第34回母子健康協会シンポジウム 「子どもたちの遊びと体づくり」
2.「子ども達が主体的に遊べる環境とからだ作り」(2)
東京都目黒区立南保育園 園長 工藤恭子先生
こちらは、幼児ですが、春のころ、5歳児の子どもたちが、タイヤを全部自分たちで積み上げて、基地ごっこをしていました。それをずっと見ていた3歳児の子どもたちが、5歳児がいなくなった後に、そこへ行って、登ったり、入り込んだりして遊んでいたんですね。一緒に遊ぶまではいかないのですが、自分たちもやりたいという気持ちで、5歳児の後に遊んでいる姿が見られました。
④—1ござの下には、タイヤがいっぱいあります。その上にござを敷き詰めて、最初は保育士と一緒にやっていたんですが、これがお家なんだそうです。子どもの中にはござのすき間に足を入れたり、手を入れたり、何か布団のイメージを持って、そこで寝るというくつろぎの場だったりしているようです。ただ、本当にくつろいでいるイメージもあるんですけど、ござは滑るので、あちこちに力を入れながら登ったりすることを、3歳児の子どもたちの中にもちゃんと蓄えられていると思っています。④—2の写真なんですが、何か雑然として、いろんなものが乗っかっているんですけれども、ここの下にはビールケースがあったり、ベンチを斜めにしたりして載せています。ここが多分滑り台のイメージで滑るような形をとっていると思います。ここの中は基地になっていて、潜り込んだりして遊んでいます。子どもたちが自然に遊ぶ中で様々な道具を使い考えて遊んでいる写真です。
④—3も同様で、ビールケースをいっぱい重ねて、お家だったり、基地だったり、木のところに、ブルーシートをかざすとお家のイメージになったりして遊んでいます。
④—4は、ちょっと見にくいんですが、フープを並べて、けんけん跳びなどやっていたんですけど、そのうち缶ぽっくりを持ってきて、渡って歩いたりしていました。これも自分たちで考えて遊びが広がってきています。
こちらは、園庭ではなく、2カ所の園庭をつなぐ通路なんですね。そこも利用しようということで、園庭がいっぱいで遊べないときは、ここにも道具を運び、ブルーシートのところを転がったり、ござの下にはビールケースを入れたり、本当にいろんなものを自分たちで組み合わせて遊んでいます。いろんな遊びを取り組む中で体のバランスが随分とれてきたと思っています。
こちらの映像は、4歳、5歳児が主なんですけれども、ここでは、写真にはないのですが、4歳児がビールケースを2段、3段と階段のように重ねて、その上に上り、そこからジャンプしたかったんですね。保育士に、「手を持って」と言ったんですけれども、保育士のほうは、「随分高いね。でも、先生はずっとここにつけないんだ」と言ったら、「わかった」と一言言って、何をするかと思ったら、高いところのビールケースの下に、タイヤ、風呂マットを敷いて、そこがクッションとなるように考えたようです。それで、いざ登ってみると、「やっぱり高くて、降りられないな」と思ったようで、次に何をするかと思ったら、ビールケースの高さを2段に下げたんですね。ああ、そうやって考えるんだと。できるかできないかを試しながら、自分でどうやったらできるんだろうと工夫しながら遊ぶ力がついていくんだなと感じたところでした。
また、鉄棒の下にタイヤを2段重ねて、その上に風呂マットを載せ、鉄棒につかまり、トランポリンのようにぴょんぴょん、鉄棒を触って跳んでいたんですね。そのときも体が半分以上も出ていたことで、保育士は危ないと感じたみたいで、声をかけたら、子どもたちは、どうするのかなと思ったら、今度はそのタイヤを広げて、⑤—2の写真なんですけれども、⑤—1の鉄棒にあったものを全部こちらのほうに移動して、タイヤの上にマットを敷いて、並べて、ここの上を歩いたり、跳びはねたりする遊びに変化していきました。ここでも、これがだめならこれという形をとりながら、自分たちで遊びを広げていくという力がつくんだなと改めて思いました。
こちらも、ござの下にはタイヤだったり、ビールケースだったりと、自分たちでつくっています。危なくないように風呂マットを必ず敷くというのも、子どもたちの中で考えてやっているようです。
