話をしたのですが、やせの問題はどうですか。
村田 やせの問題は、今から10年ぐらい前からでしょうか、「国民健康・栄養調査」で、20歳代の女性にBMIが18.5未満がどんどん増えてくる傾向がある。あれが、やせに対する警告が出た、社会的な現象としては初めてではないかと思います。
実は、私が女子大学へ移ってから学生を見ると、ものすごいやせ型ですね。20%まで行かないですけれど、17〜18%前後はやせ型で、今は肥満よりもやせのほうが多くなっています。
学校保健統計調査報告書というのが出ていまして、それには「痩身傾向児」の頻度というのも出ています。1980年ぐらい、今から30年ぐらい前から、その頻度を調べると、男の子も女の子もやせ体型が増えています。
それで、我々小児科医は、「やせている」というのは体質か病気と考えるわけです。今だと、あまり病気もないとすると、いじめや虐待なんかが病的なやせの例になるかと思うのですが、とにかくやせの原因は病的なものと体質的なものの二つだと思っていたのです。この二つが、どんどん頻度が増えるということはおかしい、あり得ない。それで、うちの学生なんかで体組成を調べてみると、やっぱり筋肉量が少ない。いって見ると生活習慣を背景にもったやせが増えているのです。
前川 運動量というか、動かないわけですね。
村田 そうです。小さい頃からあまり体を動かさないから、筋肉が少いのではないかと思うのです。
前川 運動ですね。
村田 筋肉の比重と脂肪の比重から言えば、筋肉がちょっと減るだけで体重に与える影響はうんと大きいのです。今はあまり激しい動きをする必要もないし、昔のように歩いて学校へ通わなきゃいけないということもない。小さい頃はみんな、幼稚園へ行くのも、自転車の後ろに乗っているか、自動車に乗って行っていて、ほとんど歩いてません。
前川 学生を見ていると、1階上へ行くのにエレベーター、下へいくのもエレベーターで、駅のエスカレーターもみんなそうですね。
村田 そうです。駅のエレベーターでも若い人が随分使っている。
これは、もっときちんとこれから調べようと今、プロジェクトをつくって、大学で大々的にやっているので、まだ100%そうだとは言い切れないのですが、文科省は、性別、年齢別、身長別の標準体重に対して80%以下というのを「痩身傾向児」と呼んでいます。この頻度が増えるというのは、小さい頃からの運動不足がかなり響いて、筋肉量がそんなに増えていないのではないか。それプラス、「やせ志向」ですね。今若い女性の平均的な体重は、少なくとも50キロを超えて54キロぐらい体重がなくてはいけないのですが、50キロというと学生は目を丸くして、「とーんでもない」と。40キロ台でないと死ぬ、みたいなことを言う。
前川 学生が昼、食べているのを見ると、パン1個とかね。悲しくなりますよね。
村田 ええ。そういう全体的な社会的な風潮と、今の運動不足が重ね合わさって、体重を増やさないように、増やさないようにしているところがあるのではないかと思います。
ただ、男の子のやせ傾向児が増えているということに、私はいささか驚いて、早急にその原因をはっきりさせなければいけないのではないかと思っています。
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