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第34回母子健康協会シンポジウム 「子どもたちの遊びと体づくり」
3.「仲間遊びが自然に発現する遊びの環境」

元東京都杉並区立保育園園長 こども環境アドバイザー 東間掬子先生

東間よろしくお願いいたします。

私は、主に子どもの仲間意識、人間関係が自然に生まれる、それが環境によって育つものだということを、実践をもとにしながらお伝えをしていきたいと思います。

まず、私のレジメですけれど、これを初めからやっていますと時間がなくなってしまいますから、ざっと要旨をお伝えいたします。私たちは、教育要領とか保育指針によって保育計画を立てながら保育していくわけです。私は、保育士ですから保育指針を読みまして、保育指針は変わってきておりますけれども、子どもの自発性、主体性を尊重するということと、それから人間関係をうまくつくれること、これは昔からずっと変わっておりません。これはもちろん教育要領についても同じことであると思います。とても大事なことですね。

それから、平成2年に大変わりしたのは、指導によらず環境による保育、というふうに変わったんですね。あのときは大変でした。環境づくりを一体どうしたらいいかと。それで、保育指針を一生懸命読みました。そのあとの平成20年のものは、子どもの自発性に基づいて、何をするかという内容の具体的な部分が少なくなってきたんです。指針によりますと、実際に保育の内容という頁、具体的な項はうんと狭まっていますね。計画におろすことが難しくなってしまった。

例えばどんなものかと思って一生懸命見ていますと、表現の項に水、砂、紙、粘土とか、こういうようなことが出ていますね。それから、保育の内容の項で、「素材や、用具を整える」という文字が二回だけ出てくるんです。先ほどから工藤先生が、たくさんの例を挙げていただきましたけれど、これはやはり環境による子どもの保育の成果ですね。だから、水や砂でもってとても子どもたちはよく遊ぶし、創意工夫もできるんですけど、それだけでは一体何が欲しいのというところの「何が」というところがよくわからない。そうすると、具体的なものは、それはやっぱり皆さんに、実践者に任されているということです。

それで、遊ぶものを具体的に、タイヤだとか敷物だとか、私もいろいろたくさん考えました。それらは私の本にたくさん載っておりますのでごらんいただいて、ご批判をいただければいいんじゃないかと思います。

その素材と用具、一体何だろうというわけですね。これもよくわからないけど、考えなきゃならない。例えば戸外遊びで素材と用具って何か。おもちゃではない。素材・用具って何だろうということですが、はっきりとした定説はわかりませんね。

そこへもってきて、一昨年、文科省から「幼児期運動指針」が出ましたね。皆さん、ご存じですね。つまり、今の子どもの身体能力がうんと劣ってしまっているから、だから何とかせいという、そういう指針なんですね。ですから、これを読みますと大分具体的にはなっています。例えばいろいろな用具を用意せいということがたくさん出てきますね。それで皆さんも、この用具という言葉に惹かれたと思いますけれども、具体的に見ますと、 例として3歳から4歳ぐらいは「ブランコ」や「滑り台」という言葉で出てきますね。そういうようなもので遊ばせなさいと。そうすると、皆さん、「あっ」と思いませんか。ブランコはもうありませんよね。どきっとしませんか。どうしますか。買いますか。買ってつけますか。嫌でしょう。いまさらブランコなんか、おっかなくて、できませんよね。だけど、運動指針に出ているんですよ。さあ、これからが悩みですよね。

話がそれますが、私、ブランコ、平気です。私は、自分の園庭でもってブランコ遊びで一度もお医者さんにかかる怪我は何にもありません。それは、3歳までのブランコと、3歳から5歳のブランコと種類が、二つあるんです。私の本に出ています。ゴムと縄のブランコです。これは先生たちはほとんどそばについていません。ついていなくても、誰も怪我しません。しかも、自分たちで挑戦させるんですけど、1歳から夢中になって挑戦します。一人残らず挑戦して、できるようになるんですね。これはまた後の問題になりますけど。

