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第28回 母子健康協会シンポジウム 季節と子どもの病気
2.季節と感染症 — 保育園で流行する病気とその対策 —
横田小児科医院長・小田原医師会副会長 横田 俊一郎 先生



横田 皆さんこんにちは。横田でございます。私は神奈川県の小田原で開業して十五年になります。幼稚園や保育園の園医もしていますし、お母さんたちから、「まだ園に行っちゃいけないの」と毎日言われながら診療しているわけですけれども、保育園や幼稚園と感染症というのは本当に切っても切れない大事な問題で、保育をしていると子どもは必ず感染症にかかります。
 幼稚園や保育園は感染症にかからない元気な子どもだけ預かっていればいいのかというと、決してそうではありませんね。みんな鼻水をたらしたり、咳をしながら来ているわけで、そういう中で、病気も含めて子ども全体を見ていかなければならないわけです。病気の子どもに、どういうところで「来てはいけない」と言うのか、おうちに帰すのかということは、非常に難しい問題もあります。単に医学的な知識だけではなくて、その人の生活信条とかいろんなことが関係していると思いますけれども、今日はまず感染症ということで、病気を皆さんによく知っていただきたいということでお話をしたいと思います。

(1) 季節と感染症

 子どもの感染症には季節というのがあります。もちろん、一年じゅう流行っている病気もありますけれども、季節ごとにはやる病気…例えばインフルエンザはいつも12月ぐらいから2月、3月ぐらいまでで、真夏には全くないわけではないですけれども、ほとんどありませんね。水ぼうそうも一年じゅうありますけれども、冬場、いまごろがわりあい流行る時期で、このように流行する病気にはみんな「季節」があります。
 どうして季節があるのかというのは、実はなかなかわからない。例えばインフルエンザは、寒くて乾燥しているときに多いと誰も思うのですけれども、南の国へ行くと、熱帯地方は暑いときにでもインフルエンザがあります。北陸地方へ行くと、冬場は結構湿度が高いわけですが、そういうところでもちゃんとインフルエンザは流行っている。どうして流行るのかというのは実はよくわかっていないのですけれど、必ず季節性があるということは経験からわかっているわけです。
 ただ、最近はだんだん季節性がなくなって、夏風邪の代表である手足口病が12月ぐらいになって流行するということもあります。これからの寒い時期に流行ってくるロタウイルス(白色便性下痢症)の感染症を、私は8月の真夏の一番暑いときに診たことがありました。アレッと思ってよく聞いてみたら、オーストラリアに旅行に行って帰ってきたばかりだった。こんなこともありますが、一般的には気候で流行りやすい時期というのがあることは確かです。

(2) 子どもと感染症

 子どもと感染症ということで、先ほど前川先生がおっしゃっていたように、子どもは病気にかかって免疫ができます。かからなければ免疫ができません。だから、ずっと病気にかからなくていい子だと思っていたのが、幼稚園に入った途端にしょっちゅう病気をするということになるわけで、病気をすることはある意味では予防接種をしているのと同じようなことなのことです。それによって免疫を得て、もうかからないとか、かかっても軽く済むというふうになっているのだろうと思います。ただ、命にかかわる重い病気もありますので、そういうものは、例えば麻疹のように予防接種ができていますから、きちんと受けることが大切になります。
 どのくらい風邪を引くかというと、統計でよく言われているのは、1歳代〜2歳代は年間10回ぐらいは風邪を引く。だから、毎月熱を出すのは普通だということになりますけれども、それぐらい風邪は引くものだというふうに思っていてください。風邪の大部分はウイルスで起こりますが、ウイルスはそれこそ何百種類とあります。一つひとつ違うウイルスですので、風邪を一つ引いたらもう引かないというわけではありません。

(3) 感染症で大切なこと

 感染症で皆さんにぜひ知っていただきたいことは、まず病原体が何かということです。水ぼうそうであれば水ぼうそうのウイルスで起こります。病気の大部分はウイルスで起こるのですけれども、中には細菌で起こる感染症もあります。例えば溶連菌感染症、病原性大腸菌によるなどですが、原因として圧倒的に多いのはウイルスということになります。
 細菌は、培養といってノドなどから取って、培地という栄養のある寒天の上に置いて生やしておくと、だんだん増えて、同定して何が原因かということがわかるのですが、ウイルスというのは細胞の中でしか生きられない。だから、寒天の培地とかで生やそうとしても生えないわけです。そこで細胞を植えたところにウイルスを乗せて、その中でウイルスを増やして調べるということになりますけれど、検査の結果が出るまでにすごく時間がかかる。しかもお金もかかって、保険も通らない。1回調べるのに何万円もかかったりしますので、研究とかでなければ日常的にはやらないわけです。
 最近はインフルエンザで皆さんご存じだと思いますけれども、「迅速診断キット」というのがあります。鼻をコチョコチョッとやって、短時間で診断できます。こういう検査がすごく発達してきたので、幾つかの感染症は速い時間で、診察室にいる間に正確な診断ができるようになりました。ただ、それはごく一部です。わからない病気のほうがずっと多いということも知っていただきたいと思います。
 もう一つ大事なことは、どこから感染したかということです。感染症は必ずどこからか感染するわけです。感染源が絶対にあるのです。そのことをまず考えていただきたいと思うわけで、例えば水ぼうそうが流行っていて、保育園でうつったとすれば、前に水ぼうそうになった子がいるわけです。逆に、耳の下が腫れて病院でおたふくと言われたというのですけれども、周りをいくら見ても全然おたふくの患者さんがいない。自分のクリニックを見ても最近は患者さんがまったくいない。そういうときに本当におたふくかというと、血液検査をしてみると実際違ったりすることが多いのです。ほかにも耳下腺が腫れる病気はたくさんあります。
 診断をするために私たちは、周りで何が流行っているか、感染の機会があったかをまず考えます。インフルエンザであれば潜伏期間は1日、2日ですから、2日前に例えば支援センターに行って遊んだとか、映画館に行ったとかを聞き出し、そういうことがあれば「インフルエンザくさいな」というふうに思うわけで、症状だけから診断しているわけではないのです。皆さんも、いま何が流行っているかということを考えれば、お子さんがどういう病気かということをある程度想像ができるわけです。
 もう一つは、潜伏期間が何日かということが大事ですね。水ぼうそうはぴったり2週間です。インフルエンザは1日、2日。そういうふうに大体決まっています。麻疹だったら11日なので、発病した11日前に感染したことになりますから、そのときに、誰か麻疹にかかっていたんじゃないかということを考えることになります。
 ウイルスによる病気はほとんど効く薬がないのです。インフルエンザや水ぼうそうには効く薬がありますけれど、ほとんどの風邪には特効薬がありません。だから皆さん、風邪を引くと風邪薬をもらいにいってお薬で治ったと思うわけですけれども、風邪はお薬で治っているわけではないのです。ほとんど自分の力で治っているわけです。咳が出たら咳止め、鼻水が出たら鼻水止め、熱が出たら解熱剤というふうに、対症療法のお薬を出しているだけで、自然経過はその子の免疫力にかかっているということをよく知っておいていただきたいと思います。ただ、いろいろな合併症があります。肺炎になるとか、中耳炎になるとか、髄膜炎になるようなこともありますので、そういう合併症を見逃さないように子どもを見ていることが大事になるわけです。




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