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第26回 母子健康協会シンポジウム 保育における歯の問題と対応
3.母乳とむし歯、おしゃぶり、指しゃぶりの考え方
神奈川県立保健福祉大学教授
小児科と小児歯科の保健検討員会長
前川 喜平先生



指しゃぶり


 皆さんが一番悩んでいるのは指しゃぶりです。指しゃぶりというのはお腹の中の赤ちゃんもやっています。まず、そのことを知っておいてください。お腹の中の赤ちゃんはどうしてやるのかというと、生まれてから母乳を吸うことを覚えるのです。オギャーと生まれてからすぐ吸えるわけではなく、お腹の中で練習しているのです。
 乳児は4、5カ月過ぎになると、そばに来たものを何でも口に持っていってしゃぶります。あれは何をしているかというと、「これはお母さんの手だ」とか、「スリッパだ」とか、「紙だ」とか、いろんなことを学習している。学習上、大切なことで、形だとか形状を学習しているのです。普通は、つかまり立ちとか、伝い歩きとか、一人立ちとかしてくると、指しゃぶりしていたら手が使えない。だから、自然と減ることになっています。
 幼児期前半、2歳半で母子分離ができます。ですから、1歳半頃になると、積み木を積んだり、おもちゃの自動車を押したり、お人形を抱っこしたり、遊ぶようになるので、昼間の指しゃぶりは普通は減ってきて、退屈なときとか眠たいときだけに見られるようになります。
 3歳以降とか学校へ行く前になると、母子分離ができて、子どもがいよいよ家庭から外へ出ていきます。それで友達と遊ぶようになると、指しゃぶりは自然と減ってくる。5歳を過ぎると指しゃぶりはほとんどしなくなるというのが普通です。
 ところが、学童期、6歳以後になっても稀に昼夜頻繁に指しゃぶりをしている子が存在するのです。6歳以降になったら、特別な対応をしない限り絶対にやめられない。それだけをまず知っておいてください。
 指しゃぶりの頻度というのは10から20%ぐらいです。
 次は指しゃぶりの弊害(図4から7)です。咬み合わせにどういうふうに影響を及ぼすかというと、いま言ったように、前歯が突出する、口が開いて開咬する、歯並びがずれる。この三つです。
【図4〜7】
 開咬で口にすき間ができるとそこに舌を挟む。それを「舌癖」といいます。これが出てきてしゃべるから、サ行、タ行、ナ行、ラ行が舌足らずな音になってしまう。そうすると、風邪もひいてないのに今度は口を開いているわけです。口が渇いてむし歯ができやすくなる。そういうことまであるわけです。
【表11】  対策(表11)は乳児期では、とにかくめくじらを立てないで、生理的な行為だから、そのまま経過を見る。幼児期前半の時期も、遊びが広がるにつれて昼間は指しゃぶりが減少して、退屈なときや眠たいときに見られるにすぎないから、あまり神経質にならずに生活全体を温かく見守る。
 ただし、指しゃぶりを非常に気にしている親。1日じゅう頻繁に吸っている、吸い方が強くて指にタコができてしまう。そういう子どもは習慣化する可能性があるので要注意です。親がのんきに「してもいいよ」としている親は、子どもは指しゃぶりをやらないのです。親が見てやめさせようと思う子に多い。だから、もし保育園や何かの保育の現場で、指しゃぶりを気にしているお母さんがいたら、「3歳以下だったら、これは心が落ち着くから安心してやって」と。むしろ「やらせてください」と言うほうが害が少ないのです。くれぐれも気をつけてください。これはどうも手ごわいお母さんだと思ったら、3歳ぐらいでもいいから、小児歯科の先生とか、小児科とか、心理の先生に紹介してください。
 それから、幼児期後半になってやっていたら、普通は減ってくるのですけれども、頻繁にやっているのは、今度は学童になって癖になってしまう可能性があるので、これも専門家に相談してください。小学校へ行ってからやっていたら、これはずっと続いてしまうので、特別な治療が必要です。
 年長になってやっているのをどうするかではなくて、幼児期に指しゃぶりは害がないことを親に話し自然に減らすとか、ということのほうが問題なのです。全体として、指しゃぶりについては3歳頃までは特に禁止する必要がないものであるということを、保護者にぜひ話してください。心理的な何かというのは嘘です。同時に、子どもの生活のリズムを整え、外遊びや運動をさせてエネルギーを発散させて、手や口を使う機会を十分増やすようにして欲しいのです。
 それから、一番指しゃぶりが取れないのは寝るときです。昼寝だとか寝つくときは、子どもの手を握ったり、絵本を読んであげたりして、子どもを安心させる。近頃、保育園で保母さんがタッチケアをやる。そうすると、子どもが嘘みたいによく寝ます。そういうふうに触れ合いで防止するということです。
 最後に、絵本を読むときは、一冊だけと言わないで好きなだけ読んであげる。子どもは、眠りながら夢の中でも読んでもらっている気がして、親の無限の愛情に包まれるということです。ですから、寝るときに寂しい子がいたら、ぜひ、手を握ったり、いろんなことをして、やめさせるのではなくて自然と忘れられるようにしてください。
 以上の考え方ですけれども、これは時代とともにだんだん変わってくると思っています。小児科と小児歯科の保健検討委員会で、母乳の場合は、母乳を飲ませてから歯の手入れをしろと書いたら、そんなことできないと、ものすごい非難が来ているのです。たしかにそのとおりです。前にちゃんと手入れしていれば、母乳はpHが6.8だから、歯磨きはすることはない。そのことは次の改正のときに書きます。そういうことで、世の中に応じて変わるというのがこの統一的考えのミソです。では、これで私の話は終わらせていただきます。これから休憩のあと、総合討論に移ります。




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