乳幼児の心の発達とアタッチメント「安心感の輪」と「一人でいられる力」の大切さ(1)
本日は、大変貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は発達保育実践政策学センター(以下Cedep)のセンター長を務めています。当センターでは、全国の病棟保育の実態に関わる調査研究、保育・幼児教育の分野で注目を集める非認知能力の調査研究、コロナ禍における保育・生育環境の変化に関する調査など、さまざまな研究活動を行っています。Cedepのホームページでは、動画やデジタルブック、事例集などを通じて研究の概要を紹介していますので、関心がございましたらぜひご活用ください(スライド2~6)。
私自身は発達心理学が専門で、子どもの発達の基本的な研究に従事してきました。私が子どもの発達の研究に取り組むようになったきっかけは、スヌーピーが登場する漫画『ピーナッツ』に出てくるライナスという男の子です。ライナスはいつも毛布を持ち歩いています。今日、ご参加の皆さんの近くにも、ライナスと同じように、ハンカチやタオル、あるいは柔らかいぬいぐるみなどをぼろぼろになるまで、ずっと持って離そうとしない子どもがいるかもしれません。日本では、3~4割ぐらいのお子さんがこうしたものを持つことが知られています。この割合は欧米では7~8割に上がります。今ではこうしたものを持つ・持たないということは、その後の子どもの発達に何か違いをもたらすことは特にないということが明らかになっています。しかし、やはりそういう一人ひとりの子どもの違いには、何か理由があるに違いない、それを掘り下げて調べてみたいということで、子どもの発達の研究に取り組むようになりました。平たくいえば、さまざまなデータを集めて分析する中で「どんな環境で、どんな人から、どんな育てられ方をしたら、どんな個性、性格の子どもに成長するか」ということを研究してきました(スライド7)。
子どもの心の成長、体の成長は、多くの要素が絡み合って進んでいきます。その中で最も重要な鍵を握っているのは、子どもの一番近くにいる大人と、どんな関係を幼少期に経験することができるか、ということです。家庭ではお母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃん。早くから園に通っている子どもにとっては保育者の先生。こうした子どもの一番近くにいる大人と子どもの関係をどういう切り口で考えるかということで、これまでこだわってきたのが「アタッチメント」です。
アタッチメントは、日本では「愛着」という言葉で呼ばれることのほうが多いかもしれません。愛着もいい言葉ですが、「愛」という言葉が入っているため、「愛情」と混同されてしまうことが少なくありません。「愛着は重要ですよ」と申し上げると、「それは子どもに愛情をたっぷり注いで接してあげればいいということですよね」と言われてしまうことも、実は少なくありません。しかし愛着と愛情は、かなり意味が違います。愛着の意味を、できるだけ正確に把握していただきたいということで、最近は英語をそのまま片仮名に置き換えて、アタッチメントというようにしています。
アタッチメントという言葉の意味は何かというと、アタッチする、くっつくことです。ただし、いつでも誰かれ構わずくっつくことではなく、基本、子どもが怖くて不安なとき、あるいは感情が崩れたときに、特定の大人にくっついて、もう大丈夫だという安心感に浸ることがアタッチメントです。小さい子どもであれば、日に何回、何十回も見せる、ごくごく当たり前のことです。
しかし、そのごく当たり前のことが、私たち大人が頭で考える以上に、人間の一生涯にわたる心と体の健康や、幸せの形成に対して、とても大きな影響力を持っていることが、たくさんの研究から明らかになっています。そのアタッチメントの大切さや、基本的なところをお伝えできればと思っています。