話が戻って、4歳から5歳になりますと、集団遊びとか、素材や用具でもって遊ぶというのがちょっと出てきまして、5歳から6歳になりますと、ほとんど用具と素材で遊ばせるとなっているんですよ。皆さん、読みましたでしょう。どうですか。素材や用具って、私たち、話し合ったこともありませんね。でも、素材と用具と書いてあるんですよ。

それから、「用具等を操作する動き」という項がとても多いの。基本的動きの例が28項目あるうち、用具等を操作する動きというのが11項目もあるんですよ。これが5〜6歳。つまり、これを十分やらせて卒園させるということですね。

素材・用具って何でしょう。しかし、5〜6歳でも3歳の運動能力しか無いので、こういうことが立証されたのでこれが出たわけです。それで、皆さん、今ごらんになりました工藤先生の遊具を、私は、素材とか用具だというふうに思っています。それで私は、あえて「遊具」という名前をつけまして、それで本にいろいろ発表しました。このレジメの一番最後に著書名が載っています。その一冊の本に、大体30種類前後のいろいろな私が考えたものが載っています。これは私も責任持って一生懸命つくりましたから、この遊具でもって、お医者さんにかかる怪我は何もありません。今までに、いろんな情報を集めていますけども、大丈夫でした。

それでは、東京のある園の1歳組、6月の室用のこの用具・遊具をちょっと見ていただきたいと思います。1歳組でも仲間遊びをする例です。

これでもって、もちろんいろいろな身体活動ができるようになるんですよ。子どもの仲間遊びがどのようにできるかというわけです。きょうは、東京都市立の保育園なんですけれども、実はこの保育園で、来年度4月から子どもを受け入れるけれども、それについてどういう遊具を用意したらよいかと、つまり素材・用具ですね、それで私を12月に呼んだのです。私は、このようなもの、こんなものと申し上げました。そしたら、3月までの間に先生たちがそれを山のようにつくったのです。これがほんの一部分ですけれども、ごらんください、この牛乳パックは、特にちいさい子どもには、私の考えた遊具の中で一番良いんですね。

さて新年度が始まって6月、私は再びこの保育園を訪問し遊びの状況を観察しました。これは1歳16名の組です。仲間遊びをするのを、ごらんになってください。

この子たちが、4月になって室に入ってきたときに、急にこの遊具を見たわけですね。そして、はっと飛びついたわけです。それでいろいろな遊びをするようになりました。

私は午前中見たわけですけど、例えばこの子は、段ボール箱を一つずつ一生懸命積んでいるんです。そうすると、別のこの子が支えている。手伝っているんですね。この子はそばで見ている子も、そのうちに手伝うかもしれないですけどね。普通でしたら大変ですよ。こんなことをやっていたら、そばへ来たら、「おまえ、どけ」とか、「いや、私のだ」とか、大騒ぎになるんですけどこの場合は手伝っているんですね。

ちなみに、午前中いっぱい私はこの子どもたちの室内遊びにつき合いましたけれども、奪い合いは2回だけ起こりました。あとはお手伝いなど仲間遊びです。6月20日に私が行って、撮らせてもらった写真です。6月というのは、新クラスは4月から始まったばかりでしょう、あまり日にちたっていません。これは16人のクラスかな。それで、半数が4月に初めて入った子どもです。

これを見てください。この子は積みに集中している。皆さんは、小さい子どもが集中しているというのは、どういう姿を想像されますか。集中しているといいますと、座ったり、腰掛けたりして、一心不乱に遊んでいるところだけを集中と思い、こういうふうに体を大きく動かしていることを集中というふうに解釈しないと思うんですね。ところが、子どもは、体を大きく動かすことによっても集中していくんですね。

こんなことをやっていると、普通ならまた外から来てちょっかい出して、自分にもやらせろとか何とかってわーわー始まるんですが、これがそうでもないわけです。

この子は、まず一人でこれを、つまり自己選択・自己決定、自由にいろんな物を持ってきていいわけですがこういう型のを、同じ型のを探して並べ出しました。実はこれは、そのうちに2人になって、一生懸命並べるんですよ。ほら、ひとりは探しに行っていて、この子は同じものを並べています。ここへ自然とほかの子どもたちが集まってくるんです。

