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附)No.67/2003より
「子どもの心身を蝕む社会環境 NO.1」
こども心身医療研究所所長 冨田 和巳



何気なく見過ごす異様さ(ポスターにみる問題)


 図1平成12年夏にJR西日本が作った旅行キャンペーン・ポスターは「レイルスターなら行ってあげる」と子どもに言わせた宣伝文です。(図1)昔から子どもを旅行に連れて行って「あげる」のが大人で、子どもは連れて行って「もらう」ものでしたが、今やわが国では「子どもに行っていただく」時代になっていることをこのポスターは示しています。愉快な商品の宣伝文が直ぐに重箱の隅を突付くようなことで「差別だ」と撤回させられるわが国で、子どもに迎合し過ぎたポスターは、何ら違和感も無く受け入れられていた現実に私は驚きました。私は「このポスターは子どもの教育に有害である」と判断したのですが・・・・・
 次は、その前年春に厚生省(当時)が作った「育児をしない男を父とは呼ばない」ポスター図2(図2)です。これほど好意的に迎えられた「お役所仕事」もなかったぐらいで、当時は小児科医からフェミニズム論者に到るまでが絶賛し、マスコミでも大きくとりあげました。このポスターは今、非常な勢いで社会悪化を促しているフェミニズムに迎合した、私の基準では「有害」なものなのですが、このような意見は寡聞にして聴きませんでした。 私は小児科医ですから、父親が子育てをすることを勧めるこの標語には全面的に賛成していますが、図柄が大問題なのです。ポスターでは当時父親になった有名人を起用していましたが、男性ながら髪も長く、着ているものも母親の象徴的服装である割烹(かっぽう)着(ぎ)を思わせるもので、遠くからでは二昔前の母親そのものの姿です。さらにあの赤ちゃんの抱き方は母親的で、どこまでも「母親(母性)的育児を父親も担うべき」と呼びかけているように感じられます。フェミニズムに迎合してつくったポスターであれば、当然ともいえます。父親(父性)的育児は象徴的に言えば子どもに「高い高い/肩ぐるま」をするような、母親からみると「危険だ」と感じる「身体と離した」接し方が大切になります。ですから父親の育児参加を呼びかけるのであれば、あらゆる意味で「もっと父性を感じさせる姿とかかわりを強調した図柄」にしなくては「仏作って魂入れず」になるのです。私が同じく有名人(少し古いですが坂東妻三郎)を使って作った「これこそ父性的育児を勧める」ポスターを最終頁(図6)に示しておきますので、厚生省のものと比べてください。図3私製ポスターは「どこから見ても男性そのもの」の男性が、父性的関わりを一目でわかるように表しています。これでこそ、父親による育児の勧めなのです。なお、ここで述べている母性・父性は後に詳しく解説します。
 3枚目のポスター(図3)は小児科医の学術集団である「日本小児科医会」が昨年につくった「親に禁煙を訴える」ものです。この図柄と文章からは「米国」は感じても「わが国」を感じることが私にはできません。今や子どもにとって最も大切な親を英語で呼ばせ、茶髪・金髪の女性がほとんどのわが国では、このポスターの方が「受ける」のでしょうが、言葉は文化であり、国を形作る根幹です。日本語や日本的なものを平気で殺していくのは、おおげさでなく国を滅ぼす思想です。標語は注目され受けることも大切ですが、それが母国の文化を滅ぼすことに何の違和感も感じないまま作られていることは大問題なのです。あるいはそのような意識もない人間があまりにも溢れすぎているのです。これがある程度の知性や学識を備えていると思われる学術集団にも忍び寄っている怖さに気づかなければならないのです。「国が滅びては子どもの幸せなど何も望めない」と私は思うのです。
 小児科医はよく「子どもは未来」という標語を使います。私もこの言葉を仕事の原点にすべき素晴らしいものと常に考えてきましたが、国が崩壊しては未来も何もあったものではありません。「子どもは未来」という言葉が単なる標語になり、一方で未来を無くす社会を作っていては、何をかいわんやでしょう。今やあらゆる分野で社会に厳しい目を向けずに、迎合するような思考が広まっているわが国の現状に非常な危機感を覚えるのです。
 以上、私の指摘でこれまで何気なく見ていたところに「おかしさ/危険性」に気づかれたでしょうか?それとも、過剰に反応する私の被害妄想と思われたでしょうか?




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