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予防接種はなぜ効くか、なぜ必要か。

防衛医科大学校 小児科講座 教授 野々山 恵章 先生

予防接種はなぜ効くか(2)

b 毒素の中和

抗体は毒素を中和する働きがある。外毒素が病因の細菌感染のワクチンに関しては、ジフテリアと破傷風が代表的である。したがってこれらの疾患では、ワクチンは抗外毒素抗体を作らせることが目的となっており、外毒素を不活化したトキソイドを予防接種として用いている。破傷風ワクチンは、追加免疫が必要で、10年に1回の追加接種により抗体を維持しておくことが望ましい。

ジフテリア、百日咳、破傷風が混合ワクチンとなり3種混合ワクチン(DPT)として、生後3ヶ月から接種されている。I期は3ヶ月から3〜8週開けて3回、一年後に追加で1回接種し、Ⅱ期は11歳でDT(ジフテリア・破傷風2種混合ワクチン)を0・1㏄接種する。最近の成人百日咳の流行により、DPT接種前の乳児に百日咳が感染し、重症化し無酸素脳症などを起こしているので、DPTの3ヶ月児 からの接種の推進と、将来的にはⅡ期のDTをDPTに変更して成人百日咳の流行を抑える事が望まれる。

c オプソニン効果
 莢膜(⑧)(きょうまく)を持った細菌は、好中球(⑨)やマクロファージ(⑩)などの食細胞による貪食により処理される。しかし、抗体が存在しないと、捕捉できない。IgG抗体は抗莢膜抗原に対しⅤ領域(⑪)が結合し、Fc部分(⑫)が食細胞のFcレセプター(⑬)に結合し、細菌と食細胞をつなげて、食細胞による細菌の貪食が効率よく行うようにする効果がある。これをオプソニン効果とよぶ。

インフルエンザ桿菌b型ワクチン(Hibワクチン、アクトヒブ)は、インフルエンザ桿菌b型の莢膜抗原(polyribosyl-ribitol-phosphate, PRP) にタンパク(テタヌストキソイド)を結合させた不活化ワクチンである。莢膜抗原に対する特異抗体産生を誘導し、特異抗体はオプソニン効果によりHibの貪食・殺菌を誘導する。Hibワクチンは、自然感染によっても特異抗体があがりにくい乳幼児においても、アジュバントとしてタンパクを結合させているため、T細胞の活性化を起こし、ヘルパーT細胞によるB細胞補助機構により、特異抗体産生を誘導することが出来る。Hibワクチンの有効性は、欧米でのHib感染症の激減により証明されている。国内でもようやく接種可能になった。なお、Hib感染症に罹患した乳幼児でも、抗体の確実な上昇を得るために、Hibワクチンを接種すべきである。公費助成が開始されている。

肺炎球菌に対する予防接種は、肺炎球菌莢膜抗原を用いたワクチンであり、Hibワクチンと同様に、抗体産生誘導によるオプソニン効果が感染防御の主体である。

ニューモバックス(Pneumococcal polysaccharide vaccine, PPV23)は、23種類の肺炎球菌に対して抗体を誘導できるようにしたワクチン(23価)であるが、莢膜抗原の繰り返し配列による抗原特異的B細胞(⑭)の活性化であり、T細胞免疫を惹起(現れるように)しない。したがってメモリー形成も得られにくく、反復接種では逆に抗体産生誘導能(⑮)が低下するとされている。2歳以下の乳幼児にはニューモバックスは効果が期待できない。これは、2歳以下では、T細胞の補助がないと特異抗体を産生できないためと考えられている。また、2歳以下では肺炎球菌抗体が主に属するIgG2サブクラス(⑯)の発達が遅く、低値である。したがって、乳幼児では肺炎球菌に対する感染防御機構が極めて不十分であり、重症感染症の起炎菌となっている。

7価肺炎球菌結合型ワクチン(Pneumococcal conjugate vaccine、PCV7、プレベナー)は、タンパク結合によりT細胞免疫を惹起し、乳幼児にも抗体産生を誘導できるようにしたワクチンである。欧米では定期接種化され、7価の肺炎球菌に対しては効果を示している。しかし、7価以外の肺炎球菌感染予防は得られないため、7価以外の肺炎球菌の撲滅をめざし、より多価のワクチンの開発が進み、現在13価の蛋白結合肺炎球菌ワクチンが治験に入っている。肺炎球菌は90種程度存在するが、多価ワクチンの製造に技術的な困難があるため、乳幼児期に特に頻発する7種を対象にして7価ワクチンは製造され、その後13価へと進んできている。公費助成が5歳までの限定であるがされている。

