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第二十四回 母子健康協会シンポジウム |
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保育におけることばの問題と対応 |
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子 |
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音韻体系発達と音声の発達 |
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ここで、音韻体系の発達と音声の発達について、簡単に紹介しましょう。音韻体系の発達は、音声特有に働く知覚認知機構の存在とその発達が前提となります。音韻は音声の最も小さな単位です。乳児は生まれた直後から微細な音に違いを聞き分けられ、世界中のどの言語にも適応できる音韻知覚能力あります。ところが、育ってくるうちに、母音は生後六ヵ月、子音は生後十ヵ月には、母語の音声のみを聞き分け可能となります。つまり、子どもは言葉を使い始める頃には、母語に存在しない音韻の違いは聞き分けられなくなるというのです。
発達が常に新しい能力を獲得することだけにあるのでなく、音韻体系の発達は、すでに持っている能力を失うことによって母語の言語体系に適応していくことが分かり、興味深いことです。
次に、音声の発達をみていきましょう。まず誕生直後は、泣きと叫喚音だけだった乳児は、生後二〜三ヵ月経ると、叫喚音だけでなく、喉の奥でクーとなるような音であるクーイングが聞かれます。これは、発声と構音を結びつける呼吸システムコントロール学習だといわれます。生後五ヵ月には、過渡期の喃語といわれる「子音+母音」の構造が不明瞭な喃語が現れます。生後六ヵ月には規準喃語といわれる複数の音節をもち、「子音+母音」の構造を持つ喃語が現れます。これは聴覚のフィードバックループを確立したもので、喃語が反復するという特徴がありますので、反復喃語ともよばれ、養育者は、この喃語が発声されると、話し始めたと感じるようになります。生後十一ヵ月頃になると、非重複喃語といわれ、「ババババ」のような規準喃語から「バダ」「バブ」のように喃語の「子音+母音要素が異なる母音」が反復して表出されるようになります。
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