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第28回 母子健康協会シンポジウム 季節と子どもの病気
3.救急よりみた子どもの傷病
北九州市立八幡病院副院長・小児救急センター長 市川 光太郎 先生



5.消化器疾患 — 腹痛

 お腹の病気もたくさんありますけれども、救急となってくると、ある程度限られてくるところがあります。先ほど脱水というお話がありました。やはり脱水が一番問題になるところがありますけれども、現実的には学校就学前のころ、4、5歳になると、賢い子は仮病でお腹が痛いというのをたくさん言い出しますので、そこら辺も、「甘えて」というところを含めてですけれども、顔色の良い、お腹の大きな病気はないというふうに思っておられていいと思います。大きな病気では顔色が絶対悪くなるということで、理解していただき、他にはお腹を触っていただいて、大きな病気ではすごく固いといいますか、そういうところで急ぐべきか、お母さんが来るまで待っていていいのか、というのを判断していただくということになります。
 「知っておくと便利なポイント」(表8)の二番目に、朝までどうもなかったのに、保育園に行ってお昼の食事前から突然お腹を痛がり出して吐く。そういう突然の発症は、腸閉塞性疾患、一番多いのは腸重積症というのがありますし、それ以外にも内ヘルニアといって、腸管がどこかでねじれて、これも早期発見しないと命を落とすぐらいのことがあります。そういうイレウス(腸閉塞)というのがあります。それを起こすのは、いわゆる鼠径ヘルニアの嵌屯(飛び出したまま、戻らない状態)というのもあります。実際に胃とか腸とかそういうところにばかり目が行っていて、ハッと気づいておむつをはぐったら、鼠蹊部がモリモリ盛り上がって、そこが原因で腸閉塞が起こっていたという経験があります。

  • 乳幼児では飢餓時間が8時間になると脂肪代謝が始まりケトン体が出現し、低血糖傾向や嘔吐・顔色不良・生あくび・グッタリなど(昔で言う自家中毒)が出現しやすい
  • 突然の発症(嘔吐や不機嫌・腹痛)の場合には腸閉塞疾患(腸重積症、イレウス、ソケイヘルニア嵌屯など)を予測する⇒必ずオムツを外してソケイ部・陰部を観察する
  • ウイルス性胃腸炎は接触感染が主なため、吐物・便処理時はしっかり手洗いを行い、床面はアルコール清拭が望ましい
  • サルモネラ菌は鶏卵・鶏肉製品、カンピロバクターも鶏肉製品、O157は牛肉製品(焼肉、ホルモンなど)が汚染食品であることが多い
  • 幼児や学童に多いアレルギー性紫斑病でも激しい腹痛を認めるが、多くは下肢中心に出血斑(湿疹との鑑別は湿疹部を押さえる⇒消えれば湿疹、押さえても消えない発疹は出血斑)・紫斑を認める
  • 乳幼児において、食欲がある・元気が良い・腹痛がない・発熱がないなどで2週間以上続く下痢は慢性下痢(長引く下痢)で機能性下痢とも呼ばれ、腸のリズム失調であり、感染性は無いので特に問題視する必要はない

表8 知っておくと便利なポイント(消化器系疾患)

 そういう突然の発症、しかも腸というのはぜん動運動をしていますので、ホッと気が抜けるように本人が楽になったように見えて、また10分後、15分後に痛がり出す。そういう間欠的に来る腹痛というのは、ぜひとも腸の閉塞性疾患というのを、特に一歳前後は腸重積というのを連想していただければと思います。嘔吐に関してですが、先ほど、ノロとかロタの話がありましたけれども、もし吐物が床に飛び散ったときには、ぜひアルコールで清拭していただくと効率がいいと言われています。それも覚えていただいていればというふうに思います。
 あとは、いわゆる細菌による食中毒というのがときどきあります。サルモネラという、ひどい血便を起こして痛がる、これは鶏卵が非常に多い。日本の卵の5千個に1個は汚染されていると言われています。5千個というのは、一生で食べるぐらいの量だろうと思いますけれども、たまたまそれに当たれば、当然ながら細菌性腸炎を起こしてしまうことになりますし、カンピロバクターというのも鶏肉でよく感染します。0‐157は、たぶんご存じだと思いますけれども、牛肉がほとんどです。私は、肉屋さんの息子が0‐157になったという貴重な経験をしていますけれども、あとはほとんどバーベキューで、焦って食べている(笑)。まだ煮えていないのを食べている、そういう人が多い。毎年、散発的に来ますけれども、堺市の集団発生みたいなものではなくて、散発で発症する0‐157というのは、肉やホルモンとかの生焼けを食べている。もし、園でそういう行事があるときには、しっかり火が通ってからしかやらないというふうにしていただかないと、そういうことが起こり得ると思います。
 もう一つ、アレルギー性紫斑病というのも、ちょうど就学前ぐらいから増えてくる病気です。重力の関係で下半身、特に脛あたりに出血斑がたくさん出て、足関節とか膝関節が腫れて痛がって歩かない等の症状がみられます。出血斑と湿疹の鑑別は、そこを押して赤みが消えれば湿疹です。押しても赤みが消えないときには出血ですので、それで判断していただく。そういうことを知っておかれたらいいのではないかと思います。
 もう一つ、ぜひとも理解していただきたいのは、下痢をずーっとしていて、何でこんなに下痢ばっかりするのに園に連れてくるの?と、お思いになられるかもしれないですけれども、実は小さいお子さんほど、ノロにしてもロタにしても、急性の腸炎が終わった後、腸の粘膜はもうもとに戻っているのに、腸のリズムだけがもとに戻らずに、食欲もあるし元気もあるしお腹も痛がらない、たくさん食べるのに、出るうんちは下痢。そういう機能性の下痢ということが起こります。そういう場合には我々は、「園へは行っていいよ」と言っていますので、そういう病気というか症状があるということをご理解していただければというふうに思います。
 昔ながらの「ニンジン療法」といって、消化の悪いニンジンをすって、メリケン粉で耳たぶの固さに練ってもらって、それを食べさせる。そのまま消化されずにゆっくり下りてきますので、リズムがもとに戻る。そういう治療法があります。ときどきお母さんから、「そんな嘘ばっかり言って、先生」とか言われるんですけど、ちゃんと教科書に載っています。前川先生の時代は相当されていたんじゃないかと思います。最近の教科書には何故かあまり載っていないです。そういう機能性の下痢というのがあるということを、ぜひ知っていただければというふうに思います。



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