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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
4 討議(5)



前川 幼児語はそれほど問題にならないということ、どもりは初期のうちは周りで気にしすぎないで、重症にならないようにだけ気をつけましょうということです。では、言葉の遅れの質問です。

前川 「来年度入園児で、全く言葉が出ない子が二人います。保護者への対応、子どもへの接し方にアドバイスを」。「年々増えている言葉の問題に悩んでいます」。それから「言葉が三歳になっても出てこない子がいます。対応は?」。「三歳十ヵ月の男児、『ママ』『バイバイ』『いや』など、十ぐらいの言葉以外は全く使わず、うなづくなど、身振りのコミュニケーションをしています」などの質問です。
 入園というのは、三年保育で三歳と解釈していいですか。それでは、三歳になって、一つも言葉が出てこないというのは、さっき私が挙げたように、理解力です。内言語の問題がどうかで、たとえば、「あれ取ってきて」とか、「冷蔵庫で何出してきて」とか、「赤どーれ」とか、「お手てどーれ」とか、そっちのほうの理解がどうかということが、第一です。言葉は出なくても、言葉にかわる声が出ているかどうかということも、一つの問題だと思います。
 近頃の統計によると、三ヵ月健診で、四分の一の母親が、子どもにミルク飲ませながらテレビ観ているというのです。子どもの目を見てないというのです。だから、いかにいまのお母さんたちはうちでは、そういう触れ合いが少ないかということです。子どもがうるさかったら「テレビ」ということが多いので、それをまず気をつけてください。
 それから、知恵の発達の遅れは、ほかが遅いです。たとえば、自分で御飯が食べられないとか、おむつが取れないなど発達が遅れていることが多いということです。三歳児に入っての言葉が遅い問題についての注意点を秦野先生にお願いします。

秦野 三歳過ぎて、言葉がまだ出ないというと、何ごともドンマイのお母様でも、さすがにちょっと気になりますよね。言葉が出ないで何が困るって、子ども自身が困ります。三歳になると、子どもの行動半径も動きも活発になりますし、自分の気持ちも育ってきますので伝えたいこともたくさんあるけれども、言葉が出てこないと適切なコミュニケーションができませんね。どうしてもてっとり早く自分の要求を実現するために、友だちに対しては実力行使となり、取っちゃったり、かんじゃったりすることがあります。本人は、「ちょうだい」とか「貸して」とか言う適切な手段を持っていないがために、周囲からはトラブルメーカーと見られるし、一方で、子ども自身のストレスも溜まってきます。
 一歳半を過ぎて二歳ぐらいのお子さんで、かみつきが一時期すごく多いというのがありますけど、それは、うまく自分の要求を表現できないからだと周囲は大目に受けとめますが、三歳児になってかみつきを繰り返すと、噛まれた部分も相当痛かったり、この行動が園全体の問題になったり、しつけの問題になったりしてきます。ある年齢になって、言葉がないというのは、子ども自身が困ります。いま、前川先生のおっしゃったことと、全く同じですけれども、逆に、その子どもが、ほかにコミュニケーション手段を何を持っているかということを探したいですね。ここでは、ニコニコしているとか、動作がたくさんあるとか、発声があるとか、そのコミュニケーション手段をどういうふうに使ってどこまでできるかということを、しっかり見ていただきたいと思います。
 聴覚の問題も、まだ三歳でわからないことがあるのですが、いま、新生児聴覚スクリーニング検査というのが始まりまして、新生児で聴覚の問題をとらえることができるようになりました。聴覚というと、私たちは、聞こえる・聞こえないというふたつの世界を考えがちですけれども、右の耳はよく聞こえて、まったく問題ないけど、左の耳がちょっと聞こえにくいという場合でも、知的遅れがなく勘のいいお子さんの場合、日常では気がつかれず、結構うまく過ごしているけれど、実は難聴だったということがあります。耳のある部分ちょっとだけ問題があるという場合は、案外と気がつかなかったりすることがあります。
 ですから、前川先生がおっしゃったように、たくさんの子どもに出会っている私たちは、何が大丈夫かという消去法をして、残ったときに、どの辺が問題なのかを、多分見つけられると思います。
 たとえば、「これはどうも耳は大丈夫らしい。理解も大丈夫。けれども、表出だけの問題だとは思えない。大人の言っていることはどうもほとんどわからないようだ。」目の前で起こる状況を手がかりに、なんとなくそれらしく振舞っている子どもの場合、知的な遅れやことばの遅れが気づかれないこともあります。
 「うちの子は何でもわかっています。言葉だけが出ないんです」と、勢いづいているお母様に子どもの様子をお伝えするのは、結構難しいものです。「うちの子どものことは心配していません」とは、実は防衛しているのです。お母様はやっぱり心配だから、先生たちに「おたくのお子さん遅れていますね」と言われないように、一生懸命防衛するのです。
 「うちの子は何でもわかっている」ってお母様がおっしゃったとき、何がわかっているのかをはっきりとアセスメントしましょう。たとえば、お父さんが帰ってくると、黙っていても子どもが冷蔵庫からビール持ってくることを例に取り上げて、「うちの子は何でもわかっています」といいますが、三歳児がそんなことしなくてもいいんですけどね。(笑)状況理解はあるけれど、状況と離れたときに言葉で言って分かるかどうかということです。三歳児で、大体状況に合わせて行動ができる、いろんなことを理解しているように見えるけれども、言葉が出てこないお子さんの場合、状況で理解しているのか、言葉で理解しているのかを確かめていただきたいと思います。それから、一歳半とか二歳だったらば、そういう流れの中でしかるべき行動ができればまずよし、と理解しております。




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