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第27回 母子健康協会シンポジウム 子どもが育つ保育
4.総合討論(6)



— 図鑑ばかりに目が行く一歳児の男の子がいます。ほかの物語性のあるものとかに目が行かなくて、そういうものから始まるのかもしれませんが、どうすればストーリー性のある絵本につながっていくのでしょうか。

内海 基本的には図鑑が好きな子がいますよね。チョウチョばっかり好きだとか、クルマばっかり好きだとか。昔から、図鑑が大好き、乗り物の名前なら全部覚えちゃうという子もいますよね。そこが最初の始まりで、汽車が主人公の絵本が大好きだとか、そういうふうに広がってくるので、基本的には好きなものを取り上げない。そこから広げていってあげる工夫は必要だけれども、やはり相手のあることなので、口の中に突っ込んで吐き出すことは無理やりしないというのが原則です。
 例えば図鑑が好きなら、その図鑑で色を覚え始めるとか、そこでお話をつくるとか、いくらでも絵本的にはできるわけですね。図鑑を使ってどの程度までお話がつくれるか、みたいな。今日はどこのページから見てみようかとか、今日は何分見た? とか、そうやって余白で楽しむ。絵本化するという形でかかわっていけばいいと思います。うちの娘は恐竜ばっかりだったんですよ。もちろんお話の絵本も好きなんだけれども、まず最初に恐竜なんですね。トリケラトプスだとか、すごく難しい恐竜の名前をあのときにいっぱい覚えさせられましたけど、小学校四年生まで恐竜三昧でした。学校の先生に恐竜以外のことって言われて、「いいんです、うちの子は恐竜が好きなんですから」と。夏休みの宿題も恐竜、工作も恐竜(笑)。ほかのことはそこそこやっていたので、好きなものは取り上げないで、そこから発展させる。
 ただ、1歳児だとまだわからないので、例えばこれが五歳児で、汽車ばかり言っていてそれしか繰り返さないと、自閉傾向があるとか、いろいろなことが出てきますので、そこは園医も巡回していらっしゃるでしょうから、全体のトータルな育ちを見ながら、その子が好きな世界を邪魔しないで広げてあげるという工夫をされていけばいいと思います。

前川 最後に内海先生が講演のなかで、テレビについていわれていましたが、そのことについて、もう少し詳しくお話しください。

内海 実は私は日本小児科医会で、「子どもとメディアの問題に対する提言」というのを出したところのトップでございまして、2004年の2月6日に、「2歳まではテレビ、ビデオを控えましょう。子どもの部屋にテレビ、インターネット、パソコンを置くのはやめてください。食事中のテレビは消しましょう。テレビを見るときのルールを決めましょう」という提言を出して、いろいろな育児雑誌とか新聞で、医会がこういう提言を出したということで波紋を呼んだのです。1953年にテレビの本放送が始まりました。1960年代にテレビはほとんどの家庭に普及しました。1980年代にゲームができました、ビデオもできました。1983年のときにゲームで遊んでいた10歳の子どもは、いま、三十代のお父さんになっています。その親たちが、1歳、2歳の子どもを膝に乗せゲームを教え込んでいます。
 いまの親の世代は、若い保育士さんたちもそうですけれども、生まれたときから茶の間にテレビがあった時代なので、ずっとテレビがついていても何の違和感もない世代なのです。時計がわりについているわけです。そこでBGMとして、「でも、見ていません、ただつけているだけです」と言いながらも、客観的に観察すると、親子の会話はテレビがついていないときよりも少ないことがわかっています。だから、言葉の発達の重要な2歳、3歳ぐらいまでは、やはりテレビはなるべく見せないほうがいいと思います。
 医会の調査でも、生後6カ月までに、意図的に赤ちゃんにある特定のテレビを見せているという親が何割もいました。こういう子どもたちは2歳になると、立派なテレビっ子、ビデオっ子になっています。いまは、すごく制限して気をつけているという家庭と、ずうっとつけっ放しにして“電子ベビーシッター”に 預けているというおうちと、両極端です。それが保育園に来て真っ当な生活を送り、土日に帰すとドッと疲れてくる月曜日の子というのは、みんなメディア漬けの子なんですね。特に乱暴な言葉を使ったり、そのままマネしているような子どもたちをかなり見ています。それから、昔のテレビに比べて、ゲームは、早く殺せ、多く殺せというのが得点に結びついていますし、ワンタッチでもとに戻る。自分が痛い思いをせずに相手を殺すことができるのを、日常的にやっているわけです。
 だから、小学校でも中学校でも高校でも、先生たちにお聞きすると、子どもたちの言葉遣いが、一時の流行の、「おそ松君」が流行ったときのようなブームではなくて、「死ね、殺せ、いなくなれ、うざい」そういう言葉が非常に多くなってきています。昔の子は喧嘩しても、「おまえの母さん、デェ〜べそ」ぐらいで済んだのが、「死ね」とか、すごい言葉です。そんな言葉、昔の子は言わなかった。
 そういう言葉と刺激が大量にある中で、じゃ実生活はどうなのかというと、ペットも飼っていない、身内のお葬式にも出たことがない、赤ちゃんの生まれた現場も見たことがないという中で、実体験がものすごく少ないわけです。このバランスの悪さは、きっと何か子どもの心に影響を及ぼすだろうという危惧感があります。
 実際に、そういう心配な子どもたちにテレビのない生活をさせたら、子どもだけが変わったわけではなくて、「家族の会話が増えました」「子どもがこんなにいろいろなことを言っていたのに気がつきませんでした」という反響は、全国の市町村や学校、保育園や何かで「ノーテレビデー」にチャレンジしたところでは、体験談として挙がっています。それはテレビを消した生活を1日体験することでわかるんですね。やってみないとわからない。やったところでは、悪いことは一つも起きていないという事実があります。
 そういう面で具体的に日常生活の中で、皆さんも食事中にちょっとテレビを消してみたら会話がなくなったという家庭が随分あると思いますけれども、しばらく我慢していると、会話が出てくるんですね。それはぜひやっていただきたいと思います。例えば毎食が無理であれば、朝は会社に行くからニュースを見たりするので、夕飯だけでも。ビデオがあるから、夕飯の時間に見たいテレビはビデオに録って、食事の時間でない時間に見るとか、そういうためにビデオは使ってほしいんです。
 そういうふうにすると親が子どもにかかわらなきゃいけないので、子どもたちは、「今日もノーテレビにしないかなあ」と。親がリンゴの皮むきを教えてくれるとか、お父さんが釣りに連れていってくれるとか、かかわりが増えてくるので、ノーテレビをむしろ楽しみにしている子も増えるんですね。いかにかかわってもらえていないか、テレビを題材にした話しかしていないか、いかに要らない情報がどんどん入っているかということを知るには、別にテレビを捨てろという運動ではありませんで、ノーテレビデーというのは、いかに必要じゃないものが入り込んでいて、いかに大切なものが失われているかということを実感していただいた後で、テレビやビデオとどううまくつき合っていくかということのショック療法の一つですので、その辺はやってみていただければありがたいと思います。

