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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
4 討議(3)



秦野 発音のこと、吃音のことで、ちょっと補足をさせていただきます。
 言葉の発達でどのようにコミュニケーションしていくかという点です。どもるときにお母様がとても気になさるということと、友達が、「あなたの言っていること、わからない」とか、「何とかちゃんは、先生のこと、テンテイ、テンテイ、と言って、おかしい、赤ちゃんみたい」とかと言うときに、どういうふうに対応したらよいでしょうか。
 子どもはバスのことを「バシッ バ バシッ バシッ」といったとき、大人が「バスだね」と応じても「うん、バシュッ」と言っている会話を思い浮かべてください。子どもが、まだ自分の発音を自覚してないときに、発音を訂正されても、どうしようもないですよね。一つには、お母様への対応、それから同じ年齢の子どもたちへの対応、それから、そういう環境による二次的な吃音や発音の問題という三点についてお話しさせていただきます。
 一つ目は、お母様が「子どもが、はっきりしゃべらないので何を言っているかわかりません」と訴えてきた時に、皆さんはゆっくりと、「でも、お母さん、お子さんの言っていることの意味は通じますか」と尋ねてください。「意味はわかるんですけど、発音がはっきりしない」とお母様がおっしゃったら、「意味が通じたら、とりあえずは、それで十分ですよね。子どもが緊張しないように楽しいやりとりしてあげましょう」と言ってあげてほしいと思います。
 でも、人間って面白いもので、自分が気にし始めると、そのことばかり気になってしまいます。発音のことで、専門機関の受診をもしお勧めするのであれば年長児の後半、就学時健診に行く頃に、「ご心配だったらば、ちょっとご相談に行ってみたらいかがですか」、「でも、どこかに相談に行けば、お子さんの発音がすぐ明瞭になるということではなくて、お母さんが安心するために、相談に行ったらいかがですか」と私はお伝えするようにしています。それはなぜかというと、お母様が心配なことをたくさん持って小学校に子どもを行かせると、そのことだけで、お母さんの緊張が子どもに伝わっていくこともあるので、お母様の子育ての心配事を少なくしたいと思うからです。ただし、専門機関に相談に行っても、多くの場合、発音の定期的訓練にはつながらないですね。それは、お母様が訴える幼児的な発音とかどもりとか、発達の中での一過性の表面的な問題というのは、個別の訓練を週に一回したからといって、すぐ直るというものではないということと、全体的子どもの発音のアセスメントをしてもらって、セラピストからのアドバイスを受けるという対応であることが大半かと思います。
 それから友達への対応です。「赤ちゃんみたいでおかしい」と言っているときは、先生がきちんと、子どもさんたちに言ってあげてほしいと思います。「みんなはケンジ君のことを、『先生のことをテンテイテンテイと言うから赤ちゃんみたいでおかしい』と言うけど、でも、ちゃんと一生懸命お話ししているよ。一生懸命お話ししている人のことを『おかしい』と言ったら、そういう人のほうがおかしいんだよ」と言ってあげてほしいと思います。そして、そういうちょっと人と違うことについて問題視するというような、子どもの心の発達についての配慮をしてほしいと思います。そういうことを伝えると、多くの子どもたちはすぐに先生の言っていることが理解できます。ついこの間まで、「おかしい」とか「変だ」とか言っていた子が、「でも、ケンちゃんは一生懸命お話ししているよね」と、ケンジ君に対する見方が変わります。
(写真) それはまさに、いろいろな子どもの個性があって、個性のある子、違いがある人たちを認めながら、一緒に育っていくという教育の基本です。そういう意味で、たとえばある子が、変わった癖を持っている、話し始めるときにちょっとつっかえたり、どもったりという癖を持っていたとしても、だからどうなんですかという話になると思います。
 テレビで見かける芸能人や有名人の中に、チックが気になる人がいますが、でも、立派に社会生活を送っておられる。その人たちが何か社会生活で不都合ということはなくて、ああいう個性の持ち主だなと思って、私たちは理解していますよね。そういうところでは、一つの個性として認めていくことによって、それが受け入れられていくことかなと思います。
