3.気になる子どもとその対応「発達に課題がある子どもや家庭に問題がある子どもへの対応」(4)
発達障害の方にとって、生涯にわたり適応困難のハイリスクとして、幼児期の叱責による虐待のリスク、そして、園での不適応があると言われていることから、決して叱責してはいけないと思っています。
先ほど、園でのお子さんの様子に保護者が気づきにくいと言いました。これは、気づきの種類です。保護者と周囲の人、周囲の人には、園の先生方も入ります。
保護者も周りの人も気づいている場合、これは、ひどい偏食などがそうです。保護者も、それから、園の先生たちも、ひどい偏食には気づいています。
ただ、このようなときも、保護者は単なる好き嫌いだと考えていますが、周りの人は、こだわりの1つだと考えている場合もあり、その内容については、お互いの理解が必要になります。保護者が気づいていて、周りの人、保育園の先生たちが気づいていない場合には、園では何も問題なく過ごしていますが、家庭では、夜泣きが多く、親がへとへとに疲れていますが、子供はこんなものと思い込んで我慢している場合です。
周りは気づいているが、保護者が気づいていない場合、これが、園で最も問題になる場合ですけれども、家庭では困っていることはありませんが、園では、お集まりに座っていられない、遊びのルールが守れないなどです。これは、なかなか気づきにくいです。
保護者も周りも気づいていない場合、例えば、分かりにくいチックやいじめがあります。
では、保護者が気づいていない場合に、どのように説明したらいいでしょうか。
まず、
1、事実をはっきり伝える。
2、子供の成長の見通しについて話す。
3、園での取組について話す。
4、家での接し方について話す。
5、保護者の話を十分に聞く。
6、 保護者の思いを受け止める。子育てを褒め、保護者を褒めます。
例えば、園になかなか慣れず、集団での活動に参加できないときに、1つの例えですが、「今日も尻尾取りゲームをしましたが、今日も一緒に遊べませんでした」と事実を話します。
「まだ1学期の初めで慣れていないので、1学期の終わりには慣れて、一緒にできるようになるかもしれません」と、見通しを伝えます。
「みんなで遊ぶときに、必ず前もって声かけしておきますね」と、園の取組について話します。
「おうちでは、『あしたは尻尾取りゲームをするらしいよ』と予告してくださいませんか」と、家での接し方を提案します。
「予告は可能でしょうか」と、保護者の意向を聞きます。その際に、パパや兄弟、ママのことなど、家庭の様子を十分聞くようにします。
「まだ小さいお子さんがいらっしゃるのに、よくお世話されていますね」などと、保護者を褒めます。
そして、「1学期の終わりにまだ慣れないようでしたら、そのときはまた一緒に考えましょう」と、期限を決めておくのもいいと思います。
園で丁寧に対応してもらっても改善しないときに、保護者もなぜかと考え出します。それまで対応しながら、支援を続けます。保護者がなぜだろうと考えたときに、専門機関に紹介するタイミングになるかもしれません。
気になることを伝えようとする際に、発達障害が疑われるようなことを伝えようとすると難しいです。また、発達障害かもしれないと、心配させようとしていないでしょうか。それを伝えようとするのはとても難しいと思います。
保護者へのアドバイスの方法として、例えば、言葉が遅いお子さんに絵本を読んでもらいたいときに、「言葉を増やすのに絵本はいいですよ」と、一般的なアドバイスだけでは届きにくいです。「お子さんの言葉の数を増やしたいので、絵本を読んでいただけますか」と、直接的な依頼をします。
ただ、保護者自身が経験していないことは、実践することが難しいです。絵本を読んでもらった経験がないときには、どんな本を、いつ、どんな声で読むのか、想像できません。
そこで、「この本をお貸ししますね」、「自宅でいつ読めますか」、「食後ですか」、「入浴後ですか」、「寝る前ですか」、「どこで読みますか」、「リビングですか」、「ベッドの中ですか」などとアドバイスの内容をより具体的な生活場面に落とし込んであげます。
その後、「毎晩は無理で、1週間に1回ぐらいです」と報告されたら、「すごい。ありがとうございます。読んでいただいているんですね。1回でもいいんですよ」と、負荷をかけないことがコツです。「よくやってもらって、ありがとうございます。今のまま続けていきましょう。読めなくなったときは、次の手を一緒に考えましょう」などの言葉かけをします。
気になる子供たちへの障害の診断についてですが、通常の病気は、診察をして、診断をして、治療の流れで行っています。例えば、熱が出て、診察と検査をして、インフルエンザの診断をし、タミフルなどの薬を処方して、治療をします。
しかし、障害の場合には、診察、治療・対応をして、診断という流れで私は行っています。
私は、一度失敗したことがあります。
