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第27回 母子健康協会シンポジウム 子どもが育つ保育
2.園におけるタッチケアの実践
聖マリア病院母子総合医療センター育児療養科長
吉永小児科医院副院長 吉永 陽一郎



障害児へのタッチケア

 実は今年、保育園だけではなくて、障害児施設とか、乳児院とか、聾学校というところでタッチケアの研究をし始めました。
 一例をご紹介いたします。その子は、お母さんが妊娠に気づいたときには、お父さんがどなたかわかりませんでした。お母さんは赤ちゃんを出産するのですが、そのときに重症の病気があるということがわかって、お母さんは産んだ直後にその子を捨てます。その子はしばらく乳児院にいて、実は手術を必要とする病気だったものですから、小児集中治療室に入ります。それから退院してきて、障害児施設に来て、2歳半になりました。ですから、2歳半まで肉親に、好きよ、好きよって抱っこされたことがない子なんですね。
 その子が障害児施設にいるのですが、ほかの人との接触を嫌がります。誰かが近くでかまおうとすると嫌がります。おもちゃを与えると全部捨てます。一日中、自分のウンコで遊んでいるんですね。自分がおむつの中にウンチするとそれを引き出してきては、べちゃべちゃさわって遊んでいます。そのかわりお腹がすいたら、周りに食事を置いておくと、それを勝手に食べるし、眠たくなったら勝手に寝るという、とっても手のかからない子なんです。たぶん、そうやって生きてきたのだと思います。
 その子にタッチケアをしてもらいました。睡眠の時間だとか、いろいろな癖だとか、いろいろなことを観察していてねということをお願いしました。そうして2週間タッチケアをしました。前の月に22回ウンチいじりが観察されているのですが、タッチケアを始めた次の月は8回に減っているんです。しかもタッチケアは月の途中から始めていますので、タッチケアをしている期間はウンチいじりをほとんどしていません。
 そのうち、保育士が来ると、保育士に寄り添っておもちゃで遊ぶようになってきました。最初は、何をされるのだろうかと嫌がってソワソワゴソゴソと逃げ出し、なかなかうまく保育士の手を受け入れてくれません。ずっとタッチケアをしている様子がビデオに撮られているのですが、2週間でどんどん保育士に寄り添うようになり、保育士の手を受け入れるようになっていきます。ウンチいじりが激減して、保育士のそばで遊ぶようになった。そのかわり、すごく手がかかるようになりました。しょっちゅう人を呼びますし、眠たくなったら、誰かによしよししてもらわないと寝てくれません。恐らく、やっと二歳半らしい、そういう子になってきてくれたのだろうというふうに思っています。実はそこの施設ではウンチいじりが多いので、ウンチにさわらせないようおむつの中に手が入らない洋服を工夫しようとしていたのです。それなのに、さわって、好きよ好きよと言うだけでこれだけ減ってくるところを見ると、「一体我々は何をしようとしていたのでしょうか」という反省もありました。それから保育士は最初タッチケアの効果を見たかったので、あんなことができるんじゃない? こんなことができるんじゃない?と新しい変化を探していました。だけど、この子はもともとこんなことは出来ていたよって評価も出始めた。いままでこんなトラブルがある、こんなプロブレムがある、こんなところが困った子よね、というふうに見ていたのが、自分たちがその子のいいところを見ようとするようになったということを言ってくれました。
 そして、担当の保育士と担当ではない保育士がやると、「効果が違うんです」と言うんです。担当の保育士がやると、やるほうも落ち着いているし、受け入れるほうも安心してベターッと寝そべって、自分の手を受け入れてくれている。タッチケアする人が担当者の時と担当者でない時では違うんですよとおっしゃいます。それでその保育士は、「本当の担当はきっとお母さんなんでしょうね」ということを言ってくださいます。
 この調査を自分の研究の一環としてお願いしたのですが、よかったなあと思うのと、その間この子は幸せだっただろうなあ、というふうに思いました。実はそこの障害児施設ではその後、運動会シーズンに入りまして、2週間でタッチケアを中断して、運動会準備に入りました。そうすると、その次の月にウンチいじりが29回に増えているんです。今度は看護師から保育士にSOSが出まして、困っているから何とかしてと。保育士がまた始めました。そうすると次の月は6回に減っています。6回あるんですけれども、保育士さんが園にいる間はありませんでした。
 これにはいろいろな要素がかかわり合っているのだろうと思います。自分が受け入れられている、自分が愛されている、自分は気にしてもらっているということを子どもたちにわかってもらって、それで愛情を求める。その後、自分が成功したり失敗したときに、自分を振り返ったり、立ち直ったり、もしくは、きちんとそこから逃げたりするときの気持ちのよりどころにする。自分のいいイメージだとか、自分は受け入れられていたという記憶が大きく影響すると思うのですが、そのヒントの一つとして、もちろんこれだけとは思いませんけれども、触れるということをお母さんたちや保育士さんたちに伝える合言葉の一つとして、タッチケアというものがありはしないかというふうに考えて、いま、前川先生の下で仕事をしております。ご静聴ありがとうございました。(拍手)

前川 次は「絵本の読み聞かせ」です。ふれあいはすべて五感の刺激なのです。見る、聞く、さわる、におい、味あう。子どもは五感の刺激が多ければ多いほど効果がありよく育ちます。タッチケアと絵本の読み聞かせというのはそれの双璧です。
 絵本の読み聞かせにつきましては、現在、日本の小児科医は1万何千人いますが、内海先生はその中で絵本の読み聞かせに最も深く関わっている先生です。『チャイルドヘルス』という雑誌に、子どもの絵本について連載していますし、ご自身でも読み聞かせを行っています。子どもに合った絵本とか、それを通してのいろいろな子育て支援などをやっておりますので、このことについてのお話が伺えるのではないかと思います。それでは、先生、よろしくお願いします。



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