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第29回 母子健康協会シンポジウム 親と一緒に子育てを
1.コミュニケーション保育の実践
私塾まきば代表 山田 雅井先生



挨拶で育つ
 朝、まず子どもたちが入ってきます。バスを使っていませんので、お母さんと子どもと二人で来ることが多いです。もちろん兄弟のいる人もいますが、例えば「○○ちゃん、おはよう」と、必ずその子の目を見て、名前を呼んで、そして「おはよう」と、本当に笑顔で子どもたちを受け入れること、それが朝の一つの大事な仕事だと思っています。そのときに顔色が悪かったり、「何かちょっと変だなあ」と思ったり、いろいろな表情をしたりしますね。また遊びの中で、ほかの先生たちと、「ここ最近、ちょっとこうなんですよ」ということを話し合うと、そこに気をつけていくことができます。
 そのようにして、まず子どもの目を見て、笑顔で受け入れる。「あなたのことを待っていたのよ、今日も一緒に遊ぼうね」と、心から子ども一人ひとりを受け入れるということ。忙しくても、できるだけその子の名前を呼んで、おはようと挨拶を交わすことができたらば、まず1日目、その子の名前は1回呼ばれたことになります。確実に「あなたがここに来たことはよかったね」と、受け入れることができます。私たちもそのことを覚えられるし、子どもも自分の名前を呼ばれて、「飛び込める場所があった」ということを確認することができると思います。
 でも、どの子もみんな「おはよう」が言えるわけではありません。隠れる子もいますし、横向いてしまう子もいます。でも、いいと思います。無理に言わせる必要もないと思います。ともかく私たちのほうから、あなたを待っていたよ、今日もよく来たね、という気持ちを心を込めて受け入れてあげること、それがまず第一だと思います。
 また、お母様やお連れになった方と、「おはようございます」と言葉を交わすこと。当たり前のことのようですが、きちんと笑顔で向き合えるということが以外と流されてしまっていることが多いのではないでしょうか。1日が始まるという一つの礼儀を大切にすることで、スタートの押しボタンが入ると思います。
 この「挨拶」ということは非常に大事だと思っています。子どもたちというのは、大人以上によく周りのことを見ていて、すごく気を遣ってくる子もいるし、何一つ気づかずに過ぎていってしまう子もいます。気づいた子に、「ゴミ拾ってくれてありがとう、○○ちゃん」と言うと、気がつかない子も、「ん?」と、そのことを見たり聴いたりしていると思います。
 「ありがとう」と言われた子は、したことを見ていてくれたんだと喜びます。取ってくれて「ありがとう」、片づけてくれて「ありがとう」。やさしい子は知らないところで小さな子の面倒を見てくれたり、また、トイレのスリッパを揃えてくれたり、いろんなことをしてくれています。はっと気がつくと、先生の片づけも手伝ってくれたりしています。そういうときにも、「ありがとう」、こうしてくれて「ありがとう」という言葉をかけてあげると、自分のした行為を認めてもらうこと、自分自身を認めてもらうことがはっきりすると思います。また、他の子の「気づき」にもつながると思います。子ども同士でも、小さな行為の中で、「ありがとう」という言葉を大切にしていくことを伝えています。実際に子供どうしでも当たり前のように「ありがとう」を言い合っています。
 「ありがとう」は楽ですが、「ごめんなさい」が言えない子がいます。「うちの子は一度もごめんなさいを言ったことがありません」と言うお母さんもいらっしゃいます。でも、そんなにしょっちゅう「ごめんなさい」でなくても、このことだけは謝らせたいというときがありますね。悪いことは悪いとしっかり覚えること、謝ることは負けでもなければ侮辱されているわけでもないことをわかってほしいと思います。でも、教えなくてもその子は、いけないことをしたんだと気づいているはずです。気づいたときに、謝ることがどれほど自分の心の解決になるかということを、経験してほしいのです。
 しかたなく「謝ればいいだろッ、ごめんなッ」ではなくて、その子と、ちょっと違う部屋に行ってよく話をします。このことはいけないこと、どうしていけなかったのか、どうしてあなたが謝らなければいけなかったのか、謝ることは決して負けでもなければ恥ずかしいことでもないと、よーく話しますと、(ときどき脅すこともあるんですけれど)納得してくれるんですね。かすかな声でも、思わず言ってしまった言葉でも、「ごめんなさい」ができると、子どもがホッとするんです。そのホッとした顔が私はものすごく好きです。「あ、言えたんだ」というときの、自分の中で解決ができたというときの子どもの心をたくさん認めてあげるのですね。
 また、子ども自身が謝れたことを確認できたときに、その子は次の人間関係をつくっていくことができるのです。でも、最初からというのではなくて、いろいろなことを繰り返して、そういう場面も何回か経験して、いままでの経過をずっと見ながら、「このことについては、今日は彼ときちんと話し合おう」という設定の場所をつくる。自分も余裕を持って、そういうときにそういう時間をつくって、彼と保育者とその関係の中で解決を見出してあげる。その場所を、流してしまわないでつくってあげる。そうすると、すごくさわやかに、その子どもはステップを踏んでくれるんですね。そんなことをしています。
 それから、食事のときの感謝の心。「いただきます」も、「ごちそうさまでした」も、本当に感謝なんだということ。そして、お食事はおいしかったね、という時間にしてあげたいと思っています。食することは、体も心も健康であるための第一の基本です。そのときに、いたずらしながらとか、誰かが嫌な思いをするというのは、私はとてもよくないと思っています。その子を許したために誰かが嫌な思いをする、そういうのではなくて、みんなが「おいしかったね」と言える食事のマナーを教えると、本当に子どもというのは素直なので、伝わるんです。ハイと言う子もいるし、横向いている子もいますけれども、「思い」を伝えると、毎日の生活ですので、そのことが子どもたちの中にだんだん浸透していくようです。
 また、お帰りのときも、さようならと言う時間の前に少し時間を持って、お話ししたり、遊んだり、ゲームをしたり、また、私のところはキリスト教の主義で聖書に基づいて保育していますので、感謝のお祈りをして帰るのですが、「また明日、元気で来てね、待ってるね、楽しいことしようね」という思いを心から持って、「また明日ね」という言葉で帰します。
 ですから、本当に要所、要所ですが、挨拶を大切にしていくと、それだけで子どもたちは、自分の存在とか、先生の存在とか、お友達の存在をきちんと受けとめていくための、いいきっかけになっていくのではないかと思っています。




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