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第28回 母子健康協会シンポジウム 季節と子どもの病気
2.季節と感染症 — 保育園で流行する病気とその対策 —
横田小児科医院長・小田原医師会副会長 横田 俊一郎 先生



(7) 夏に流行する感染症

手足口病

 それから、夏に流行する病気ですけれども、ヘルパンギーナと手足口病が有名ですね。これはエンテロウイルス(エンテロというのは腸管という意味ですが)、お腹の中で増えるウイルスで起こる病気です。いまは冬場でも結構見られるようになっていて、ヨダレなどでうつりますので、保育園などで大流行することが多いです。この病気は休ませるかどうかということが随分話題になったりするのですが、これについては平成五年の日本小児科学会見解によると、あまり休ませる意味がないということになっています。
 それはどうしてかというと、不顕性感染…要するにかかっていて人にうつす力はあるのだけれども、ほとんど症状のないお子さんが非常に多いということです。もう一つは、ウイルスの排泄期間が長い。よくなったと思っても、まだ便の中にはいっぱいウイルスが出ている。そういう人たちを、ただ発疹が出ているという理由で長く休ませることは意味がないということです。もちろん、熱が出たり口が痛くて食べられないとか、具合が悪ければお休みします。だけど、元気になったら来させてもいいというふうに小児科学会は見解を出していますし、皆さんもそのことは理解してほしいと思います。保育園でうつされたと言われるのがすごく嫌だという気持ちはよくわかりますけれども、そのために大丈夫なお子さんが来られないということも、またかわいそうなことだと私は思います。

りんご病

 いま、私の地区で流行っているりんご病(伝染性紅斑)も同じですね。この病気も、発疹が出たころにはもうウイルスが体の外に出なくなって、人にうつらないということがわかっています。だから休ませる必要はないわけです。
 この伝染性紅斑を起こすパルボウイルスB19というウイルスはヒトの血液の若い細胞に感染して、そこで増えるウイルスなのです。特別な血液の病気の人がかかると、その人がすごい貧血になることもわかっています。伝染性紅斑が妊婦さんに感染しておなかの中の赤ちゃんに感染すると、赤ちゃんは若い血液の細胞をいっぱい持っているわけです。そこで赤ちゃんがものすごく貧血になって、胎児水腫といって極度にむくんだ状態になり、流産の原因になるということが知られています。だから、妊婦さんにとってはちょっと危険です。
 ただ、いま言ったように、伝染性紅斑はうつる時期は何も症状がないんです。だから、誰がうつしているか全くわからないわけです。発疹が出たときにはもううつらないわけで、その1週間ぐらい前にうつる時期があったわけですけれども、それはわからないのです。そういうときにどうするかということですけれども、アメリカが出している「RedBook」という、感染症を扱うときのバイブルとされる本には、妊娠可能年齢で伝染性紅斑(りんご病)にかかる率は1%〜2%ぐらい、妊娠の前半20週までの間にかかった人で、胎児水腫になるのが2%〜6%と書かれています。
 アメリカの小児科学会では、例えば幼稚園の保母さんが妊娠しても、伝染性紅斑が流行しているからという理由で休ませることは推奨しない、要するに休まなくてもいいというふうに言っています。ゼロではありませんけれども、非常に確率が低いということです。だから、あまり神経質になることはありませんけれども、妊婦さんで心配であれば、幼稚園の中に長いこといないようにするとか、そういうことをお知らせしておくぐらいで十分だろうと思います。

アデノウイルス感染症

 次に、アデノウイルスというのがあって、有名な病気はプール熱です。プールでその病気の子が泳ぐと、目やにの中にウイルスがいっぱい入っているので、何日か後に全員が同じ病気になるということが昔はあったわけです。それを防ぐために、いまはプールに塩素が入っています。塩素を入れるとウイルスを不活化してうつらないようにできるのです。だから、塩素が入ったプールではうつりにくいのですけれども、いまでも、炎天下でだんだん塩素の濃度が下がったりすると、プールでうつることもあります。
 アデノウイルスは50種類ぐらいタイプがあるので、プール熱になるものもあるし、ノドが腫れて高い熱が出るだけというようなこともあります。私の近くの幼稚園で、一時、アデノウイルスの大流行がありました。アデノウイルスというのは、ノドがすごく腫れて、白いべったりしたウミみたいなものがつくのですけれども、そこの幼稚園から来る熱のある子どもは、そんなのがついていなくても、検査するとみんなアデノウイルスというのを一度経験したことがあります。そのぐらい大流行になることもありますけれども、ただ、治療法はありません。4日くらいたつと熱が下がって、大きな後遺症を残すこともないのがアデノウイルスということになります。

とびひ

 とびひは、夏場になるとたくさんあります。この病気は唾などでうつるのではなくて、接触感染ですので、ジクジクしたところを直接触ったりするようなことがなければ、隣で遊んでいたからうつるというようなものではありません。とびひは休ませなければいけないとよく言われますけれども、よっぽどひどいときは、もちろん何日か休んでいただきますが、部分的で、しかもそこがちゃんと覆ってあれば、うつらないということも知っておいていただきたいと思います。



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