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第26回 母子健康協会シンポジウム 保育における歯の問題と対応
4.総合討論(7)



― 3歳になる男の子の件です。お母さんが歯医者さんに相談をしたところ、指に毛糸を巻いて、「この指がいけない、この指がお口に入るからいけないんだ、というふうに指導してください」と言われたということですが

井上 実は私どもが学生の頃は、指しゃぶりは「口腔悪習癖」といって、悪い癖という分類だったんです。なるべく早くやめさそう、やめさせるためにはどうしたらいいか、続けるとどんな害があるか、というふうなことを私どもも習っていました。ただし、口の機能とかそういうものがはっきりしてきますと、先ほど
前川先生のお話のあったように、胎児は指しゃぶりで哺乳の練習をしているとか、実際に赤ちゃんの段階では、指をしゃぶってだんだん口の感覚を慣らしていって、例えば食べる機能を育てたりとか、歯磨きの受け入れをよくしたりとか、乳児期ぐらいまでは機能的な発達に役立つという部分も評価されてきているわけです。
 ただ、指しゃぶりが継続する要因として、先ほどから言っているような、環境的な要因とか、対応的には確かにあるんですけれども、3歳ぐらいまでは、はっきり言って子どもが自覚してやめるというのは無理です。継続しているとしても、どちらかというと、先ほどの乳児期の生理的なものが何となく続いているような状況が多いと思います。遊びとか、スキンシップとか、しゃべるとか、要するに口と手を使うことで減らすことがよろしいと思うのですけれども、指に注目してやめさせるというのはストレスになりかねないと思いますのであまり勧められません。指に毛糸を巻いてやるというのは、例えば幼稚園の年長さんぐらいになってから、自分でそれが影響があるということがわかってきて、自分がそれに気づくためにやるのでしたら問題はないと思います。うちの姪などは、6歳ぐらいで自分で指に巻いていました。自分で気がつく。無意識に入れちゃうときに、気づきの対象として何か手に巻くとか、毛糸を巻く。ただ、それは強制的にやるものではないし、2歳、3歳ぐらいの時期にそれをやっても、子どもにとっては、意味もわからないし、逆にストレスになる可能性も高いので、あまり勧められる方法ではないのですが、ちょっと古い歯医者さんだと、そういう概念がまだまだ残っていると思うんです(笑)。ということで、まだ歯科の中でも、発達に応じた指しゃぶりの考え方というのは移行期ですので、場合によってはそういう対応があると思いますけれども、園のほうでは、いま言ったお話を参考にしていただければと思います。

前川 おっしゃるとおりですね。そういう意味でこういう小児科と小児歯科の検討委員会ができてやっているのですけれども、それがまだ下々まで伝わっていないようで……(笑)。

― 歯科検診で不正咬合の下の歯が突出していると指摘されたあと、「要観察」と「受診したほうがいい」のふた通りあるんです。嘱託医や他の先生にお伺いしても「早く治療したほうがいい」、「まだいい」とに分かれます。親もそうだからという感じもあるんですけれども、この時期に何かを装着したほうがいいのか具体的なことを教えていただけたらと思います。

井上 実は学校歯科で不正咬合を指摘されても、受診して実際に治療に入るお子さんというのはまだまだ一部です。矯正というのは保険の範囲でやる治療ではございませんので、時間もお金もかかります。特に小さなお子さんに関しましては、先ほど言ったように協力性の問題もあります。ですから、治療したほうがいいということと、実際に治療することには多少ギャップがございます。おしゃぶり、指しゃぶりの影響で開咬などの歯列不正になっている場合には、まず、その要因をある程度コントロールすることによっての改善が期待できるので、そちらのアプローチが必要です。要観察といってもただ放っておくだけではなくて、その原因となっているものを多少コントロールしながら様子をみていきましょうという対応が必要になると思います。
 また、反対咬合とか交叉咬合に対しましては、できれば乳歯のうちに治療したほうがベターなんです。ただ、噛み合わせの状態によりましても、例えば、上の前歯が中に入って下の前歯が外に傾いているような反対咬合ですと、歯並びのほうの影響が大きいのです。そういうタイプの反対咬合ですと、永久歯に生えかわるときにうまくすると正常になることもあります。ただし、あごが全体に出ているお子さんの場合は、そういうような自然の改善は望めない。また、遺伝要因の強い極端な反対咬合というのは、乳歯のうちに治すのはかなり難しいです。
 ですから、相談しながら治療の時期とか何かを考えていくという意味では、「相談できる歯医者さんを見つけておきましょうね」というふうなアプローチでいいのかなと思います。

