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寄稿 「子どもの発達について」 |
自治医科大学医学部小児科教授 桃井 眞里子 先生 |
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自閉症はシナプス機能の異常に因る |
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脆弱X症候群、Rett症候群は知的障害を呈しますが、多くが自閉性障害の症状も呈するため、知能の遺伝子であると同時に、自閉症の遺伝子としても注目されました。自閉症は、社会性の発達の障害、言語の障害、コミュニケーション能力の発達の障害、常同性を主たる症状とする生来の発達障害で、社会適応力の低さは、本人にも家族にも、多様な問題を生じます。半数が知的障害を合併しますが、半数は知的能力は正常範囲です。知的に正常な子どもの方が、学校や家庭で不適応の問題を生じやすいのです。
最近は、知能が正常範囲である 高機能自閉症や、言語発達は正常範囲であるAsperger障害が注目され始めたため、従来考えられているよりも、その頻度は高いことが判明しました。1000人に6人ともいわれていますが、実際には100人に1人程度だろうと思われます。その自閉症の病因は、感染などの外因から遺伝的要因まで実に多様な原因の報告があり、混沌とした状態でした。USAではMMR予防接種率が上昇した時期と一致して発生率の増加がみられるため、予防接種に含まれる保存剤の水銀が原因であるという報告もされ、キレート剤による治療法の是非が長いこと論議されたりする事態が生じました。結局、水銀説は否定されましたが、依然、物質原因説は根強くあります。一方、これまでの双胎の研究などが示すように、自閉症は、精神疾患、あるいは発達障害の中でも最も遺伝性の強い疾患です。そのために、原因遺伝子探求が盛んですが、判明しませんでした。2003年、自閉症とAsperger障害を兄弟に持つ二つの家系で、Neuroligin3,4という二つの遺伝子の変異が報告されました。これはシナプス形成時にシナプスの接着蛋白として機能すると同時に、シグナル伝達に重要な遺伝子でしたので、この研究は、1、自閉症は遺伝子変異で生じる、2.自閉症とAsperger障害は同一遺伝子変異で生じうる、3.自閉症はシナプス機能の異常に因る、ということを示したのです。私どもの研究室でも遺伝子解析によっていくつかのシナプス関連遺伝子に変異が見つかっており、ひとつの遺伝子で変異が検出される率は、患者100〜200に1例ですので、関連遺伝子は100〜200あると推定されます。
同じ変異遺伝子が自閉症ではない親に検出されている例もあります。同一変異で自閉症とAsperger障害が生じている家系があることからも、遺伝子変異=疾患発症ではなく、遺伝子変異+αが発症には必要であることがわかってきました。今後、遺伝子変異の全貌と、αが何かの解明によって、病因、病態がわかってくることが、発症予防などへ道を拓くと期待されます。
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