まとめ

疾病は、身体に直接の障害を与えるとともに、患者の心理、ひいては社会にも影響を与えます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はその最たる例と言えるでしょう。小児のCOVID-19は出現当初は比較的軽症と考えられていましたが、2022年1月以降はオミクロン株の台頭で小児感染者が急増し、一部で心筋炎や脳症などの重症例もみられるようになりました。また、罹患後に長期にわたって味覚・嗅覚の異常や疲労感が続き、その影響から日常生活がままならない子どもの患者も増加しています。長期にわたる行動制限は子どもに特に大きな影響を与えてきましたが、乳幼児の発達の遅れや、学童期以降では抑うつや不登校の患者増が確認されています。2020年における児童生徒の自殺者が2019年比で100人も増加したことを鑑みると、この時期の小児におけるCOVID-19の最大の負荷は社会心理学的な側面にあったといえます。現在、感染対策が緩和されつつあるなかで、感染はいずれ不可避と考えられます。すると子どもの心身の健康のために出来る現実的な対策はワクチン接種が中心となります。現行のワクチンはオミクロン株に対する感染そのものの予防効果は高くないものの、重症化や合併症を防ぐことが出来ることが明らかになりました。これは、接種をうけた子ども自身の身体を守るだけではなく、自由な社会生活を営む上での安心材料になります。


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感染症について考える場合に、通常は原因となる微生物がヒトに与える影響について説明するのが一般的ですが、COVID-19については、身体だけではなく、こころや社会的な影響も踏まえて考える必要があります。今回はCOVID-19が子どもに与える影響を身体、こころ、社会的な側面をふまえて解説します。