⑤—3の写真は、登り棒ですが、随分登り棒も上れるようになってきたんですけれど、ちょっと変化をつけてみようと、こちらが長いロープなんですね。ロープといっても、古シーツを三つ編みにしてつくったものなのです。そこで、長いブランコにして、ここに足をかけて乗っている、5歳児の姿です。ここの下にもタイヤを2段載せて、この高さに上って乗るというのもちゃんと考えている。ただ、なかなか、ブランコが揺れてしまうので、人の助けがないとできないときは、友達同士で助けながら、支え合いながら、遊んでいます。
⑤—4もロープなんですが、これは、2階にテラスがあるのですけれども、そこからロープを垂らして、ターザンロープに見立てて遊んでいます。今はここに並んでいるんですが、最初のころは、早くやりたくて、ロープのそばに行って、とにかく早くやりたい気持ちがすごくあったんですね。でも、危険ということに気がついたときに、この距離を持てば危なくないんだというところで、並び方もちょっと離れてみたりとか、あと、ここにも風呂マットを敷いて安全にしようというところを自分たちで考えてやっているところです。
⑥—1の写真も、これは畳なんですが、古畳を畳屋さんからいただきまして、子どもたちがシーソーにしてみようというアイデアを出したんですけど、畳なのでくしゃっとなってしまって、中に竹を入れて、タイヤで固定して動かないようにしてやったんですが、うまくシーソーにはならず、難しかったんです。それでも子どもたちの中では、楽しいというイメージを持ちながら、しばらくこんなふうにくぐったりしながら遊んでいるというところです。
⑥—2〜4の3枚の写真ですが、これは5歳児たちです。タイヤを持ち上げることができるようになってくると、上に重ねるということができるようになってきました。どんどんどんどん重ねて、じゃ今度は中に入ってみようというイメージになって、これはロケットだったかなと思うんですが、隠れ家にしたり、乗り物にしたりというイメージで遊んでいるところです。そのうちかくれんぼうをしたり、隠れたところに誰がいるか当てっこしたり、探したりして遊びが広がっているようです。
タイヤを重ねるのに、大きいタイヤから小さいタイヤへ大きさのバランスが、ちゃんとわかる子は順番に重ねていくんです。大きさにこだわらず重ねていき、ふらふらすることに気付くと、どうしたらいいんだろうと考えてやることを繰り返して、どうやったらふらふらしないかということを考えながら、積み上げて遊んでいます。
これは上が大きいんですけれども、友達に支えてもらいながら、入ったり出たりというところを楽しんでいます。
⑥—3の子は台を使ったんですが、やっぱり入るには、どうやって入ったらいいかという難しさもあるようなんです。何とかこう膝を——その後ちょっとどうなったかわからなかったんですが、何とか中に入ろうというふうに思っているようです。
⑥—4の写真は、ちょうどお店屋さんごっこでやるお店を決めるときに、モグラたたきをやりたいという意見が出たそうです。それが、お庭に出たら、いつの間にかモグラたたきのゲームに変わり、タイヤの中に入って、風呂マットをふたにみたて、閉めたり出したりしながら、モグラたたきごっこに遊びが発展したという内容です。
子どもたちの遊びというのは、本当に大人がはらはらしながら、危ないんじゃないかということを常に思ってしまうんですけれども、でも、意外と子どもたちというのは体で確かめながら道具を組み合わせていくんだなというのがわかりました。怪我にもつながっていかないということを、子どもたちの姿を見ながら、実践できたかなと思います。
最初のころ、道具を出したときは、子どもも保育士も扱いや遊びの予測に見通しが持てず、声をかけるタイミングや援助に迷って、怪我につながったことも何回かありました。でも、そのたびに、ヒヤリ・ハット対策として振り返り、実践につなげていくことを繰り返しています。今も同じように続けています。
