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第26回 母子健康協会シンポジウム |
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保育における歯の問題と対応 |
4.総合討論(6)
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— 保育園児、幼稚園児同士のむし歯のうつり合いはありますか
前田 これはあると思いますけれども、メインはお母さんと子どもさんです。そして細菌は、定着してしまいますとバランスは基本的に変わりません。変な話ですけれども、思春期になりまして異性とキスをして、口の中の常在菌のバランスが変わるかというと、変わらないということがあります。そんなに変わるものではありません。ですから、一番最初が大切なわけで、そのメインは母親である。母親がきれいにして細菌の数が少ないと、 感染は、細菌の数が少ないと成立しませんから、お母さんの口の中がきれいで細菌の数が少ないと、ミュータンス連鎖球菌がないというお子さんが出てきます。そういうお子さんが、たまたま別の保育園児の口が汚いなんていうことで、感染するかもしれません。けれども、先ほど言ったようにむし歯というのは時間がかかりますので、幾ら感染したとしても、歯ブラシとか、口の中のケアをしっかりしていただければ、むし歯にはなりません。
井上 女性の立場からいきますと、母子感染、母子感染と言われるのはあまり好きじゃないんです(笑)。「感染」という表現も、伝播、伝わるという表現にしてほしいなというところがあります。菌の母子感染というのは非常に耳に痛いですね。菌は感染するものです。どんな菌でもある程度伝わるという部分はあります。ただ、ミュータンス菌に関しましては、先ほど前田先生もおっしゃったように、口の中にかたいものがないとなかなか定着しないです。歯や歯のかわりの入れ歯があると口の中に定着しますし、歯のない時期というのは、口の中に入ってきてもそのまま素通りするわけです。菌の性質を考えますと、歯が生えてある程度時期がたって、次に糖分ですね。砂糖などは一番の定着のベースになってきますので、砂糖をとり始めて、菌が口の中に入ってきてという条件が重なって初めて菌の定着が起こる。また、菌が定着した歯の汚れは取り除かれにくくなります。お掃除が悪いと菌が定着しやすいという、いろいろな条件がありますので、ただ菌が口の中に入ってくるチャンスが多いというだけが定着の条件ではない。ただし、定着しやすくなるのも確かです。
なぜ母親から菌がうつりやすいかというと、身近で世話をしているからで、それが一番大きな理由です。ですから、お父さんがメインに世話をしているところではお父さんとの関連が強いと思いますし、保育園の先生がかかわりが一番強かったら、園の先生との相同性が出てくるかもしれませんし、兄弟姉妹でもそういうのが出てくると思います。お母さんが一番面倒をみているということで、母子ということが取り上げられてくるのだろうと思います。
また唾液の中といっても純粋な唾液には菌はいません。要するに口の中にたまって、歯の汚れの中から菌が唾液のほうにうつるわけですから、そういう意味では唾液そのものではなくて、たまった唾液に菌が多いかどうかというのが一番大きな問題になってくると思います。
前田 私も、母子感染という言葉は嫌いです。そういう言葉で言いますと、お母さんが子どもと近づかないとか、接しにくくなってしまうという言葉のニュアンスがありますので、私もそれは大きな間違いだと思います。先ほど話に出ましたけれども、細菌の量は少ないと感染は成立しないです。これは私たちの教室で、マウス、ラット等を使いまして齲蝕実験をやっているのですけれども、かなり濃度の高い10の8乗ぐらいのCFU(細菌量)を入れますと、感染が確実に成立して、マウスにむし歯ができるのですけれども、これが非常に少ないとむし歯になりません。ということは、お母さん方、愛情を持った生活をお子さんにしていただいて、口の中はきれいにしておいていただきたい。また、保育園の先生方もきれいにしておいてほしい。ここが大事だと思います。
— 小学校一年生の男の子で、乳歯から永久歯の生えかわりがまだ1本もありません。歯医者に受診するべきですか
井上 保護者の方が気にしていらっしゃるようでしたら受診してもよろしいと思いますけれども、6歳ぐらいというのはバリエーションの範囲です。早いお子さんは、下の前歯ですと4歳ぐらいではえかわり始めるお子さんがいます。奥歯も5歳ぐらいで生え始めるお子さんもいます。プラスマイナス1、2年のバリエーションがありますので、7歳ぐらいというのも当然正常範囲ですし、7、8歳で生えかわりが起こるといってもそんなに異常な範囲ではありません。小学校の中学年ぐらいになって、まだ永久歯が1本もないということになると、永久歯の数とかいろいろな状況を想定した対応が必要になるかと思います。1年生は6歳ですから、そういう意味ではあまりまだ問題はない。ただ、気になるようだったら、全体のエックス線写真等を撮ってみると発育具合がわかるので、安心できる。または、問題を早めに発見できるということになるかと思います。
— 永久歯の欠如について
井上 今回はちょっと年齢の低いお子さんのお話をしようと思って触れませんでしたが、永久歯の先天性欠如の統計も実際にはかなり出ております。例えば2番目の歯とか、5番目の歯とか、親知らずがない方はたくさんいます。私も、親知らずは上はありませんし2番目の歯もありません。昔からそういう方はいらっしゃるんですね。私の周りを見ても結構おります。ただし、たくさんの歯がないというのは、非常に限られていて、10何本の歯がないというのは全身的な病気との絡みの場合が結構多い。そういう病気がなくても、かなりの数の永久歯がないお子さんがいますけれども、環境的な要因との兼ね合いで、これだからという理由はなかなか探りにくいです。大気汚染とかそういう問題ですと、もっと欠如くしている人が多くてもいいはずですね。10本以上歯の数が少ないお子さんというのは稀な状況で、2、3本から5本ぐらいまでは結構いらっしゃいます。そのぐらいですといろいろな方法で補えるのですけれども、10本以上少ないと噛むことばどに支障も出やすくはなりますが、ごく稀です。その要因に対しては遺伝を考えますが、それ以外にもあるかもしれません。まだ明確にはなっていないという状況だと思います。
前田 歯の欠損に関しましては、うちの教室でマウス使った研究を長年やっていますが、歯が1本ないとか2本ないとかというマウスがいるんです。そういうものを正常とかけ合わせたらどのぐらい出るか、どの辺の遺伝子があるかという研究をやっているのですけれども、歯を形成しているのは200種類ぐらいの遺伝子が動いています。何らかの異常がありますと、歯ができないとか、小さく出てしまうということがあると思いますけれども、これは、何が要因ということはなかなか難しいと思います。ご存じだと思いますけれども、ヒトの遺伝子というのは、ミューテーションというか、少しずつ変わっていきながら子どもにうつっていくわけです。そして環境に対応してきた子どもたちはどんどん長生きするわけです。そういう形の中で歯の欠損というのがあります。特に、いま
井上先生もおっしゃいましたけれども、第3臼歯とか、または2番目の歯とか、使い勝手がそんなに必要なくなってきています。そういうことも、対応できているということのあらわれの一つではないかと思います。
確かに放射線を相当量、歯ができる頃に当てますと、歯ができてこないということもあります。大気汚染とかそういうものが皆無ではないと思いますけれども、まだ科学的根拠を出せる段階ではないと思います。
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