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第27回 母子健康協会シンポジウム 子どもが育つ保育
3.絵本の読み聞かせ 〜心の処方箋〜
吉村小児科院長・日本小児科医会常任理事 内海 裕美



保育の世界に絵本がどのように役立つか

 私は園医であちこちの保育園に行っています。1週間に一度行っているところが2カ所あって、そこの保育園で毎週読み聞かせをしています。1つは、1歳児クラスから進めて、いま3歳児。もう1つは、3歳児クラスから始めて五歳児になっています。それを順繰りやっているんですけど、絵本の読み聞かせを意図的に計画的にやっていったクラスと、その辺にある絵本を時間つぶしに読んだクラスでは、全く違います。先ほどから言われているように、子どもたちにとっては、かかわってくれる、真剣にかかわってくれる大人がいるんだという時間にもなるわけです。
 例えば2月は保育園の行事として豆まきがあると思いますけれども、鬼をテーマにした絵本を、先生たちがどれくらい必死になって子どもたちのために本屋さんに行ったり、図書館に行ったりして探してきて、その子どもたちのレベルに合わせて、どうやって楽しませる時間を提供するかという下準備がものすごくかかると思うんです。例えば30分の読み聞かせの時間だとしても、30分間のバックにある大人の誠意や子どもに対する思いというのは、ちゃんと伝わるのです。それを適当に選んだなら、その適当さしか伝わらなくて、子どもたちはやはりついてこないのです。
 いま、私が絵本の読み聞かせをしたときのお母さんがとても勉強してくださって、自分の子が小学校に上がったクラスで、朝の読み聞かせのグループをつくってくださってやっているのですが、「先生、聞いてくれない子がいるけど、どうしよう?」というんですね。それは「聞いてくれない子に合わせなさい」と。要するに自分が提供したものに子どもたちを合わせるのではなくて、子どもたちが何を望んでいるかということに耳を傾けないと、子どもたちはついてきません。
 そういうことが人間関係のかかわりの中で一番必要なんだけれども、どうしても大人から押しつけがち。こういうかかわりを大切にしようと考えると絵本の読み聞かせをするときは、大人の態度が真剣になって変わってくるんですね。そのことによって子どもが、この大人は信用できるとか、この人は私たちのために真剣に取り組んでくれるということが、本当は親が一番なのですが忙しいと、保育園で肩代わりできるところかなと思います。
 子どもたちは本当にいろいろなかかわりを求めていて、とよたかずひこさんの『すりすりももんちゃん』(童心社)という絵本がありますが、すごく時間の流れのゆっくりしたほのぼのとした絵本です。これは一歳児から五歳児まで大好きです。小学生も好きです。このすりすりももんちゃんはスーパー赤ちゃんなんですけれども、桃太郎をイメージしていますから男なんですけど、男でも女でもいいと作者の豊田一彦さんはおっしゃっています。
 スーパー赤ちゃんのももんちゃんは、いつも原っぱで一人遊んでいるわけです。ここにいろいろなお友達が来て、「ピヨピヨひよこさん、ももんちゃんにすりすり、ももんちゃん、い〜いにおい」。金魚さんが来て、「すりすり、ももんちゃん、い〜いにおい」、お友達の中にサボテンさんがいて、ももんちゃんにすりすりするんです。サボテンさんにすりすりされたら痛いですよね。痛ッと言って我慢しているんですけど、泣きながら、我慢、我慢しながら、ずっと我慢、我慢して飛び込んだところがお母さんのところで、お母さんがももんちゃんにすりすりしてくれて、「お母さん、いいにお〜い」で終わる絵本なんです。ここで子どもたちとバイバイするんですけど、これを読み終わったあと、そばにいる子のほほにすりすりってするんですね。すると全員がズズッと出てきて、自分にもすりすりしろと言うんです。そのすりすりを全部してやらないと、帰ってきてはいけないんです、この本を読んだら。1人でもすりすりせずに残してはいけません(笑)。
 そういう意味では5歳でもそうです。それは、例えばおうちで抱っこされていないとかそういうことではなくて、その関係の中で誰もが自分を相手にしてほしい、自分にかまってほしい、自分が大切だというメッセージを受け取りたいという思いでいるのです。これは子どもだけではありません。青山学院の庄司順一先生は「皆さんは自分が幸せだというのはどういうときに感じますか?」と問われ、「人から愛されている、自分は大切にされているということを感じるとき」が、やはり一番幸せだとおしゃっています。現代はそのことがものすごく感じにくくなっている時代ではないでしょうか。
 先ほど前川先生が、授乳中にはアイコンタクトを取りながら母子相互作用が必要だということをおっしゃっていました。ところが、現代のお母さんたちは、NPO子どもとメディアの調査では、テレビ、ビデオを見ながら授乳をしているお母さんは七割を超えました。赤ちゃんはお母さんを見ているのに、お母さんはテレビ、ビデオを見ているのです。これはとんでもないことです。ですから、今日聞いたんですけれども、母子手帳の改正が一部行われまして、4月1日から母子手帳の母乳のところに、「授乳中は、テレビなどを消して、ゆったりとした気持ちで赤ちゃんに向き合いましょう」という一文が正式に載るそうです。こういう時代になって、そういう子育てをしている現場から子どもたちが保育園の先生たちのところに来ますので、それを補う意味では、いろいろな絵本を丁寧に、子どもたちに意図的に、計画的に真剣に読む、子どもたち一人ひとりをていねいに見ながら絵本を読む時間をぜひつくっていただきたいと思います。



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