(2)予防接種におけるT細胞の役割

a キラーT細胞によるウイルス感染細胞の破壊

CD8陽性キラーT細胞(⑰)は、MHC クラスI(⑱)とともに提示されたウイルス抗原を認識し、感染細胞を破壊する。これによりウイルス感染細胞は排除される。麻疹、水痘、ムンプスなどの一般ウイルスでは、キラーT細胞による感染細胞の破壊が、感染制御の主体である。これらのウイルスは、隣接する細胞に感染して行くが、抗体は細胞内に入り込めないので、細胞内でウイルスを中和することができない。キラーT細胞による感染細胞破壊が必要である。抗体は、一次増殖後のウイルス血症の際に中和したり、キラーT細胞により破壊されて放出されたウイルスを中和する効果がある。したがって、これらのウイルスの予防接種には、抗体産生誘導に加え、キラーT細胞を誘導する生ワクチンが用いられる。

水痘ワクチンは、帯状疱疹の予防にも用いられる。水痘の既往者では、加齢とともに、抗体は低下していなくても、水痘皮内反応で検査される細胞性免疫が低下する。細胞性免疫が低下した場合、抗体が存在しても、帯状疱疹を発症するリスクが高まる。水痘ワクチン接種により水痘抗体とともに細胞性免疫を上昇させ、帯状疱疹の発症、帯状疱疹後神経痛を半減させることがアメリカでの大規模スタディで明らかになり、50歳を過ぎた時点で水痘ワクチンの接種が勧められている。細胞性免疫が、ウイルスの増殖抑制に重要な役割を果たしていることが、この事実からも示される。

b ヘルパーT細胞によるマクロファージの活性化と細胞内寄生菌の殺菌

結核などの細胞内寄生菌の感染防御にはマクロファージによる殺菌が重要である。すなわち、細胞内寄生菌はマクロファージに貪食され、細胞内に寄生する。マクロファージは寿命が長いので、殺菌しないと感染が持続ないし潜伏することになる。マクロファージを活性化して殺菌能を誘導するのは、ヘル パーT細胞により産生されるIFN-γ(インターフェロンγ)である。したがって、結核の感染予防は、結核菌特異的なヘルパーT細胞の誘導が重要である。

BCGは、抗原特異的ヘルパーT細胞を誘導する。ヘルパーT細胞は結核の侵入によりIFN-γを産生し、マクロファージを活性化する。活性化されたマクロファージは貪食した結核菌を殺菌する。すなわち、BCGはT細胞免疫を誘導することにより結核を予防する。T細胞免疫が得られているか確認するために、ツベルクリン反応を用いることができる。結核抗原に感作されたT細胞は、皮内でサイトカイン(⑲)を産生し、発赤を起こす(Coombs Ⅳ型遅延型アレルギー反応)。結核感染の有無を判定するためにも用いられてきたが、BCGによる感作と区別することが困難である。最近、in vitro(試験管の中で)で感作されたT細胞が産生するIFN-γを測定することで、結核感染の評価を行う方法が開発されている(クオンティフェロン QFT)。感作させる抗原がBCGに含まれていないため、BCG接種に影響を受けないという特徴がある。

 

⑧莢膜
 細菌が膜表面に持っていて、好中球に捕まえられないようにしている構造。
⑨好中球
 細菌を貪食し、殺菌する機能を持つ白血球。
⑩マクロファージ
 細菌を貪食して殺菌したり、ウイルス抗原をT細胞に提示して感染の元であると言うことを知らせる働きがある。
⑪V領域
 抗体の上半分にあり、抗原の多様性を認識する部分。
⑫Fc部分
 抗体のY字の下半分の部分。
⑬Fcレセプター
 Fc受容体たんぱく質。
⑭抗原特異的B細胞
 抗原に特異的な抗体を産生するB細胞。
⑮抗体産生誘導能
 B細胞が抗体を産生するための機構。
⑯IgG2サブクラス
 IgGにはIgG1からIgG4までの4種類があるが、そのうちの一つで、ヒトでは肺炎球菌の死産感染の時の中和抗体となる。
⑰CD8陽性キラーT細胞
 キラーT細胞と同じ。キラーT細胞は表面にCD8という蛋白を発現している。
⑱MHCクラスⅠ
 ヒト細胞が持っている表面分子で、ヒトによって個々に異なる。これが一致していると自己の細胞だと免疫系が判断する。
⑲サイトカイン
 免疫系のネットワークを作る液性因子
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