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第28回 母子健康協会シンポジウム |
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季節と子どもの病気 |
4.質疑応答(4) |
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— 薬を持ってくる親が多いのですが、保育園で預かっていいものでしょうか
横田 この問題は昔からの話題なのです。よく保育園の先生から、「預かった薬を間違って飲ませちゃった」といって電話がかかってくることがありますけれども、そういうことが起こり得るし、保育士さんの仕事も大変でしょうし、なるべく保育園に持ってこないでということが言われています。
その理由の一つは、薬をあげるというのは医療行為だとされてきたことです。看護師さんがいればいいけれども、そうではない人が薬を与えるというのは医療行為だから、やってはいけない。そういう理論で、日本保育園保健学会では、基本的には保育園で薬を飲まさないという勧告を出していました。
ただ、薬をあげるのが医療行為かという問題は、実は子どもではなくて介護の世界で話題になっています。いま、老人の介護のときにお薬をあげるわけです。老健施設とかで看護師さんでもない人があげるということがあるので、それをだめと言うと医療が成り立たなくなる。そこで、厚生労働省は「薬をあげるのは医療行為ではない」という通達を、去年か一昨年か、出したのです。それを受け入れると、お薬をあげてもいいということになるわけですけれども、ただ私は個人的には、保育園であげるのは間違える可能性もありますし、副反応が出たときの問題もあるので、できるだけ「あげない」という方向でやっていただいたほうがいいと思います。
どうしても飲まなければいけなくて重症であれば、保育園をお休みするしかありませんし、ほとんどの薬は3回飲まなくても2回で済むものが多いです。中耳炎で抗生物質を出すときも、私も最近はほとんど朝晩2回にしています。それでも十分治るということもわかっていますので、できるだけ2回にしていただくようにすればいいし、3回というときも、朝飲ませてきて、保育園にお迎えに来たときに薬を持ってきてもらってそこで飲ませて、あとは夜寝るときに飲むとか、そういう方法もなくはありませんので、なるべくお薬を預からない方向でやったほうがいいのかなと思います。
私のいる小田原市では保育園はみんなで一応取り決めをして、お薬は原則預からない。預かるときにはお医者さんの証明書というか、指示書みたいなものを持ってきて、それで保育園で与えることにしています。でも、大阪のほうでは、そういうのは不親切で、保育園でやらなければいけないという声が何年か前に挙がったという話も聞いていまして、いろいろ地域の考え方の相違というのもあるのかなというふうにも思っています。
— 夕方になると8度の熱があって機嫌が悪くなったので、職場に連絡して早めにお迎えをお願いして帰宅したら、『そんなに熱はなかった、もう少し様子を見てくれればよかったのに』と言われることがよくある。早く病院に行ってほしいので連絡したのに、様子を見たほうがよかったのでしょうか。また朝連れて来た時に、7度5分でもこの子の平熱だと言い張られたことがあります
横田 もうしょうがないから解熱剤を飲ませて、下がったところで保育園に連れて行って置いてきたというようなことを私の前で堂々と言うお母さんもいますので(笑)。まあ、母親の気持ちとしては何とか職場に行かなければいけないということで、そういうのも無理からぬところかなと思います。もちろん、市川先生がおっしゃっていたように、重症感のあるものはすぐにお母さんを呼ばなければいけないし、場合によっては医療機関に運ばなければいけないということもありますけれども、やはり「子どもを見る」ということでしょうか。体温計の数字だけを見るのではなくて、子どもの顔色とか様子をよく見て、元気であればあまり慌てることはないと思いますし、危ないと思えば急がなければいけないわけで、子どもの状態を察知する能力…これは大丈夫とか、これは危ないとか。(わからなければ連れて行くしかないわけですけれども)そういう能力を皆さんのお仕事の中で日々養っていくことが大事かなというふうに思います。