「子供のけんかをやめさせるのにどうしたらいいか」という相談に来られたときに、「お子さんには発達に課題があるかもしれません」と言ったところ、「どうしたらけんかをやめさせるか聞きに来たので、そういうことを聞きに来たのではない」と、御両親が立腹して帰られたことがあります。
障害という診断は、一生治らないということを意味します。発達障害は、根本的に治すことはできませんが、適切な対応によって、社会生活ができるようになる可能性があります。そのため、診断よりも対応を先に行っており、医療機関に行っても、すぐに診断されないというときは、そういう理由もあります。
診断する際に注意していることは、楽観的に言い過ぎないこと。悲観的に言い過ぎない。脅しの医学にならないことです。そして、診断するときには、親や家族の育児の励みになるようなときに、また、診断が子供にとって役に立ち、子供が生活を楽しみ、充実感が味わえるようにしたいと考えています。障害の診断は、相手が求めるときにしたいと思っています。
最後に、環境の話をします。
発達障害の子供たちが、大人になって社会参加するときのために小児期に必要なことは、家庭環境の安定、家族の本人への状況理解、精神的な安定、成人期の社会参加を目指す教育、本人自身の状況理解と、日本小児神経学会で示されています。
私は、発達障害の方だけではなく、全ての子供たちがこれらに当てはまり、その中でも家庭環境の安定が重要だと思っています。
ある研修会の後に、「園も家庭にそこまで踏み込んでいいのですね」と言われたことがあり、もう家庭の中には触れないという時代ではないと思います。
家庭環境の安定に養育者の精神の安定があります。
鬱の有無を確認することは重要です。鬱のスクリーニングに二質問法があり、1、この1か月間、気分が沈んだり、憂鬱な気持ちになったりすることがよくありましたか。2、この1か月間、どうも物事に対して興味が湧かない、あるいは心から楽しめない感じがよくありましたかと聞く方法です。
どちらか一方でもあれば、鬱状態と言えます。
この質問も、なかなか実際には使いにくい。そういうときには、「ここのところ、どうですか」、「眠れていますか」、「食欲はありますか」と尋ねるのはいかがでしょうか。もし気になるときは、速やかに区市町村の相談部署と連携をします。
保護者の疲れた様子、逆に、いつもより元気が良過ぎるときにも気をつけます。
虐待の背景に、DVがあることは知られてきています。子供の前でのDVは、心理的虐待となります。
配偶者暴力防止法では、DVによるけがや疾病になったものを発見した者は、配偶者暴力相談支援センター、または警察に通報するよう努めること。医師及び医療関係職は、本人の意思を尊重しつつ、通報するよう努めなければならない。また、本人には相談先などについて情報を提供するよう努めなければならないとあります。
DVを発見する質問として、「嫉妬深いですか」、「傷つけることを言った後に、急に優しくなったりしますか」、「家族や友人と出かけるのを嫌がりますか」、「気分が急変し、別人のようになりますか」、「急に機嫌が悪くなって、物に当たったりしますか」、「自分の失敗をほかの人のせいにすることがありますか」、「性行為を強要することがありますか」、「過去の交際関係を執拗に尋ねられませんでしたか」などの質問があります。
しかし、実際にこれを聞くのはとても難しく、そういうときには、「夫婦間できついなと思うことはありませんか」などと聞くのはいかがでしょうか。
また、夫婦がステップファミリーの場合や、別居や離婚の危機になった際は、子供に虐待のリスクが高まることがあることを知っておいてほしいと思います。
養育者に精神疾患がある場合に、どんな家庭であるのか、どんな養育者であるのかを知っておく必要があります。
そこで、成育歴に着目し、養育者の課題や、子供の頃の成長・発達の状況を日頃の会話から拾っていきます。
例えば、「お生まれはどちらですか」、「どんなお子さんでしたか」、「パパとどこで知り合ったのですか」などと、関係を深めながら聞き取っていきます。
また、転居は、子供の家庭環境に影響します。社会的な関係が、転居によって途切れてしまうからです。
わざと関係を転居によって断ち切っていることもあるので、転居の理由を聞いておくのが大切です。「こちらにはどういうことで引っ越しされましたか」、「そちらにはどういうことで引っ越しされますか」。その理由が、誰もが納得いくものであることを確認します。
では、ここで、まとめに入る前に、時間が少しありますので、私は1つ、絵本を読みたいと思います。
先ほど、話の中で紹介をした『おこだでませんように』という本です。私は、こういう研修、話をするときに、この絵本をいつも読んでいます。
さあ、今日のまとめです。
子供の発達を理解すること、子供の声を聞くこと、心身や生活を確認すること、養育状況など、家庭を知ること、保護者の成育歴など、保護者のことを知ること、このようなことを園全体で、組織全体で対応することだと思っています。
これで、私の話を終わります。御清聴ありがとうございました。(拍手)