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第27回 母子健康協会シンポジウム |
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子どもが育つ保育 |
4.総合討論(3)
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— 読み聞かせは幾つまですればいいでしょうか。
内海 二十歳を過ぎても、三十過ぎても、高齢者施設でも、絵本の読み聞かせはとても楽しい時間を生み出していますので、どこでも、誰にでも。例えば、私がここで皆さんにそのテーマに沿ったある絵本の読み聞かせをすれば、とても効果があるわけです。ここで「いないいないばー」をやろうとは思いませんが、命を扱った絵本だとか、いじめられた子どもの気持ちを扱ったとても深刻な絵本だとか、家族の誕生した楽しい絵本だとかを、例えば映画解説者が「この映画いいですよ」と言うのに、いろんな解説の仕方がありますよね。絵本と人をつなげる人の役割がとても大切だと思います。だから、子どもと絵本をどうつなげるかというのは保育士さんたちの仕事だし、子どもと親をどうつなげるかというのも、その中に絵本をどう組み込むかという仕事もできますし、自分が絵本とかかわりながら子どもとどうやって育っていくかということでも、いろんな絵本の使い方があります。
— 先生は絵本を読み終わった直後のかかわり方をどうされていますか。何か気をつけていることはありますか。
内海 どの本も、楽しんでいるかなということは気を配っています。『すりすりももんちゃん』で、時間がないから子どもたちの半分だけすりすりして終わるというようなことはしません。今日は夕方までつき合えるなという休診日のときには、ああいう絵本を持って行きますけれども、実際にそこでかかわったり感想を聞いたり、あとを引きずりそうな絵本のときには、「じゃ、さよなら、絵本を読んでありがとう」という選び方はしないです。やはり、楽しくてよかったとか、テーマを持っていくと印象に残るんですね。今日は雨が降っているから、雨の絵本を持ってきたよとか、今日は飛び跳ねる動物の絵本ばかり持ってきたよといって、「次は何が跳ねるのかな?」と。
「ブックトーク」というのがありますけれども、テーマを持って、例えばお誕生会があったら、おいしそうなケーキがいっぱい出ている本を探してくるとか、次はどんなケーキかなとか、月齢、年齢に合わせたものがありまして、クリスマスのときはクリスマスという定番もあるけれども、「雪の様子が書いてある本を先生は見つけてきたんだけど」みたいな形でやっています。特に私は毎週行っていますので反応も聞けるし、印象に残った絵本は必ず子どもたちが「置いていって」と言います。「ああ、面白かった」だけだと、置いていってと言わないですね。もっと読みたいときはこれを置いていってと言うので、一週間貸してあげたりするのですけど、もっと面白いと、お母さんに報告するんですね。お母さんはわけがわからないけれども、その子が患者さんで来たときに、その絵本の話を私とその子がすると、「ああ、そういうことだったのね」とお母さんが納得なさって、子どもの中でとてもいろいろな思いがあって育っているんだなあというのを感じます。
だから、保育士さん、担任が読むとまた違うんですね。いろいろなことをしている人が続きで絵本を読むのと、全然違った立場の人が1週間に一度読むのとまた違いますから、担任を代えて読むとか、園長先生がたまには読むとかいうふうにしてやるのも、たぶん面白いと思います。
— 子どもにふさわしくない絵本を挙げるとしたら、ありますか。
内海 やっぱりあるでしょうね(笑)。
前川 ありますよね。
内海 あります。食べ物でもいいものと悪いものがあるけれども、それはもう自分の感性で、自分が読みたくないなと思うものは与えないですよね。原則としては、小さい子はワクワクドキドキは好きなんですけど、最後は安心したいんですね。だから、最後ホッとする。例えば『すりすりももんちゃん』も、泣いて終わっちゃったらだめなんですね。エーンと言いながら、お母さんのところに入ってすりすりされたから、みんなホッとするわけです、「よかったねえ」で。
『三匹のコブタ』なんかは、年長さんにやるのは別にいいんですけど、小さい子にはちょっと早過ぎます。お化けのものでも、大好きな人と一緒に絵本の中にいるから入れるんです。3歳児、4歳児は1人でお化けの話なんか見ませんよ、好きでも。読んでくれる人と一緒に、「こわいねぇ」と言って一緒に帰ってくれるから見るんです。そういう意味で子どもに不安感を残さない絵本を選ぶことが必要だと思います。
小学生ぐらいになると、戦争の話だとかそういう重たい話を読んで、「どうする?」みたいな詰める話はしますけれども、あくまでも保育園や幼稚園でやるときは、ワクワクドキドキしながら、「ああ、世の中はやっぱりいいものなんだ」というふうに終わる絵本、ほのぼのとしたものとか、時間の流れのゆったりしたもののほうが、子ども自身もとても喜びます。こんなにテレビ、ビデオがあって、こんなに速いスピードの中に生きている子どもたちでも、やっぱり生のコミュニケーションでゆったりとした時間のほうを好むんですね。
絵本を読み聞かせすると、やはりテレビをつけません。例えば保育の現場で、東京ではどうなんでしょうね。延長保育でビデオ保育をやっているところが地方に行くとあるんですけど、保育士さんがいて、子どもという仲間がいるところで何でビデオを使うのか。しかも保育のプロがいるところで。先生がいて絵本を読んだら、10人や20人の子どもは静かにするし、絵本が好きじゃない子は、仲間がいるのだから遊ぶわけです。そこで「ビデオを使わないで」というのは私のメッセージなんです。やはり子どもが自分で面白さを見つけて、遊ぶ力を信じる。大人の都合で動かそうとしない。
— 入園したばかりのとき、なかなか寝なくてずっと抱っこして大変で、布団をぐるぐる巻いて寝かせてしまう。何かよい方法はありませんか?
内海 先の話につながりますが、寝たくない子をどうして寝かせるの? というのが私の第一の質問で、寝たいような生活リズムの果てに寝ていくわけです。眠れない子を無理やり寝かせること自体の発想をちょっと変えてほしいな、というのが私の思いの中にあります。
保育園は、疲れをとったり、午睡が必要な子には、午睡の時間をとりましょうというメッセージは流すけれども、全員寝かせろとは誰も言っていない。ところが、その時間帯に連絡帳を書くとか、そこに保育士さんを1人置いて、保育士さんのちょっとした研修会をやるというためにどうしても子どもを寝かせてしまう。年長さんなんかは、はっきり言って寝ないですよね。だから、3学期は小学校に向けて、年長さんだけはお昼寝なしにしていますが、あの時間が苦痛でたまらない子というのが結構います。寝てしまったために夜寝られないとか、結構いるんです。
だから、子どもに合わせた保育というのは何なのか。保育園に合わせた子どもの保育ではなくて、1人ひとりの子どもに合わせて、その子が小学校生活の準備として早寝早起きのリズム、友達と喧嘩して仲直りするリズム、集団で学べる利点はありますが、保育園のために子どもがいるわけではなくて、子どもたちのために保育園があるんだという視点が、どうも、保育の現場が厳しくなればなるほど、予算カットで保育士さんが減らされたりすればするほど、保育園優先の保育になりがちな現場もありますので、ぜひぜひ、子ども中心に、寝ない子は「どうして寝ないのかな?」と。寝かせなくてはと思う前に、この子には寝る必要があるのだろうかまで考えていただきたいと思っています。
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