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附)No.67/2003より
「子どもの心身を蝕む社会環境 NO.1」 |
こども心身医療研究所所長 冨田 和巳
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自分の国を考える |
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私たちの国は古くは中国大陸から、明治維新以降は欧米から多くの文化(文明や思想も含みます)・制度などを受け入れ、それを独自の伝統に融合させて、独特の文化を育んできました。このように外国から輸入できるものは、物質だけでなく眼に見えないものも多くあります。しかし、いくら頑張っても自然環境は模倣も輸入もできません。自然環境こそ、その土地(国)固有のもので、どのようにしても動かせることができないもので、それが独自の文化形成の基礎になります。
わが国の問題を考えるとき、この原点に戻ることで、最近の外交(政治の昏迷)から子どもの問題に至るあらゆる現象の分析が適切にできると思います。これから一見、子どもの問題とまったく関係がないようにみえる文化・歴史の話をしていきます。
冷戦終了後、国家間ではイデオロギーによる対立でなく、数多くの文明の単位に分裂し、相互に対立・衝突することを米国のハンチントンが指摘して話題になってからかなりになります。この論には異論を差し挟む向きもあり、実際にはそれほど単純にいかない面もありますが、日本にとっては「肝に命じておく」論だと思います。彼は地球上の文明を「西欧文明/東方正教会文明/中華文明/日本文明/イスラム文明/ヒンドゥー文明/ラテンアメリカ文明/アフリカ文明」の8つに分け、すべての文明は複数の国が含まれるが、日本文明だけは唯一の例外で、一つの文明が一つの国の中に留まっていると指摘しました。このことから、私たちは他のいかなる国とも共有できない、時には他から誤解される独自で唯一の文化(思考)をもっていることを再認識させてくれます。欧米は当然ですが、同じアジアといえども日本は特殊な文明をもつのです。最近は明治維新後の「脱亜欧入」の反動から、特定の近隣諸国と「アジアの一員」として歴史まで共有しようなどと言っていますが、その危険性に気づかなければなりません。
明治維新以降、私たちは欧米から文化・思想・制度を必死になって輸入し、それが「極上品」と思い込んだのですが、それらの生まれた国々の風土(背景)を厳しく考えることを、特に戦後はなくしてきました。
学問の神様と言われる菅原道真は、遣唐使を廃止したことでも有名ですが、彼は「和魂漢才」という言葉をつくりました。彼は中国(漢)の優れた文明や制度(才)に習うことも大切であるが、わが国独自の大和魂でこれに対応するべきであると訴えたかったのです。明治維新の時にも表面的に江戸時代を葬り去ろうと、廃仏毀釈や鹿鳴館など軽佻浮薄な言動もありましたが、心ある者は先に示した菅原道真の「和魂漢才」を「和魂洋才」と作り替え、西洋に学ぶべきであるが、わが国の伝統や文化・歴史を忘れない精神で行なおうと考えました。こうして世界で類のない素晴らしい革命(明治維新)を成し遂げました。特に注目すべきは、種々の改革が武士階級にとって自らの首を締める政策であるにもかかわらず、これを実行したことでしょう。まさに江戸時代に培われた「気概・犠牲的精神・我一人でも行かん」の武士道が生きていたことによります。ところが敗戦後は米国から大「和魂」が悪の根源と断罪され、西「洋魂」が押し付けられ、日本人はそれに従い「洋魂洋才」になるように励み、欧米崇拝/劣等感意識を心に刻み込んだのです。そして、子どもにとってもっとも大切な親を英語で呼ばせることをはじめとして数々のことを実行し、気づいたときには自らの精神的支柱や文化を自らの手で葬り、魂も才能も無くして「無魂無才」になったのです。先に紹介した3枚のポスターは大げさに言えば、それを示しています(「無魂無才」は林秀彦著「ジャパン、ザ・ビューティフル」(中央公論社))。
わが国は地球上の他のいかなる国とも異なり、独特の文明・文化をもっていることを認識しなければならないのです。このようなことを言うと、そのような考え方が独善や戦前の体制を生むといった声がよく出ますが、「己を知ったうえで相手を知る」ことが基本ですから、先ず自分の国のことをよく理解した後に、相手(世界)を知っていくことが最も大切なことになります。残念ながらそれができないことで、無謀で愚かな第二次世界大戦に突入し徹底的な焼土を招来し、戦後の平和主義・高度経済成長も今や見るも無惨な国益喪失状況を出現させています。58年前の敗戦時にわが国の伝統・歴史・宗教などすべてが戦勝国(米国・旧ソ連)によって否定されたことで、従来から欧米崇拝/劣等感の大きかった多くの人々は物事の本質をみる目を無くしたのです。
次になぜわが国だけが独特の文化をもつたのかを考えてみます。
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