私の亡くなった父は小児科の開業医でしたけれども、昔よく言っていたのは、患者さんがドアを開けて入ってくると、顔を見た途端に出す薬を決めているというんです(笑)。そんなの冗談だと思って聞いていたのですが、要するにパッと顔色を見れば、この患者さんがどういう患者さんかということは一生懸命やっていればわかるんだということを言いたかったのだと思います。そういう能力を養うことがとても大事かなというふうに思います。
前川 私は、外来で、保育園に行っている子どもにはなるたけ薬は2回にすることにしています。先ほど横田先生がおっしゃったように、保育園に行けるような子どもで薬を3回飲まなければならない子どもというのは、ほとんどいないです。ですから、ぜひ預けているお母さんたちに、お医者に行ったときに、「先生、保育園に行ってるからすみませんけど、薬2回にしてください」と。それで嫌だと言ったら、子どものことを知らない医者だと見ていいと思いますよ(笑)。そういうことです。
— けいれんが起きた場合、呼びかけたり声をかけたりしないほうがいいのか、どうでしょうか
市川 呼びかけたり声をかけたりしないほうがいいのかというのは、別にしてはいけないということではないですけれども、しつこくワアワア言うことは論外です。本当にけいれんなのか、あるいは意識があるのかという意味で、○○ちゃんとか言って1回声をかけてゆするとかするのはいいと思いますけれども、一般的にはあまり激しくする必要はないと言っています。お母さんが心配で名前を呼び続ける意味合いとはちょっと違いますので、呼び続けても本人は聞こえていないのがけいれんですので、反応があるかないかを1回見れば、その時点でそこはもう済むということで考えていただいていいと思います。
— けいれんの既往のあるお子さんが熱発したら、冷えピタや氷で冷やしてはいけないと前任者から教わりましたけれども、本当でしょうか
市川 冷えピタや氷で冷やしてはいけないというのは、ちょっと違うのではないかと思います。「よく、けいれんの後は解熱剤を使わないほうがいい、熱が急に上がったり下がったりする、そのときにけいれんが来るのですよ」と。我々の仲間でもそう言って解熱剤はほとんど使われない先生がおられますし、そういうことに全く関係なく使うという先生もおられます。実際、熱が急に高く上がるときにけいれんが来ることが多いものですから、本当のエビデンス(臨床試験などの研究データ)があるかどうかというのは別として、経験的に、熱が急に高くなるときに起こる。もし強い解熱剤を使ってドーンと下げて、薬が切れる頃にグーッと上がってくるときにけいれんが来る、この考えから、もしも強い解熱剤を使った場合はそういうことが起こるということで、強い解熱剤を使うのであれば、それはやめておいたほうがいいというふうには言っています。単に外表面を冷えピタや氷で冷やすのは、けいれんを誘発するというか、熱をそんなに上げ下げするとは思えませんので、これは全く関係ない。やられていいというふうに私は考えます。本人が気持ちよければそれが一番ですので、冷えピタをして気持ちよさそうにしていれば、それが何よりだということです。ということで、熱を無理やり、人為的に強いお薬を使って上げ下げすることがいけないのだということだけを知っておられたらいいのではないかと思います。
— けいれんを起こしたときの正しい処置法を教えてください
市川 けいれんがどういうタイプなのか。左右対称なのか、突っ張ってばっかりなのか、腕が曲がってガックンガックンするのか、顔がどっちを向いていた、目がどっちを向いていた、顔色がどうだった。そういうことを観察しながら、けいれんか起こった時間、持続する時間を測りながら、できれば吐物を誤嚥しないように体を横向きに。右側臥位が望ましいですが、とにかく横向きにしていただいて観察をする。当然、衣類を緩めて観察をする。そういうことを同時にしていただくのが正しい対処法ではないかと思います。
お薬を使う使わないは、また別の対処法になると思います。けいれんを予防する座薬を園で使うということはあまりないと思いますけれども、もしけいれんが起こったとき、そのときの主治医の先生の指示があって、それを園でも了解なさっていれば、薬物に関しては、その指示どおりに動いていただければいいのではないかと思います。
一般的なけいれんに対する対処法というのは、まず、よく観察をしながら、本人が楽になる姿勢をとっていただく。特に窮屈な服を着ている場合には、それを緩めてあげるのが一番大事ではないかと思います。これで理解していただけましたでしょうか。
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