― 歯科検診のときに、「舌を出してごらん」といって、舌があんまり出ない子、舌の小帯がくっつき過ぎている子は、舌が短くて発音がうまくできないからということで、お母さんに知らせたほうがいいのでしょうか。

前川 舌小帯、これが前に付着していますと、昔は、言葉、発音がおかしくなると言われたのですけれども、これはいろいろなデータから嘘だということがわかってきました。一番困るのは、母乳を飲むときに、特に初産のお母さんの乳頭が小さいと、うまく巻いて飲めないのです。そのときには意識して切ることはありますけれども、ほとんどいまは切らないです。事前の乳房ケアをしていれば大丈夫になっています。ですから、私たちもよほど病的なものでないと、いまは切らないですのですが、歯科の立場でどうですか。

井上 乳児期の母乳との関連で切るのは、いま、随分減っています。ただ、発音に関係して、発音がとても甘いお子さんで、前に出ないというより、上にあがらないお子さんが場合によってはいます。そういう場合には、発音だけではなくて、食べ物の送り込みとかを含めてからですね。ですから、症例としては多くはないのですけれども、舌小帯が極端に短い場合には影響が出ることがやはりあります。それは3、4歳以降ですね。歯科のほうでは、3、4歳以降になって、どうしても舌の動きが妨げられているケースの場合は、舌の動きの練習をしながら小帯を手術すると、効果的です。動きがよくなると、結構発音が楽になるとか、食べ物の送り込みがしやすくなる。
 小学生ぐらいになってきますと、下あごに舌がベタッとくっついているので、上にうまく動かないと、歯並びというか、噛み合わせのほうに影響が出ることもあるのです。ですから、反対咬合を引き起こしやすいとか、また、英語のLとかRがうまく発音できないで、日本語はどうにかクリアできるけれども、英語の発音のほうに影響するとか、そこら辺まで考えますと、小学生ぐらいになって手術するお子さんもいらっしゃいます。やはり動きをはっきり見きわめながら経過を見ていって、必要ならば対処するということで、歯科のほうでは、3歳以降になると様子を見ながら手術ということが結構あります。乳児の時期は、歯科のほうから下小帯の手術はほとんど対応しておりません。

前川 いまのお話を聞いて非常に面白いと思ったのは、小児歯科で来る患者というのは、私のところへ来る子どもよりも重たい子ども、問題のある子が行くんですね。ところが、小児科で「アーンと口を開いてごらん」と言うのをやらない子が来ますので、これは見解の相違ではなくて、重症度で違うんです。ですから、ある程度ひどいのはやはり一度、小児歯科の先生に見てもらったほうがいいと思います。普通の親が気にするくらいのことはではないと思いますけれども、確かに先生のおっしゃるとおりだと思います。

井上 3歳ぐらいでは、しゃべり方はもともと言葉が甘いですものね。

前川 それから幼児語とかいろんなことがありますね。むしろ舌の動きとか全部見てもらって、総合的に判断したほうがいい。舌小帯は、年が取れば取るほど切るのが難しいのです。赤ちゃんのときは、簡単に切っておけば、何にもないのです。ところが、大人になってこれを切ると出血して縫わなくてはいけないので大変です。そういうこともあるので、小児の歯科の専門家に診てもらって、その判断ですべてを総合しておやりになるほうがいいと思います。



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