私たち保育士が心がけているのは、できるだけ、「危ない」「そのやり方はだめ」という言葉を発しないで、子どもの行為を尊重するようにしています。さまざまな道具を使うことで、子どもたちの空間認知力、視野が広がってきています。環境を整えておくことで、子どもたちは自分から考え、工夫する。自然に遊びが広がっていき、また、それが魅力的になっていくというところで遊びが発展していくんだなというふうに思っています。その中で体幹や全身の神経を使って遊び、懸垂力や回転力、逆さ感覚、支持力、などが身についていくことがよくわかります。また、園庭は、0歳児から5歳児までが遊べる遊び場というところでは、小さい子たちは大きい子たちの遊ぶのを見て、真似したり、挑戦したいという意欲につながったり、狭い空間だからこそそれができるというのが園庭なんだなというふうに改めて感じているところです。
次は、屋内遊びの様子です。いつも屋外で遊べるとは限らないので、室内でも、どんなふうにして体を動かして遊ぶことができるか考えて取り入れているのが、リズム運動遊びです。乳児からのリズム運動遊びなんですけれども、0、1、2歳児の乳児と、3、4、5歳児の幼児に分かれて、定期的にホールや部屋でリズム運動遊びをしています。
これはホールでの様子です。リズムをするのに大事にしていることは、子どもたちが体を動かすことが楽しいと思えることや、動かしているうちに運動機能が高められるということを目的にしてやっています。0、1、2歳児の子どもたちは、体を動かすのが楽しいというところから始めています。0歳は、1歳、2歳がやっているのを見るところから始めて、少しずつできることを増やしていっています。音楽に合わせて床で転がったり、仰向けで足を上げたり、交互に揺らすということができるようになってくると、背中がぐんと伸びて、歩行がしっかりしてきたということがよくわかりました。
また、1、2歳児は、ピアノの音で何の動きをするのかがわかり、歌いながら楽しく手足を動かしています。保育士も一緒に楽しみながらやっているリズム運動遊びです。
⑦—1は1歳児の姿なんですが、これは、「トンボのめがね」というトンボの曲なんです。それに合わせて体を、手を左右に振ったり、腰をかがめたり、最後に決めポーズがあるんですが、片足でぴっと立つことができるようになってきています。
⑦—3は、亀のポーズです。初めは、1歳児は、手と足を後ろでつなぐということができない、押さえるということができないので、保育士が押さえてあげるんですね。それを繰り返していくと、自分で足をつかめるようになる。それができてくると、こんなふうにきちんとまっすぐになってくるというのが、この写真で違いがよくわかりました。繰り返すことで、こういう姿がきちんとできて、これで胸がぐんと伸びていくということがよくわかりました。
⑦—2は0歳児ですけれど、まだまだハイハイ、歩行も十分じゃない子どもたちが、見るということも楽しんでいるんですね。音楽が鳴ると体が自然に動く、手足が動くという姿がよくわかる映像です。今は随分動くようになってきていますので、1歳児のように走る、小走りという姿も見られるようになりました。
先ほどもお話しましたように、背中が伸びるというのは、こういう遊びを毎日繰り返すことで、子どもたちの体というのはしっかり体幹が備わっていくんだなというのがよくわかった映像だったので、きょうは持ってきました。
これは幼児です。4歳、5歳児の姿なんですが、乳児とは違い、動き方がきちんと決まっています。保育士もきちんと動きをやりながら、子どもたちにも、そこをできるように促しています。5歳児になると、決めポーズのところでは、足がぴんと伸びる。手が真っすぐ。手足がきちんと伸びていくというところまでできるようになってくるんですね。これでバランスをとる。大人でも苦しいポーズだったりするのですが、子どもがそれができるようになってくるというのはすごいなと改めて思っているところです。
こちらも同様で、足をぴんと伸ばす。足先まで伸ばすという行為ができるようになってくるというところでは、リズム運動遊びの中で培われていくなというふうに思います。