前川 私ありがとうございます。
 ほかにございますか。そろそろ時間が来ましたので、それでは、まとめたいと思います。本日は「子どもが育つ保育」というテーマで、タッチケアと絵本の読み聞かせの二つを取り上げてやらせていただきました。これは結局、いまの子育て支援のテーマである、「子育ち・親育ち」の1つの方法だと思います。恐らく、今日の先生方のお話、皆様のご質問、意見でも、はっきりした結論は急には出ないと思います。ですから、ぜひ今日のいろいろなことを参考にして、保育の現場で、いかに親育ちと子育ちにかかわるかということを絶えず心がけて保育をしていただけたら、本日のシンポジウムが意味のあるものになるではないかと思います。
 子どもの病気の話というのはわりと簡単なのですけれど、こういう問題は、しゃべってもなかなか結論が出ないのが特徴です。それだけにまた、大切な問題ではないかと思います。現在の保育園、幼稚園の立場は、子どもを育てる上で重要な役割を担っている場所でございますので、本日のシンポジウムがぜひ、いい意味で子育ち・親育ちにつながることを願って、本日のシンポジウムを終わりたいと思います。(拍手)

講師プロフィール

前川 喜平(まえかわ きへい)
神奈川県立保健福祉大学教授、東京慈恵会医科大学名誉教授。
東京慈恵会医科大学卒業後、同大小児科教授を経て現職。
1996年より母子健康財団シンポジウム統括を務める。同協会理事。2003年に小児科と小児歯科の保健検討委員会長。
主な著書に「小児神経と発達の診かた」(新興医学出版社)、「今日の診断指針」(共医学書院)など。

吉永 陽一郎(よしなが よういちろう)
吉永小児科医院副院長、聖マリア病院母子総合医療センター育児療養科長。
福岡大学医学部卒業後、久留米大学病院小児科等を経て現職。
1994年、聖マリア病院に全国初の子育て専門診療科「育児療養科」を開設。日本タッチケア研究会幹事。育児支援研究会事務局。
主な著書に「子育ての、そばにいる人はだれ?」(メディカ出版)、子育ての医学館(小学館)など。

内海 裕美 (うつみ ひろみ)
吉村小児科(文京区)院長、日本小児科医会常任理事。
1980年、東京女子医科大学卒業後、同大学小児科学教室を経て愛育病院等に勤務し、 1997年に現職。
「はじめよう 子育てサポート21」(医学書院)編集、チャイルドヘルス(診断と治療社)  
『絵本の世界から』連載、NHKすくすく子育て『絵本の広場』連載、
『ようこそ!絵本の世界へ』(学燈社、平成17年)分担執筆など



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