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第27回 母子健康協会シンポジウム 子どもが育つ保育
2.園におけるタッチケアの実践
聖マリア病院母子総合医療センター育児療養科長
吉永小児科医院副院長 吉永 陽一郎



日本でこれまでに確認されたこと

 マニュアルに書かれた、タッチケアという方法(図2,3)が一応ありますけれども、絶対その方法でないといけない、この方法でないと病気になるという話ではありません。ただ、どんな方法でもいいというわけではありませんので、日本のお母さんたちになるべく根拠をお示しして、それを無料で届けようとずっと研究してまいりました。

 図2

 まず新生児センターで、赤ちゃんの全身状態が悪くなったりしないことだとか、裸にしてタッチケアしても、体温が急に落ちたりしないということだとかを確認しました。赤ちゃんはみんな、この場所さえタッチすればご機嫌というところを見つけたかったのですが、赤ちゃんによって違うということもわかってまいりましたし、日によって違うということもわかりました。赤ちゃんに触れることでお母さんの不安がどう変わるだろうかということも調査をしてまいりました。母子分離をしているお母さんでも、うちの子は「犬のおまわりさん」の歌が好きだわとか、うちの子は背中が好きだわとか、赤ちゃんと別れているお母さんでも、自分の子の特徴をすみやかに感じる助けになってきたように思います。
 お母さんの感想を紹介します。「タッチケアを始める前は、小さな赤ちゃんを産んで、保育器の外から眺めるだけの毎日で、1人目の子どもと比べてかわいいと思う気持ちが薄かったような気がしますが。タッチケアを始めてから、触れ合うことで、愛情が次第に増していったような気がします。泣いているときに抱っこし、タッチケアを始めると次第に泣きやみます。特に背中のマッサージが好きなようです。祖父母は、裸でマッサージというと、『風邪をひかせる』と心配なようです。タッチケアをもっと広く知ってもらうのが大切ではないでしょうか」「タッチケアを始める前は、26週で生まれ、保育器の我が子を見て罪悪感で涙しか出ませんでした。抱くことも、母乳をやることもできず、できることは声をかけ触れることだけでした。タッチケアを始めてから、自分と赤ちゃんとの距離が縮められた感じがして、また気持ちよさそうにされるがままの娘を見て、とてもうれしく、これからも続けていこうと思いました。もっと早く教えていただけたらと残念に思いました。罪悪感がある早産してしまったお母さんへ唯一の救いです」。
 そうやって新生児センターの研究をしてきたわけですが、そのうち、一般の、健康に生まれた赤ちゃんのおうちでも、お母さんたちに向けてのタッチケア講習会というのが始まりました。お母さんたちにとっても楽しいし、赤ちゃんたちも気持ちよさそうにしているということでずっと進んできたんですね。
 さて、ここからが本題なのですが、私は、タッチケアは赤ちゃんのものだと思っていたんです。タッチケアの命名者だと前川先生から私の紹介がありましたが、その張本人が、これはきっと赤ちゃんのものだと決めつけていました。子どもたちは、歩き出したらマッサージより歩き回るほうが楽しいだろう、お父さんと組んずほぐれつやり出したらそのほうが楽しいだろう、ボールを投げることができたらそのほうが楽しいだろうと。いつまでも胸をスリスリなどというそういうふれあいの仕方ではなく、違うふれあいがあるだろうというふうに思っていたのです。
  ある時、知っている保育園から、タッチケアの指導をしてくださいという依頼をいただいて行きました。保育園には乳児もいますから。
  後日連絡が来まして、3歳半の子で毎日午後7時までの保育の子がいます。気持ちが落ち着かず、かみついたり、ひっかいたりする子。その3歳半の子に、お昼寝のときにタッチケアを保育士さんがし始めたというのです。そうすると、いままで寝るときにウロウロソワソワして寝なかった子が、突然ストンと寝るようになったというんです。ストンと寝て、しっかり熟睡するせいか、睡眠時間も長いし、起きたときに機嫌が良い。友達とのトラブルが減ってくるというんですね。これは面白いということになって、その保育士さんがいろんな子にやり始めました。
 2人目の子。3歳になって、いつもごろごろぼんやりしている子。入眠にも時間がかかり、眠りも浅い。園のお昼寝のときも、いつも、ゴソゴソゴソゴソしていて寝ない。園の活動のときにもソワソワウロウロして、ぼんやりしていて積極的に参加しない。その子にタッチケアをし始めたら、ストンと寝る。熟睡するせいか、そのほかの園の活動に積極的に参加する。
  これはすごいですねという話を周りのスタッフの人たちも言い出して、他の保育士さんたちが、自分の担当の子どもたちにやり始めたんですね。タッチケアをしてもらっている子も、隣の子に、「あんたもしてほしかろう」などと言ってる。他の子も僕もして、僕もしてという話になって、やり始めたという話です。それがどんどん数が増えていって、「先生、確かに効果が見られますよ」という報告を私が逆に受けることになりました。私は、驚いたり感心したりして、これは本腰を入れていろいろ見てみたいと思い、仕事が始まりました。
  2カ月後には、ごろごろしていた子が、毎日すべての活動に参加するようになる。午睡のリズムがつき、自分で眠ろうとするので、少しのマッサージですぐに寝入る。タッチケアする方の心も落ち着く。実は、途中でこの保育士さんのお父様が亡くなりました。そのときタッチケアすると、子どもたちへの効果が薄かったといいます。タッチする側が落ち着いていないと伝わるようなんです。ただ、逆に自分が癒されたような気がする、というふうに保育士さんは言ってくれました。
  保育士は、親子のコミュニケーションとして有効であろうということを感じてくれまして、参観日、保護者の会のときにお母さんたちに伝えて、お母さんたちもおうちでするようになって、ということが始まりました。
  その話をいろいろなところで紹介しましたら、北海道から鹿児島まで、いろいろな保育園に呼んでいただくようになりました。ある北海道の保育園では、いつものタッチケアのバスタオルを出してくると、みんなぞろぞろ並ぶというんですね。次は僕の番、次は僕の番と待っている間に、寝てしまっている子もいる。お昼寝の時間がとても静かになった。自分の番が待ちきれなくなった子は、クマのぬいぐるみにタッチケアをしてくれているというんですね。
  そんな光景がいろいろなところから出てきて、いま、前川先生のお許しをいただいて、国の仕事としてもいろいろな保育園でこの仕事をやっていましたら、口に手をやる癖が減っていったとか、ずっとおっかなびっくりだった子が、保育士に対して、あれはしないで、これは嫌だ、あれして、これして、ということが言えるようになったとか、そういう話がたくさん出てまいりました。それで、いま、夢中でその仕事をやっているところなのです。



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