まず、この子なんですけど、ちょっとこっちを向いちゃっているんですが、一番先に来て、ここへ腰掛けたんですが、このつくっている子と、立っていて、顔を合わせたんですね。顔をぱっと見合わせたら、そしたらこの子が来て、ここへ座ったわけです。作った子は座ることを了承するんですね。受け入れるんです。つまり、顔を見合わせるだけですが、それが「入れて」とか「貸して」とか、そんな言葉にかわったようです。

二番目に座った2人が目を合わせて、一番目の子がここへ座った途端に、「あっ」と思って、その後でここへ来て、黙って座るんですね。あ、あの子とあの子が了解しあって座れたから、自分も大丈夫だろうと二番目に座るんです。そしたら、あっちからもこっちからも順に座ったの。次々、次々とね。見ていたんですね。ここの次の席、この次の席というふうに、だんだん腰掛けていって、作った子は、これを了解するんですね。

実はこの時、えっ?順番に座る!と思って、私と担任の先生がびっくりして、そばに立って、この子たちを見ちゃったんですよ。まともに見ちゃったのね、このとき。そして、この子一人だけが私たちの顔を見ているんです。こういうふうに全部大体座り終わったの。そしたら、この子が私たちの顔を見て、手を挙げて、「ばいばーい」って言ったんです。私たちも、あれっと思って、「あ、ばいばーい」って答えたんですね。

ということは、どうもこの子の頭の中には、みんなお腰掛けをして、それで、ほら、もうみんな座ったから、これから出かけるよというイメージがきっと出たんでしょうね。それで「ばいばい」と言ったのね。午前中いっぱい、この子たちの会話は、私が聞き取れたのは、この「ばいばい」だけでしたね。
 それで、こういうふうにして以心伝心言わずもがなで遊んでいたわけです。

それから、これが1歳組のおままごとコーナーです。先生たちは「ままごとコーナー」と思ってつくったんですね。ここからここまでがコーナーなんです。それで、この4人が勝手なことをしている。エプロンだけは先生にかけてもらいにいったと思うんですけど、見てください、勝手なことをやっているのね。つまり、ままごとというのは、テーブルの上にお茶碗を並べたりなんかして、それで赤ちゃんを寝かせて、「こんにちは」とか、先生がいたらそういうふうにさせちゃうと思うの。ところが、この子たちがやりたいようにやらせておくと、こんなままごと、お家ごっこになっちゃうんですよ。でも、ここで先生がああだこうだ言わない。ここでずっと30分以上もこうやって遊んでいましたね。もうめちゃくちゃなもんです。適当なもんですね。でも、この子たちはこうやってずっと長いこと遊んでいる。ということは、こういうものがあり、こういうものもあり、いろんな選択肢があるから、子どもたちが考えて遊ぶんですね。

ままごとコーナーの椅子が、大きいのがミソです。小さいのだったら、持っていっちゃう。運んじゃうの。そうすると、先生が、「この椅子はここで使うの。持っていっちゃいけません」と、また始まるのね。それだから、これは、そんなことを言わないように考えなさいと言ったら、先生が考えて、こういう大きいのをつくったんです。こんな大きいのは、子どもたちはどこかへ持っていけないのね。だから、「だめ」と言わないで、どういう構造にしたらばいいかということを、先生は考えるんですね。

実は、この子たちはまたほかの遊びもするんです。段ボール箱を、それぞれ4人が持ってきて、くっつけたんですね。そう思ったら、一人ずつがそれぞれミニカーを持ってきて、その周りに自分たちが座る、腰掛けみたいな箱みたいなものを持ってきて、自分たちが入って、四方に座って、ミニカーを、ウー、ウー、ウー、ウーといって、箱の上をこうやって、座った4人が動かしているんですね。つまりサーキット、レースみたいなことを考えているんですね。ですから、箱を持ち寄る、それからミニカーを持ってくる、それから座る、それからウー、ウー、ウーですから、全部の遊びが20分間以上続くわけですけれど、こういうのをやっている。