⑧—2は、カエル跳びです。足がこんなに上に上がるまでびょんと跳ぶというか、足が上がるようになってくるんですね。もう倒立のようになるぐらい、できるようになってきます。こういうことができることで、自信を持ってきて、得意になってやっている子どもたちもたくさんいます。
⑧—3の写真は、クレーン車のイメージなんですね。音階に合わせて、曲が鳴ると足をゆっくりおろしていく。ゆっくりゆっくりやるので、かなり苦しいんだと思うんですけれども、足がこんなにぴーんと伸びているというのがよくわかるなと思いました。
日常的に自然に動くことと意図的な動きをするのを組み合わせながら、足腰、筋力、リズム感、表現力を身につけてきました。年齢ごとに少しずつ難易度を上げながら、発達に合わせて考えています。3、4歳児の子どもたちは、5歳児になったらこんなことをやりたい、あんなふうにできるようになりたいという憧れを持っているので、5歳児は誇らしく思って、自信を持ってやっています。また、見ている子たちからの声援を受けると、気持ちもいいんですね。「すごーい」と褒められるだけでも、子どもたちは、またやってみたいという気持ちになっていくなというのをすごく感じます。そうやってやっていくうちに、機敏さが見られ、巧みな体に育っていくことを感じています。
ほかにも屋内工夫して遊んでいるのは、階段を利用して、体育マットを乗せて上り下りをしています。ビニール製なので滑りがいいんですね。階段は長いんですけれども、ロングマットを2枚重ねてやっています。これがとても大好きで、上らないと滑られないよということもあって、一生懸命上っている姿です。
⑨—1こちらのほうは1歳児なんですが、まだ膝と手を使いながら上るという姿があって、それでもなかなか、滑るので上りにくいんですね。そうすると、このマットの縁に手をかけて上ろうとする、これも自然な姿でした。
⑨—2こちらは2歳児です。もう2歳3歳児位になると、膝をつかないで、ちゃんと足の指を使って上るというところの、この違いがよく見えて、発達が見えるなと思った写真でした。
⑨—3これは0歳児なんですけれども、ハイハイができるようになると、階段をこうやって上って、上り下りができるようになって、少しでもそういったところで体を鍛えていこうという意識で取り組んでいる映像です。
子どもたちはいつの時代も元気で活発に遊びながら、心も体も育っていくものだと思います。今の子どもを取り巻く環境は、健全に育つ環境とは言い切れないと思っています。子どもたちが全身を動かし、意欲的で、心も体も育つためには、ある意味、非日常的な環境をつくっていくことも、私たち保育士の役割だと思います。限られた環境の中でも、保育士が楽しい遊びをいっぱい提供して、楽しく遊ぶ子どもたちの姿を通して、またできることを創意工夫しながら、子どもたちの育ちを見守っていきたいと思っています。
これで終わります。ご静聴ありがとうございました。(拍手)
前川どうもありがとうございました。
特に今のお示しになったことでわからないことがあったら質問してください。よろしいですか。写真で実例をお示しになってくれたのだと思うんですけど、何かさらにありましたら、後ほどの質問の用紙に書いておいてください。具体的にお答えいたします。
先生、ありがとうございました。
次は、東間掬子先生に、「仲間遊びが自然に発現する遊びの環境」ということでお話をいただきます。
東間先生は、元杉並区立保育園の園長をなされておりました。そのとき、子どもの遊びがいかに貧しいかにお気づきになり、今日までいかに子どもの遊びが出てくるかということを研究されております。仲間遊びに役立つ、いろいろな遊具を工夫、作成し、それを実際に使用してこられました。この研究は、現在でも続いております。すばらしい方です。保育園指針などに遊びのことが記載されてありますけど、そのとおりにしても子どもの遊びが発展しません。仲間遊びの実践的なお話をぜひお聞きください。
先生、よろしくお願いします。
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