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子ども達の脳と体の発達

文教大学教育学部特別支援教育専修 教授 成田 奈緒子先生

脳育ては順番とバランス

脳育てには、守られるべき順番とバランスがあります(図1)。最初にきちんと育てられるべき脳は、寝ること、起きること、そして食べることとからだをうまく動かすことを司る「からだの脳」(主に大脳辺縁系、視床、視床下部、中脳、橋、延髄などを指す)です。通常、生まれた時には寝たきりで夜も昼も見境なく泣き、ミルクをねだる、つまり睡眠も食欲も身体の動きもコントロールできない赤ん坊が、次第に首が座り、お座りをしてはいはいができるようになり、1歳ごろになると、朝目覚め、夜眠り、そして起きている間に姿勢を維持して体を動かし、食事を3回摂るようになりますよね。同時に、喜怒哀楽を表情や声で表現できるようになってきます。これが「からだの脳」の育ち、すなわち第一番目に起こる脳と体の発達です。この脳は、生命の維持装置ですから、もちろん動物たちもきちんとこの脳を働かせて生きています。大体生後5年くらいをかけて育っていきます。

図1

次に1歳ごろからは、いわゆる「お利口さんの脳」(主に大脳新皮質を指す)の育ちが始まります(図1)。
この脳では言語や微細運動、そして思考などを司ります。人間ならではの機能がたくさん詰まった部分なので、私たちは、どうしても脳というとこの脳をイメージしがちです。実際、この脳は特に小中学校での学習を中心として、大体18歳くらいまでの時間をかけて育ちます。進化が進んだ動物ほど大きく機能も高度化していて、人間を動物から区別するには大切な脳です。でも大事なことは、まずはからだの脳から育つ、つまり発達の順番は決まっていることです。二階建ての家を建てることをイメージしてみてください(図2)。順番を無視する脳育ては、たとえて言うなら、二階建ての家を建てるのに二階から先に作っていくようなもので、結果としてバランスが悪く長持ちしない脳が育ちます。

このような順番を崩した脳育てがしばしば「こころの脳」の問題を引き起こします。人間の脳では、だいたい10歳を過ぎたころから「からだの脳」と「お利口さんの脳」をつなぐことで「こころの脳」が育ちます(二階建ての家で言えば階段、ですね(図1、2参照))。

図2

「からだの脳」で起こった喜怒哀楽の情動は、そのまま行動に反映されると人間社会ではうまくいかないことも起こります。そこで人間は、起こった情動を「からだの脳」から「お利口さんの脳」の一部分である前頭葉につないで、状況判断や記憶を使って論理的に思考をした上で、自分が取るべき最良の行動や言動を選ぶのです。たとえば、書類の不備を上司に怒られて怒り(情動)が起こったとしても、それがそのまま上司を殴る行動にはつながりませんよね。一旦怒りを前頭葉に繋いで、上司との関係や自分の社内での立場を考慮に入れ、「どうしたらこの場面を回避できるか」を思考した上で、「申し訳ありません。書類をすぐ書き直します」という言動が出てくるのです。大人になり社会に出るためには必須の脳機能と言えます。これが、「からだの脳」「お利口さんの脳」と順番に作られたのちに、やっと出来上がるのです。

そう考えると、立派に社会で活躍する大人を育て上げるためには、乳幼児期から脳育ての順番を守ることが重要であり、その中でも特に大切なのは、なんといっても土台である「からだの脳」育てである、ということがわかりますね。

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