母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 1 言葉の発達とその規定要因 > 語彙・語意の獲得から構文・文法規則の獲得
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第二十四回 母子健康協会シンポジウム |
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保育におけることばの問題と対応 |
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子 |
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語彙・語意の獲得から構文・文法規則の獲得 |
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一語発話期とか、一語文期とかいいますが、まだ、子どもたちの情報処理能力として一度に一語しかしゃべれない時期があります。「マンマ」と言うけれども、それは、「マンマが欲しい」とか、「これはマンマだ」とか、「あそこにマンマがあったね」とか、ひとつの言葉がいろんな意味機能で使われます。限られた表現を使って、いろいろな気持ちを伝えているのですね。
一語発話期というのは、二語発話、三語発話という、長い発話につながっていく、ほんの半年程度の非常に限られた時期です。言葉の達者な子どもは瞬く間につながった発話を使いこなしていくし、一方で、一語発話期の長い子どももいます。特に一語発話期は、一つの言葉がいろんな意味を担ってきますので、豊かに解釈をしてあげることが、重要なことのようです。
子どもの発話に対して、子どもの養育に関わる大人が、リッチ・インタプリテーション、日本語に直訳すると、「豊かな解釈」をしていきます。子どもが「マンマ」と言ったときに、「これはマンマだね」とか、「ああ、マンマが欲しいのね」とか、「ああ、ワンワンがマンマ食べたね」とか、その子どもの限られた発話が何を意味しているか、ということを豊かに解釈してあげる。それは、もしかしたら正しい解釈じゃないこともあるかもしれません。
養育者はどのように子どもの発話を解釈するかというと、発話と状況と結びついた解釈をしています。発話された状況にあわせて、子どもがどういうふうなことを言っているかという、子どもの意図とか心を解釈しようとします。そういったように豊かに解釈をして、その応答を子どもに返してあげるということが、発達の次の段階で子どもは、どういうふうにそのことを表現したらいいのか、ということを学ぶ重要なきっかけになるようです。
言葉の発達というのは本当に面白いなと思うのですけれども、大人が物を提示して「これは○○、これは××」と教えることよりも、子どもが要求を訴えたいような状況をつくるほうが、子どもの要求を引き出せるようです。言葉を使う状況に、いかに子どもが放り込まれるか、ということのほうが言語環境として重要なことのようです。大人は、学校での教室場面の学習のような教え方ではなく、生活の中で、言葉が使われていく場面を作っていくことが、自然に、言葉の使い方を学習する、ということを知っておきましょう。
それから、言葉がつながってきたあとの話を、ちょっとだけさせていただきますと、特に、日本語の場合は、自分の気持ちをあらわすときに、文法的には終助詞といいますけれども、「何とかねぇー」とか、「何とかだよぉ」とかというように発話の最後にくっつく助詞があります。日本語の場合、それが内心の感情や気持ちをあらわすために使われるようです。だから、終助詞を使えるようになった子どもは、あまりよく分かっていなくても、相手と気持ちをつなぎ合わせたいとき、ごにょごにょとよく聞き取れないような発声をした後、「ねっ、ねっ、ね」、と、その部分だけ妙に明瞭に気持ちを込めたコミュニケーションをしてきます。多分、そんなところに、気持ちの通じ合わせというのが表現されてくるようです。自閉症とか対人関係障害とか、人とのかかわりが上手に持てないこどもの場合は、言葉を獲得したあとも、なかなかそういう、気持ちをあらわしていく終助詞というのが獲得されにくいといわれます。
皆さん、子どものことばの終わりの部分にも注目してみると、今まで気づかなかった子どもの気持ちに気づかれると思います。言葉の終わり、「何とかねぇー」とか、「何とかよぉー」、とか、「なんとかなん」なんて、そんなところに注目していただくと面白いかもしれません。
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