 ただ、緊張があるとどもるというタイプのお子さんは、生活の節目にやっぱり吃音が出てくるんですね。たとえば、およそ最初に出てくるのが、三歳過ぎです。お母様が、「うちの子は、吃音、どもりがある」と訴えてこられます。そんなとき「よかったですね、お母さん。言葉の遅れている子はどもりませんからね」と私は言います。言葉が出てきて、つながった言葉がしゃべれるようになった子どもがどもるのです。それでもお母様は大変気にされますね。クラスが変わったとか、担任が代わったとか、転園したとか、日常の生活環境が変わるところで子どもは緊張するから、どうしてもどもるという現象が生じます。「大丈夫ですよ、お母さん。毎年、四月に子どもは緊張しているのでいろんなことが起こるのですよ。発音ははっきりしませんが、何を言っているかは私たちにはわかりますから、大丈夫ですよ」、「だんだん気にならなくなってきますよ」ということと、「でも、また小学校に行ったり環境が変わったりすると、少し吃音が出てくるかもしれませんね。子どもが緊張しているからですよ。だから、ゆったりと過ごさせてあげましょうね」と言います。そういう子は、そういう個性だと思えばいいですね。「せっかくどもらないようになったのに、どうしたんだろう。またどもり始めた」と思うと、親の緊張が伝播していきますけれども、「ああ、また二、三ヵ月したらまた落ち着いてくるんだろう」と思えば、養育者は安心して子どもに接することができますよね。
 私もどもったことがあります。スピード違反で捕まって、大慌てしたときでした。「い、いえ、だ、大丈夫です、何もしてません」一生懸命、いろんなことを伝えなくちゃ、短い間に伝えなくちゃと思うと、どんなときでも人はどもりますよね。だから、焦らないようなゆったりと話せる環境をつくるということが大事だと思います。
 さらに話し始めの遅いお子さんは、全体的に発音の未熟なことが多いです。たとえば三歳過ぎてしゃべり始めたとか、しゃべり始めてなかなか長くつながらなかったというお子さんは、全体的に発音が聞き取りにくいということがあります。全体構音の未熟といいますけれども、それはある意味で当たり前ですが、呼気と吸気、のどを使う、調音、音をつくるとかというコントロールする経験が少ないわけですね。ですから、しゃべり始めが遅いお子さんというのは、どうも遅くまで未熟な構音が残っていく。では、それはいつ頃までにとれたらいいかというと、小学校二年生ぐらいまでを目安としてください。
 しゃべり始めの大変遅いお子さんをご存じの方がいらっしゃると思いますが、私の知っている遅くしゃべり始めたお子さんは、重度の自閉のお子さんで五歳過ぎです。しゃべり始めたときに、どんな声だったかというと、「ヴヘエーッアーッ」という喉の奥から絞り出すようなしわがれ声でした。これまでの生活でキーキーいうような奇声はありましたが、話すことのために喉を使ってこなかった時期があまりに長かったのでしょう、うまく口腔の機能がコントロールできないんですね。
 私の友人の愛知県コロニーで障害児の指導をしていた先生が、小学校四年生でしゃべり始めた自閉のお子さんを指導されていました。しゃべり始めは、先ほどの子どもと同じように「ウーッ」という喉から搾り出すようなしわがれ声でしたが、一年ぐらいたつと、大分、明瞭できれいな発音になってきました。喉は使うということが大事ですね。前川先生もおっしゃったように、発声があるということは、言葉につながるという意味で、どんなのでもいいですね。「レロレロレロレロ」でも、「ウーウーウー」でも、いろんな音を発声遊びとしていくなんていうことも、言葉の発達には非常に重要だし、未熟音を直すときに、言い直しをさせるよりも、「レロレロレロレロ」とか、「プップップップッ」とか、「シュッシュッシュッシュ」とか、「ポッポッポッポ」とか、いろんな音を遊びとして出していくというほうが、口腔のコントロールができていくような気がいたします。
 訓練士さんたちは、喉や舌を使わせるために、たとえば舌を上あごにつけるような練習をするときには、上あごにちょっとジャムを塗ってあげると、それをなめるから「レロレロレロレロ」となる。お口の動かし方の練習は、いろんなことでできます。紙が巻いてあるへび笛をフーッと吹くと、プーッっと音がして、シューッと蛇が動くのが目に見えます。それから、細かい紙吹雪をフーッと吹き飛ばす、難しいけどシャボン玉、うがいとか、ラッパなどをとりいれてみましょう。ラッパは吹いても吸っても音が出るから、楽しい遊びですね。と、いうようにいろんなところで息を吸ったり吐いたりの遊びをと豊かにしていくことが、全般的に発音の基礎につながっていくと思います。ぜひ、皆さん方が工夫していただければ、と思います。




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