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寄稿 「子どもの発達について」 |
自治医科大学医学部小児科教授 桃井 眞里子 先生 |
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生後早期の環境は、遺伝子発現に影響する |
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知能も、自閉症も、遺伝子が重要な働きを持ちます。だからといって、αの存在から推定されるように、遺伝子以外の要因も、遺伝子が発現するには重要だということがわかってきました。それでなくては、育てるということの重要性がありませんから、当然といえば、当然です。経験的にも、どのような遺伝子を持とうと環境要因によって人はどのようにも変化させられるということを我々は知っています。それは虐待を受けた子どもたちの混乱した精神心理的状態や行動を見ればわかるとおりで、それは何年経っても修正が困難なほど、深く刻まれています。遺伝子の発現は、環境要因で大きく異なることがある、ということをカナダの研究グループは、ラットで立証しました。子どもをせっせと背中に乗せたりして養育にいそしむ系列のラットAと子どもをあまりかまわない系列のラットBを使って実験をしました。
A系列の母親に養育されたラットはどちらの系列の子どもであっても成熟後はAパターンの行動をするようになり、B系列の母親に育てられたA系列の子どもはA系列の養育行動となり、B系列の子どもはB系列の養育行動をするようになったのです。B系列の遺伝子を持っていても、A系列の養育を生後早期にうけることで、B系列の遺伝子発現からA系列の行動発現に変化したのです。生後早期の遺伝子発現状況が、環境要因で修飾されて、それは一生変化しない、というデータも示されました。もちろん、全部の遺伝子が環境要因で大きく左右されるわけではありませんが、ストレス耐性など、行動を決める遺伝子群の多くは環境要因などで左右されるようです。乳幼児期の安心感のある養育状況や親子関係は、多数の遺伝子発現を通してその後のストレス耐性や行動に大きな影響を与えることが、科学的に示された、といえます。
同じことが成長についてもわかってきました。通常の出生体重は3000gですが、1500g未満とか、1000g未満とかで出生すると、その後、平均的な成長に入らせようと養育にも熱がはいるせいか、かなり急激に体重増加してくる例があり、それらの子どもたちに効率に高血圧、などの生活習慣病予備群増えることがわかってきました。乳児期早期の急激な体重増加が遺伝子発現のスイッチを肥満の方向に動かし、それが成人期まで変化されずに行くためと推定されます。
ある種の遺伝子は、乳幼児期早期にスイッチがはいると、その発現の仕方が一生持続することもわかってきました。
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