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寄稿 「子どもの発達について」
自治医科大学医学部小児科教授 桃井 眞里子 先生



小児期の養育状況はその後の行動に影響する

 発達障害を診ている医師はみな実感されているはずですが、発達障害があると、多動だったり、聞き分けがなかったり、何回注意してもわからなかったり、対人関係の学習ができなかったり、と、親にとってはストレスの多い育児になります。一方で、子どもにとっても、なぜ注意されるのかわからないのに注意ばかりされる、叱責される、の毎日ですので、親子関係がうまくいかなくなります。親は育児困難感と叱責したあとの罪悪感でうちひしがれますし、子どもは叱責ばかりなので、親に対して愛着と憎しみの両方を抱くようになります。親への感情は、まず他人に向けられますので、暴力的、否定的、相手を非難、など、集団不適応をさらに悪化させるような事態になります。このようにして育った発達障害のある子どもは、不信感と不安、攻撃的、など、問題ある行動を身につけていきます。
 一方、発達に問題のある子どもをよく理解して受け入れられるようになると、発達障害自体は大きく改善しなくても、穏やかで肯定的なために、問題行動をあまり起こしません。発達障害の原因となっている遺伝子変異は変わらなくても、表に表れる行動は、養育状況で大きく変わります。とくに思春期ですと、親の細かい注意、叱責を2週間だけ半分にしてみてください、とお願いすると、暴力や反抗的態度が目に見えて落ち着くことが観察されます。注意や叱責が子どもをよく伸ばすためのものではなくてその存在のしかたの否定として受け止められているためにこのようなことが生じます。育児の難しさは、こんなところにあるのですが、結局は、遺伝子で規定されているような変えられないものは無理に変えようとせず、受け入れつつ、成長しそうな箇所を探す、のが育児の基本でしょうか。 
 医師の役目は、何が変えられないかを十分に説明し、そこはうまく受け入れていただく、ことであり、そこからが親子の出発点となります。親が子どもの変わった特性を受け入れ、中学生になる前後に、子ども自身も自分の問題を医学的に説明されて納得すると、その後の問題行動ははるかに減少します。必要に応じて様々な薬物治療も行いますが、基本は、親子相互の理解と納得、お互いに苦労するね、という納得が得られれば、その後の子どもの行動は極端に落ち着きます。 発達障害の子どもたちの育児は、人を育てることの真髄をみる思いです。




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