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特集  座談会「子どもの食育」
東京慈恵医科大学名誉教授 前川 喜平 先生
東京女子医科大学名誉教授 村田 光範 先生
こどもの城 管理栄養士 太田 百合子 先生



最後に

前川 最後に、先生方、特にお話し忘れたこととか、まとめの部分でちょっとお話しいただければと思います。
村田 ちょっと言い忘れたといえば、朝ご飯を食べないと運動能力も落ちるというのは結構言われていますが、文科省の新体力テスト、平成十七年度ではなかったかと思いますが、朝ご飯をいつも食べない子どもと、朝ご飯をいつも食べている子どもで、シャトルランをするわけです。シャトルランというのは、「20m幅のところを5分間に何回行けるか」、持久走の一種です。昔は、男の子は1.5キロ、女の子は1キロ走っていたのですが、今はなかなか難しいので、シャトルランをやっています。
 それで、朝ご飯を食べている子どものほうが、高学年になるに従ってシャトルランの回数が多い。女の子は非常にはっきり、中学、高校で差が出ます。この理由としては、朝ご飯を食べないことで筋肉代謝が変わってきている。エネルギー代謝がうまくいっていないということもあると思いますが、朝寝坊して食べる時間がないとか、食欲がないという体の状態では、シャトルランなんかできないですよね。
 ですから、生活全体が問題だと思います。学校の成績も、朝ご飯を食べれば英語の成績がよくなる、とは言えないですが(笑)、朝ご飯をほとんど食べないような生活自体が、子どもたちに勉学上の支障を来すのではないかと思います。
太田 幼児期は、朝ご飯をちゃんと食べることの下地づくりです。とにかく、時間になったら朝起こすことが一番だと思います。「こどもの城」では、乳幼児の広場をやっていますが、赤ちゃんでも、生活リズムがうまくいかない、機嫌が悪いといったときに、「朝、同じ時間に起こしてごらん」と言うと、しばらくすると非常に機嫌がよくなって、日中よく遊んで、夜も寝るっていうんですね。だから、やっぱり赤ちゃんの頃や幼児期に、大人が「頑張って起こしてみようかな」と少し心がけてみるだけでその次からの子育てがすごく楽になると思います。
 そしてまた、「朝食を食べない」「食欲がない」というような子には、完璧に揃えようなんて思わなくても、食べていない子はちょっとしたものから、例えばバナナだけ、ヨーグルトだけから一口でも食べることから始めていいと思います。徐々に時間をかけて、ある程度のものが食べられるようになっていけばいいかなというふうに思います。
村田 小児科関係で子どもの睡眠なんかをやっているグループは、今、文科省は「早寝・早起き・朝ご飯」と言っているけれども、早起き・早寝のほうがいいということで、「早起き・早寝運動」というのを小児科の医者はやっています。
前川 遅く寝ても、とにかく早起きさせて、「朝の光を見せろ」というのです。それがリズムの始まりなのです。
 今日の食育のことで、幼児期こそ子どもの食生活を確立するのに非常に大切な時期である、ということが皆様のお話でわかったということと、そのためには、子どもに「お腹がすいた」という感覚をまず持たせるとことが第一です。そのためには生活のリズムと、体を動かすことが必要です。
 それと並行してぜひやってほしいのは、「味覚を育てる」という大人の意識だと思います。味覚というのはいろんな要素があると思います。単に味だけじゃなくて、色彩の問題とか、においの問題とか、それから、そのときの雰囲気もあります。広い意味でのそういうことを考えていくという、いろいろ示唆に富んだ話が幾つか出たと思います。
村田 我々だけが、体を動かしたり仕事をしたりするときに、これから食べて体を動かそうと考えるわけですね。食べてから体を動かす動物は、いないわけです(笑)。
前川 そのとおり。
村田 お腹がすいてきて、仕方なしに餌を食べるわけです。ですから、バランスをとるために、せっかく食べたものを運動で消費するのだったら、運動しないで食べ物を少なくすればいいじゃないですかという考えがあるんですが、大間違いで、これは「超回復」とも言われているけれども、グーッと運動をして、血糖値も下がってくるような空腹の状態になって、それから食べると、筋肉のミトコンドリアの状態とか、筋肉の適応能力、グリコーゲンをためる力とか、これがガーッと強くなる。
 ですから、せっかく食べて体を動かして消費する、それだったらプラスマイナス、バランスをとって食べなきゃいいじゃないか、運動しなくてもいいっていうのは大間違いで、やっぱり人間は動物ですから、体を動かして食べないとダメです。体を動かして食べると、体はより健康な方向に、適応能力のある方向に向かうように、神様がつくってあるわけです。
 だから、いつも言うんですけど、これから仕事をしたり、これから運動をするから食べなきゃいけないというのは、人間だけですよ。これは大嘘で、お腹を減らしてから食べなければいけないです。
太田 そうですね。同感です(笑)。
前川 ありがとうございました。これで座談会を締めさせていただきます。(了)

講師紹介

前川 喜平(まえかわ きへい)先生
神奈川県立保健福祉大学大学院研究科科長、教授、東京慈恵会医科大学名誉教授。
東京慈恵会医科大学卒業後、同大小児科教授を経て現職。
1996年より母子健康財団 シンポジウム統括を務める。同協会理事。小児科と小児歯科の保健検討委員会長、日本タッチケア研究会会長など。
主な著書に 「小児神経と発達の診かた」(新興医学出版社)、「今日の診断指針」(共医学書院)など。

村田 光範(むらた みつのり)先生
東京女子医科大学名誉教授。
千葉大学医学部卒業後、東京女子医科大学小児科教授、和洋女子大学大学院総合生活研究科教授など歴任し現職。
食を通じた子どもの健全育成のあり方に関する検討会委員など。
主な著書に 「子どもの肥満」、「子どもの健康とスポーツ」「子どもの成長障害」(いずれも医歯薬出版)など。

太田 百合子(おおた ゆりこ)先生
(財)児童育成教会こどもの城小児保健部技術主任、聖心女子専門学校非常勤講師。
東京家政大学家政学部栄養学科卒業後、新潟県田宮病院栄養課勤務を経て現職。 同所「小児保健クリニック」で栄養相談を行いながら、集団指導、講習会などを企画担当。
主な著書に 「明日からの子どもの食育にすぐ役立つ本」(共著・食生活編集部)、「子どものための食材Q&A」(診断と治療社)「1〜5歳のおべんとう生活」(あかちゃんとママ社)など。




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