1歳組の6月でこのように仲間遊びをする。つまり、先ほどからごらんになりましたように、いろんな遊ぶものがありますよね。これを先生たちが多く用意して、子どもたちのとりやすい場所に置いて、先生が何にも干渉しないと、子どもたちというのは、二度ばかり奪い合いがありましたけど、それ以外は、ずうっとこうやって遊ぶんです。遊ぶものが、このように大きくて体を動かせるもの、これが多種多数あることが必要だと思うんです。つまり、多種というのは、素材用具のいろいろな組み合わせを考えるんですね。それに多数あると奪い合いも起こらないということです。

一応これで終わりたいと思います。

前川ありがとうございます。

先生、一つだけ、レジメに、「遊ぶ時間は最低90分」と書いてあるんですけど、そのことをちょっと触れていただけますか。

東間わかりました。

先ほどの運動指針には、1日に最低60分以上は外遊びをさせるべきだということが書いてあるんです。それで私は、「できれば最低90分」にしたいと。それはなぜかという意味を、去年の保育学会で発表いたしました。そうしたらば、「ああ、やっぱり90分だ、60分なんて少な過ぎる」、なんておっしゃってくださった先生もいらっしゃったんですけど、研究は全部観察です。

つまり、多種多数のいろんなものがあるということが前提ですけれども、子どもたちはまず外へ出ますね。外へ出ますと、多種多数のもので急に遊び出すかというと、やらないんです。ちょっとこの辺のものを持ってきて、その辺にぽんと捨てたりしてね。それから、あっちの場所へ行ってちょっとやったかと思うと、こっちへ行ったりね。何でこんなにだらんだらんして、遊ばないのかと思っているうちに40分経つんです。40分たちますと、何人かでがーっと、その持ってきたもので遊び出して、遊びが高まって、発展していくんです。その時間を、私は、集中の時間と思っているんです。

どうして集中と言い切れるかといいますと、この時間帯に、60人とか70人ぐらいが全部園庭で遊んでいるんですけど、園庭全体がしーんとするんです。物音も何もしなくなっちゃって、子どもたちの歓声や話し声も何にもなくなって、しーんとしたまま、いろんなところでみんなが、いろんな、それなりのものをつくり出しているんです。

見学の先生が見えると、見学の方々が、「あ、静かになりましたね。へえー」といって、見られるんですね。この静寂が30分間続くんです。30分間続きますと、大体それなりのものができるんです。そういう小集団が多く発現して遊びます。これは一体何人かということも観察しようと私は、15年前と15年後、小集団の人数観察を行っています。この小集団が、平均すると3・6人です。それで創造物をつくり出すんです。つくり終わると、そのつくったもので遊ぶんです。遊ぶ時間と、あと、片づける時間が全部で20分間ぐらいなんです。つまり、つくる過程は40分+30分なんだけど、それ自体で遊ぶ時間というのは割と少ないですね。それで片づけるんですね。全部合わせると90分間なんです。

よく遊びを集中させなければならないとおっしゃっていますけど、集中が来るまでは多種多数の物を自由に選択させて、結局90分間が必要なんだなということが、これで私は大体わかったわけです。園庭がしーんとするような、そういった状況を、私は知っているよという園長さんは、今までに4人ぐらいしかまだ知りませんけど、いずれも、たくさんの素材・用具を使いこなした先生方です。

だから、多種多数の遊具、遊具というけど、これを素材とか用具とか、この指針どおりに解釈していいんじゃないかな、どうなのかなと思います。皆さんのご意見は後からでもお伺いさせていただきたいと思います。  

時間を過ぎてしまってすみませんでした。

前川どうもありがとうございます。

今のお二人のお話でのいろんな質問は、ぜひ質問用紙に書いて、渡してください。これから休みをはさんで、皆さんと一緒に話をしたいと思います。
〔休 憩〕

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